弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

労働審判とは、会社と従業員等とのトラブルについて、原則3回以内の期日で、迅速に解決する裁判所の手続きのことです。
通常の裁判と比べて早く・柔軟に解決できるメリットがある一方で、準備期間が非常に短く(第1回期日まで約1ヶ月)、申立書や答弁書での主張が結果を大きく左右します。
そのため、解決金の相場や費用の目安を知り、適切な見通しを立てることが重要です。
この記事では、労働問題に注力する弁護士が、労働審判の手続きの流れ、必要書類、費用や解決金の相場について、実務の視点からわかりやすく解説しています。
今後の対応を決めるための重要な判断材料として、ぜひ参考になさってください。
目次
- 1 労働審判とは
- 2 労働審判の特徴・労働裁判(訴訟)との違い
- 3 労働審判を申し立てられる4つの労働トラブル
- 4 労働審判の対象とならないもの
- 5 労働審判は従業員側が有利?成功率はどれくらい?
- 6 労働審判のメリット・デメリット
- 7 労働審判に向いている人・向いてない人
- 8 労働審判の費用はいくら?誰が払う?
- 9 労働審判の申立書の書き方と提出方法
- 10 労働審判の手続の流れ
- 11 労働審判によって得られる結果は3種類
- 12 労働審判にかかる期間
- 13 労働審判は自分でもできる?
- 14 もし労働審判に負けたら?不服がある場合の異議申し立て
- 15 労働審判を弁護士に依頼するメリット
- 16 労働審判についてのQ&A
- 17 まとめ
労働審判とは
原則3回以内の期日で解決できる手続き

労働審判とは、会社と従業員等とのトラブルについて、裁判官1名と専門家(労働審判員)2名で構成された委員会が、原則3回以内の期日で迅速に解決する手続きのことです。
話し合い(調停)による柔軟な解決を試み、まとまらない場合は審判(決定)を行うという、紛争解決手続です。
労働審判の特徴・労働裁判(訴訟)との違い
労働審判は、通常の労働裁判と比較して「早さ」「柔軟さ」「非公開」などの点で大きな違いがあります。主な違いは以下の表のとおりです。
| 比較項目 | 労働審判 | 労働裁判 |
|---|---|---|
| 早期解決の可能性 | 圧倒的に高い | 低い |
| 柔軟な解決の可能性 | 裁判より高い | 労働審判より低い |
| 公開の有無 | 非公開 | 公開 |
| 裁判官以外の関与 | 関与 | 関与しない(基本) |
①解決までのスピード
労働裁判の場合、平均審理期間は16.1ヶ月です。
これに対し、労働審判は90.7日となっています(2024年統計)。

参考:2024年|裁判所「地方裁判所における民事第一審訴訟事件の概況及び実情」
労働審判の場合も、結果に納得できなければその後労働裁判で争うことになるため、状況しだいでは、長期化する可能性はあります。
しかし、上記統計データから、仮に労働審判で解決できた場合は、通常の裁判と比べて圧倒的に早く解決できるといえます。
②柔軟な解決が可能
労働裁判での判決は、白か黒かの判断しかありません。
例えば、会社から解雇された従業員が解雇無効の労働裁判を提起した場合、「本当は復職ではなく、解決金をもらいたい」と思っていても、その意向に沿った判決は得られません。
あくまでも解雇が無効か有効かについての判断が示され、確定すると法的な拘束力が生じます。
これに対し、労働審判の場合、労働審判委員会は、和解による解決を積極的に勧めてきます。
なお、労働裁判も和解することは法的に可能であり、他の一般民事訴訟と比べて、和解によって終了することは多くあります。
しかし、労働裁判の和解の割合は62.2%であるのに対し、労働審判の和解の割合は65.6%となっています(調停成立)。
したがって、労働審判は、労働裁判の場合よりも、柔軟な解決の可能性が高いと思われます。

参考:2024年|裁判所「地方裁判所における民事第一審訴訟事件の概況及び実情」
③原則「非公開」でプライバシーを守れる
労働裁判は、原則公開されています。
すなわち、事件に関心がある者は誰でも傍聴できることになります。
これに対して、労働審判は原則として非公開で行われます(労働審判法16条)。
したがって、当事者がトラブルの内容を絶対に知られたくない場合、労働審判の方が適しているといえます。
④裁判官以外の専門家が関与する
上記のとおり、労働審判は、裁判官以外の労働審判員2名(従業員側と会社側)が関与します。
