弁護士コラム

DCF法で事業価値を計る

ファイナンス
執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

保有資格 / 弁護士・MBA・税理士・エンジェル投資家

経済
例えば、企業の買収等、M&Aでは、事業価値を計ることが重要です。

事業の価値も、他の資産の金銭価値と同じように、DCF法を使って、その事業が将来生み出すキャッシュフローの現在価値として計算できます。

なお、DCF法についてはこちらをごらんください。

とはいえ、事業を取り囲む環境は、絶えず変動し、不確定であることから、将来生み出すキャッシュフローについて、未来永劫、すべて同じように予測できるわけではありません。

そこで、キャッシュフローの予測については、
・ 予測可能な期間の各年度のキャッシュフローと
・ それ以降の期間の価値
に分け、その合計値として算出する方法が多く取られています。

この「それ以降の期間の価値」は、「残存価値」と呼ばれます。

 

残存価値

残存価値は、次の考え方で計算方法が異なります。

継続法

事業がその後も長期にわたって継続すると考える場合に使用します。多くの場合、永久年金型か、割増永久年金型のキャッシュフローを想定しています。

年金型のDCF法についてはこちらをごらんください。

精算法

その年度で事業を生産すると考える場合に使用します。

マルチプル法

その年度で他者に事業を売却する場合に使用します。

 

DCF法以外の事業価値の測定

なお、DCF法以外の事業価値の算定方法としては以下のものがあります。

マーケット・アプローチ

これは、当該事業を市場に出せば、どの程度の価格で取引されるかを推定する方法です。

実際に、過去に取引事例があれば、それを参考とします。ない場合、類似の業種の取引事例に一定の係数をかける「マルチプル法」が使用されます。

コスト・アプローチ

これは、当該事業を新たに作るとしたら、どの程度のコストがかかるかを推定する方法です。

例えば、固定資産、人的資源など、資産を個別に評価して合計します。

 

フリー・キャッシュフロー

DCF法で、事業価値を測定する際の「その事業が将来生み出すキャッシュフローの算出」には、通常、フリー・キャッシュフロー(FCF)を使います。

フリー・キャッシュフローは、次の式から算出します。

FCF計算式

WCは、ワーキング・キャピタルのことで、以下の式で算出されます。

WC = 流動資産 -(有利子負債を除いた)流動負債※
※ 買掛金等となります。

すなわち、フリー・キャッシュフローは、ビジネスから得られるリターンからビジネスへの投資を控除したものとなります。

⊿WCは、成長にともなうワーキング・キャピタルを意味します。

すなわち、成長が著しい企業は、毎年、WCが増加していきます。通常、流動資産の方が流動負債よりも大きいため、売上に連動してWCが増えるからです。

したがって、WCの増加分を何らかの形で資金確保しなければなりません。この資金を手当する方法はいくつかありますが、ファイナンスでは、事業が生み出したキャッシュフローの中から確保すると考えます。これがフリー・キャッシュフローの計算式で⊿WCをマイナスとする理由です。

 

 


カテゴリ「ファイナンス」の弁護士コラム

  • 資金繰り 弁護士 西村裕一 ファイナンス 
    企業にとって現在資金繰り対策が急務です。手元流動性という指標を参考に、自社にどの程度のキャッシュを確保していくのか、そのために銀行の融資交渉や売掛金の回収、家賃の支払猶予などの交渉を行っていく必要があ...[記事全文]
  • 弁護士 宮崎晃 ファイナンス 
    通常、ベンチャーにとって、証券取引所への上場(IPO)が大きな目標となります。上場までにベンチャーは4つのステージを経ます。 創業して初期の企業は、「シード」(種)や「アーリー」などと呼...[記事全文]
  • 株式チャート 弁護士 宮崎晃 ファイナンス 
    DCF法において、フリー・キャッシュフローを現在価値に割引く割引率は、加重平均資本コスト(WACC))を使用します。上記の式のパラメータにおいて、最も算出するのが難しいのが株主資本コストです。この算出...[記事全文]
  • 弁護士 宮崎晃 ファイナンス 
    M&Aなどでは、企業の価値を適切に算定する必要があります。企業価値を定量的に算定する方法としては、DCF法が代表的ですが、将来のフリー・キャッシュ・フローやWACCなど、複雑な予測が必要です。マルチプ...[記事全文]
  • 弁護士 宮崎晃 ファイナンス 
    M&Aなどでは、企業の価値を適切に算定する必要があります。企業価値を定量的に算定する方法としては、1つの決定的な正解があるわけではなく、さまざまな手法があります。ここでは、代表的な3つの手法について、...[記事全文]
  • 弁護士 宮崎晃 ファイナンス 
    DCF法で企業価値を算定する非上場会社等の場合、株式の時価がマーケットで公開されていません。そこで、企業価値を算定するのはやや複雑となります。ここでは、オーソドックスな手法、DCF法で算定する方法をご...[記事全文]
  • 弁護士 宮崎晃 ファイナンス 
    資本コストは、債権者へのコストと株主へのコストを加重平均することで計算できます。WACCは、株主資本コストと負債コストをそれぞれの時価で加重平均するということです。企業この値を上回る利益を上げてはじめ...[記事全文]
  • 弁護士 宮崎晃 ファイナンス 
    買収のような場面では結局いくら支払うこととなるかを把握することが重要です。支払うこととなるトータルの金額を把握するためにネット・デットをプラスします。企業価値の算定は、上場企業の場合、マーケットが価格...[記事全文]
  • 弁護士 宮崎晃 ファイナンス 
    企業は投資なくしては、企業価値を高めることはできません。投資の判断は、経営において最重要といえます。企業が投資の意思決定を行なう際の判断手法としては、正味現在価値(NPV)法と、内部収益率(IRR)を...[記事全文]
  • 弁護士 宮崎晃 ファイナンス 
    事業の価値も、DCF法を使って、その事業が将来生み出すキャッシュフローの現在価値として計算できます。予測には予測可能な期間の各年度のキャッシュフローとそれ以降の期間の価値に分け、その合計値として算出す...[記事全文]
  • 弁護士 宮崎晃 ファイナンス 
    資産(例えば、賃貸マンション、工場、債権)の金銭的価値は、それらが将来生み出すキャッシュフローの現在価値(PV)の総和となります。資産の金銭的価値を、それらが将来生み出すキャッシュフローの現在価値とし...[記事全文]
  • 弁護士 宮崎晃 ファイナンス 
    ファイナンスとは、企業がどのように資金を調達し、どのように 資金を運用していったらよいのかを考える経営学の一分野です。ファイナンスで学ぶことは「もの」の価値を評価して価格をつける技法で、ファイナンスで...[記事全文]
企業の相談は初回無料 企業の相談は初回無料