弁護士コラム

取締役は辞任できる?【弁護士解説】

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取締役の辞任とは

取締役とは、株式会社の取締役会の構成員として、会社の業務執行に関する意思決定や監督を行う者のことをいいます。

株式会社には、1名以上の取締役が必要であり、取締役会設置会社や委員会設置会社においては3人以上の取締役を置かなければなりません。

取締役の辞任は、このような重要なポジションにいる者が自らの職を辞することを意味するので、後述するようなトラブルが発生する可能性があります。

取締役と会社との契約関係

取締役と会社との関係は、民法の「委任」に関する規定が適用されます(643条〜656条)。

この点、いわゆる通常の従業員(労働者)とは契約の性質が異なります。労働者には、民法の「雇用」に関する規定(623条〜631条)や労基法等の労働法令が適用されます。

取締役と労働者が異なる点は多々ありますが、取締役は独立性が強く、自ら経営判断を行うのに対し、労働者は会社の指揮・命令に服するという点に重要な違いがあります。
また、取締役は権限が大きい分責任も重く、会社に対しては善管注意義務や忠実義務という重い責任を負っています。

取締役 労働者
独立性 強い なし
会社への義務 大きい 小さい

 

なお、企業(委員会設置会社を除く)において、労働者が取締役を兼務していること(例えば、「取締役営業部長」など。使用人兼務取締役と呼ばれています。)をよく見かけますが、このような兼務も可能と解されています。

取締役が辞任する方法

取締役の場合、労働者と異なって任期があります。

取締役の任期は、「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」となっています(会社法332条)。
もっとも、定款又は株主総会の決議によって、その任期を短縮(例えば1年など)することが可能です。
また、非公開会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)においては、定款によって、任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸ばすことが可能です。

この任期が満了しているのであれば、辞任の必要はありません。

したがって、任期がはっきりとしていない場合、まずは定款等で任期がいつまでかを確認することが重要です。
特に、中小企業の場合、定款を適当に作ったり、定款の内容を把握していないケースが見受けられます。

任期満了を待てない場合

経営陣の不和、病気等何らかの事情があって任期満了を待つことができない場合、辞任について検討することとなります。

前記のとおり、取締役と会社との契約関係は委任契約です。

民法は、委任契約の解除について、次のとおり規定しています。

第651条 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。

民法の規定からすると、取締役はいつでも自分の意思で辞任することが可能です。

辞任の方法として、民法は特に規定していません。そのため会社(その代表者)に対する口頭での意思表示でも法律上は辞任できます。

もっとも、トラブル防止の観点からは、辞任の意思は書面の方がよいと考えます。

なお、取締役の辞任届については、当事務所のホームページに掲載しており、サンプル書式を無料でダウンロード可能です。
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特殊な場合の辞任

①代表取締役の場合

取締役会設置会社の唯一の代表取締役が辞任する場合、原則として取締役会を招集し辞任の意思表示をなす必要があると考えられています(東京高判昭和59.11.13)。

なお、別の方法によって取締役全員に辞任の意思が了知された場合、辞任の効力を認める裁判例があります(岡山地判昭和45.2.27)。

ただし、上記の岡山地裁の判例は、会社が正常な状況ではない場合の事例ですので、基本的には取締役会を招集すべきでしょう。

また、代表取締役が欠けた場合又は定款で定めた代表取締役の員数が欠けた場合、任期の満了又は辞任により退任した代表取締役は、新たに選定された代表取締役が就任するまで、なお代表取締役としての権利義務を有します(会社法351条1項)。

なお、この場合、裁判所は、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより、一時代表取締役の職務を行うべき者を選任することができます(同条2項)。

②取締役が他にいない場合
取締役会非設置会社に置いて、唯一の取締役が辞任する場合、どうすればよいかが問題となります。

この場合、裁判例において、幹部従業員に対して辞任の意思表示受領権限を与えた上で、これに対して意思表示することで処理できるとしたものがあり(仙台高判平4.1.23)、参考となるでしょう。

辞任のデメリット

①会社に対する損害賠償義務

裁判民法は、委任契約について、解除は自由に認めつつ、次のような規定をおいています(651条2項)。

当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。

したがって、取締役は、会社に不利な時期に辞任した場合、損害賠償義務を負う可能性があります。
「不利な時期」とは、例えば、引き継ぎに十分な期間を設けずに一方的に辞任したような場合が該当すると考えられます。

この場合、「やむを得ない事情」があれば損害賠償義務を負いませんが、その主張立証責任は当該取締役にあると考えられます。

②第三者に対する損害賠償義務

取締役等の株式会社の役員等は、その職務を行うについて悪意又は重大な過失があったとき、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(会社法429条1項)。

また、計算書類の重要事項についての虚偽記載や虚偽の登記・広告を行った場合も、第三者に対して賠償責任を負います。この場合は軽過失でも責任を負います。

取締役が辞任した後、会社が退任の登記をしていない場合、上記の第三者に対する賠償義務が問題となることがあります。

この点、裁判例において、辞任した後、不実の登記を残存させることにつき登記申請者に明示的な承諾を与えていたような場合、賠償義務が認められるとしたものがあります(最判昭62.4.16)。

問題解決の方法

上記の問題点を踏まえたトラブル防止法について解説します。

①協議での解決が望ましい

取締役の任期途中での辞任は法的には可能ですが、会社に対する賠償義務などのトラブルが発生する可能性を秘めています。

そのため、可能であれば経営陣間でよく話し合って、協議で解決した方がよいと考えます。

②会社への配慮を行う

円満退任が難しい場合、辞任という選択肢を取らざるを得ませんが、その場合であっても会社の負担を小さくするように配慮すべきです。

例えば、期間的な余裕をもって辞任の意思表示を行うなどです。
また、引き継ぎに積極的に協力するなども重要です。

このような配慮を行うことで、会社からの損害賠償請求の可能性が小さくなると考えられます。

③辞任通知は書面で行う

取締役の辞任は口頭でも可能ですが、できるだけ書面で行った方がよいでしょう。
また、当該書面は内容証明郵便(配達証明付)で行ったり、コピーを取っておくなどしておくとよいと考えます。

④関係者への通知

会社の代表者が役員の退任登記を行ってくれない場合、会社に対する訴訟提起などを検討しなければなりませんが、解決までに長期間を要します。
そのような場合、取引先などに対して、退任の事実を通知して知ってもらうとよいでしょう。


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