この労働審判員は、雇用関係の実情や労使慣行等に関する詳しい知識と豊富な経験を持つ者の中から任命され、中立かつ公正な立場で、審理・判断に加わるとされています。
労働審判を申し立てられる4つの労働トラブル
労働審判は、すべての紛争で利用できるわけではありません。
労働審判を申し立てることができる事案として、典型的なものをご紹介いたします。
雇用に関するトラブル
不当解雇
正当な解雇理由がないのに不当に解雇されたと主張する従業員からの請求です(正式には「雇用契約上の地位確認請求」といいます。)。
労働審判の中では、最も多いご相談事例です。
雇い止め
契約社員(有期雇用契約)の契約期間満了時に、更新せずに雇い止めした場合、それに納得がいかない従業員から「不当な雇い止めである」との主張がなされることがあります。
不当解雇の事案と比べて、労働審判にまで発展するケースはそれほど多くないという印象ですが、労働審判を提起される可能性は十分あります。
金銭に関するトラブル
未払い残業代請求
従業員から時間外・深夜・休日割増賃金の未払い分を請求される類型です。
不当解雇に次いでご相談が多い事案となります。
ハラスメント被害による慰謝料請求
従業員から会社に対して、セクハラやパワハラ等のハラスメントを理由に慰謝料を請求される事案です。
未払給与及び退職金請求
労働審判では残業代以外の未払い給与や退職金等の金銭請求も可能です。
しかし、それほど多くはない印象です。
労働審判の対象とならないもの
労働組合(ユニオン・合同労組を含む)との紛争
労働組合との団体交渉や不当労働行為の申立て等については、労働審判の対象とはなりません。
会社以外の者に対する慰謝料請求
会社内の事件であっても、相手が会社以外の者(同僚や上司等)の場合、労働審判ではなく、通常の民事訴訟(労働裁判)を利用することとなります。
例えば、セクハラの場合、会社と加害者本人に請求する場合がありますが、労働審判で請求できるのは会社のみとなります。
労働審判は従業員側が有利?成功率はどれくらい?
労働審判の従業員側の成功率(勝訴率)の統計は存在しません。
また、労働審判は調停成立(和解)で終わることも多く、調停成立を成功と捉えて良いかという問題もあります。
もっとも、調停成立の場合には、会社から従業員へ一定の解決金が支払われることが多く、一つの成功と捉えることができます。
そして、調停成立の割合は、2024年で65.6%です。
また、労働審判(通常訴訟でいう「判決」のイメージ)の割合は、2024年で18.9%です。
労働審判は従業員が勝っているケースも負けているケースも含まれていますので、全てを成功の割合に入れることはできません。
これらを総合考慮すると、従業員の労働審判での成功率は、70%〜80%ほどであると考えられます。
参考:2024年|裁判所「地方裁判所における民事第一審訴訟事件の概況及び実情」
労働審判のメリット・デメリット
メリット:和解による柔軟な解決
労働審判の多くは和解で終結するため、和解を望む当事者にとっては労働審判を選択する意義があります。
解決金の獲得と確実な回収
和解は、通常、会社側が一定の解決金を支払うことを和解の内容にすることが多いです。
そして、和解の内容で一定の解決金を支払うものが盛り込まれた場合、ほとんどのケースで会社側が和解の内容で定まった解決金を支払うことになり、確実な回収が見込まれます。
なぜなら、和解の場合は、会社も解決金の額等について了承しているため、「支払うお金がない」(支払能力の問題)などの問題も基本的には生じないからです。
そのため、従業員側にとっては、解決金の獲得と確実な回収というメリットがあるといえます。
非公開によるプライバシー保護
労働審判は、裁判の場合と異なり、審問期日は非公開で行われます。
したがって、トラブルの内容が外部に漏れる可能性は裁判の場合よりも低く、プライバシーの保護という観点で労働審判の方が優れています。
労働審判を活用することで、会社にとっては、対外的な信用を失うリスクを減らすことができるでしょう。
また、従業員にとっても、「会社に対して裁判を起こしている」という事実を知られたくない場合、非公開のほうが望ましいと言えます。
デメリット:スピード重視ゆえのリスクもある
労働審判は、通常の裁判と比べると、はるかに早く解決できます。
その反面、以下のような4つのデメリットが挙げられます。
①裁判官に正しい判断をしてもらえない可能性がある
通常の裁判では、長い期間をかけて、当事者双方が主張を行っていきます。
また、その主張を支える証拠についても、当事者は時間をかけて収集し、取捨選択した上で、裁判所へ提出することが可能です。
相手の手元にある証拠が必要な場合は、各種裁判上の手段を使って開示を求めていくことも可能です。
そして、裁判所は、十分に主張が出揃って争点が明確になってから、慎重に法を適用して判断を下すこととなります。
これにより、誤った判断を防止しています。
労働審判の場合、第1回目の期日までに、当事者が主張を出し尽くすのがポイントとなります。
そのため、主張内容が不十分となってしまう可能性があります。
そして、その主張の適否について、裁判所が検討する時間も限られてしまいます。
したがって、裁判所が誤った事実を認定し、不当な判断となってしまう可能性が懸念されます。
筆者が経験した残業代請求の労働審判で、会社側の代理人として従業員側の主張に多くの反論をして答弁書を提出しました。
もっとも、労働審判の期日では、裁判官は双方の主張や証拠をしっかり検討してくれていないような発言をされていることが多かったと感じております。
これは裁判官が悪いという話ではなく、労働審判という性質上、争点が複雑な場合や争点の数が多い場合には、各争点にあてられる時間が限られているため、一定程度仕方のないことなのです。
②関係者の証人尋問ができない
通常の裁判では、当事者双方が十分に主張し、争点整理が終わると、証人尋問を行います。
労働事件では、当事者の主張内容を裏付けるために、従業員本人のほか、上司や代表者(通常は中小企業の場合)などの尋問を行うことが典型です。
労働審判の場合、このような尋問手続は実務上実施されていません。
※法律上不可能ではありませんが(法17条)、迅速な手続きを重視するため実務上はほとんど実施されていません。
このような証言などは、尋問ではなく、書面(陳述書)を提出する方法で取り調べられることになります。
書面のみの場合は、本人に対して反対尋問を行うことができません。
また、法廷において、本人の応答の様子を直接観察することもできません。
労働審判においても、労働審判委員会から当事者に対して様々な質問がなされるのが通例なので、その際、本人の様子を観察することはできます。
しかし、尋問の場合と異なり、自分が確認したい事項を直接、質問することは通常できません。
仮に質問する機会があったとしても、極めて限定的な範囲に留まります。
また、労働審判の場合、通常の裁判の尋問で実施されている、「偽りを述べない」旨の宣誓や偽証の場合の制裁の告知もありません。
したがって、相手が嘘を伝える可能性があることも懸念されます。
③会社代表者や従業員本人が直接審理に出席する可能性が高い
通常の裁判では、依頼者本人が手続に出席することはほとんどありません。
多くの場合、手続に出席するのは代理人である弁護士であり、会社代表者や従業員本人は、尋問のときに限って出席しています。
労働審判では、通常、第1回目の期日に従業員本人や会社代表者が出席しています。
なお、比較的大きな企業の場合、会社代表者ではなく、状況をよく知る責任者が出席します。
したがって、直接の出席を望まない当事者にとっては負担になると思われます。
④付加金を加算できない可能性が高い
未払い残業代の請求等のケースでは、従業員は本来の請求額に加えて、付加金を加算して請求することができます。
例えば、未払い残業代が200万円の場合、付加金の請求が全額認められると、会社はその同額の200万円を加算し、合計400万円を支払うことになります。
労働審判において、裁判所はこの付加金の加算を認めない傾向です。
なお、裁判においても、会社の悪質性が高くない等の事情があれば、付加金の加算は認められませんが、労働審判と比べると付加金が認められる可能性は高いです。
したがって、少しでも多くの金額を獲得したい従業員の場合、労働審判より裁判のほうが得策といえるでしょう。
労働審判に向いている人・向いてない人
以上のメリットやデメリットなどを踏まえ、労働審判と通常の裁判それぞれに向いているケースを挙げると、以下のようになります。
労働審判がおすすめなケース
- 一刻も早く解決したい場合
- 合意内容に口外禁止条項を入れたい場合
- 復職ではなく解決金がほしい従業員の方
- 会社から任意に支払ってもらう可能性を上げたい従業員の方
通常の裁判がおすすめなケース
- 裁判所に少しでも適切な判断を仰ぎたいと強く思っている方
- 証人尋問等によって事実を明らかにしたいと強く思っている方
- できるだけ直接出席したくないと思っている方
- 時間がかかってでも、少しでも多くの金額を獲得したい従業員の方
労働審判の費用はいくら?誰が払う?
ここでは労働審判の費用面について解説いたします。
労働審判の費用の内訳
弁護士費用
現在、弁護士費用は自由化されています。
そのため、一概には言えませんが、着手金として数十万円、成功報酬として同額程度になることが多いと思われます。
実費
実費とは、裁判所に収めなければならない費用のことをいいます。
仮に弁護士に依頼されなくても、絶対に必要となります。
具体的には印紙代と郵便切手代(裁判所では「郵券」と呼んでいます。)の合計額となります。
請求額等により実費の額は変動しますが、概ね1万円から3万円程度となることが多いです。
解決金
労働審判で調停が成立すると、会社が解決金を支払うことがあります。
この解決金というのは、示談金のようなものです。
解決金の金額は事案によって異なりますが、数十万円から数百万円の範囲が一般的です。
上記をまとめると労働審判の費用は下表のようになります。
特に弁護士費用については事案の内容によって大きく異なるため、ご相談時に説明を受けるようにされてください。
明朗会計の法律事務所の場合、ご依頼を検討されている相談者に対してはお見積りを渡してくれると思います。
| 労働審判にかかる費用 | |
|---|---|
| 実費 | 弁護士費用 |
| 印紙代と切手代の合計額 1万円から3万円程度 |
着手金:数十万円程度 成功報酬:上記と同額程度 |
| 相手方(通常は会社側)の場合:解決金等の金銭 数十万円から数百万円 |
|
弁護士費用や実費は原則自分が払う
弁護士費用や実費については、以下の例外を除いて原則的にご自身の負担になります。
例外1 不法行為に基づく損害賠償請求の場合
不法行為に基づく損害賠償請求の場合、損害の10%を弁護士費用として相手方(会社)に請求できます。
例えば、パワハラの慰謝料として100万円が認定された場合、その10%の10万円を会社にも請求できます。
例外2 弁護士費用特約に加入している場合
弁護士費用特約に加入している場合、加入している保険会社から弁護士費用や実費を負担してもらえることがあります。
弁護士費用特約は、自動車保険、火災保険、クレジットカードなどに付帯されており、トラブルが起きた場合の弁護士費用等を保険会社が負担してくれる特約になります。
普段あまり聞かない保険であるため、加入していることを忘れているという方もいらっしゃると思います。
使える条件なども保険の内容によって微妙に異なるため、弁護士費用特約を使用する際は保険会社に内容等を確認されることをおすすめいたします。
審判費用について
審判費用(印紙代や郵便切手代の実費のこと)については、手続きがどのように終了するかによって異なります。
和解(調停成立)となる場合
審判費用をどうするかも、和解の中で検討されますが、通常は各自の負担となる場合が多いです。
すなわち、従業員側でかかった審判費用は従業員側で、会社側でかかった審判費用は会社側でそれぞれ負担することになります。
労働審判が出る場合
労働審判が出た場合には、通常、敗者側の負担となります。
解決金は相手方(通常は会社側)が支払う
解決金については、通常は相手方である会社が払うことになります。
例えば、解雇が争われている事案で、合意退職として従業員が会社に戻らない代わりに、会社が一定の解決金を支払うというような和解内容が考えられます。
労働審判の申立書の書き方と提出方法
労働審判申立書の書き方
当事務所は労働審判申立書の書き方がわからないという方のために、サンプルをホームページ上に公開しており、無料で閲覧・ダウンロードが可能です。
ぜひ参考にされてみてください。
形式的事項の記載
申し立てる裁判所、当事者情報、労働審判を求める事項の価額、ちょう用印紙額などを記載します。
申立ての趣旨
労働審判で求める結論部分を記載します。
裁判の場合の請求の趣旨とほぼ同じような書き方で、求める内容に応じて一定の書き方があります。
詳しくは専門家(弁護士)に確認するようにしてください。
申立ての理由
請求内容について、請求内容が発生する事実(要件事実などといいます)を記載します。
証拠も「甲1」などの記載をして、できる限りどの事実がどの証拠によって裏付けられるか示すようにします。
予想される争点及び争点に関連する重要な事実
交渉段階での相手方の反応を踏まえ、予想される反論などから争点やそれに関連する重要な事実を記載します。
当事者間においてされた交渉その他の申立に至る経緯
労働審判に至るまでの交渉の内容、あっせんなど別の手続きが行われた場合にはその内容、相手方の交渉段階での提示額などを記載します。
附属書類
労働審判申立書以外の添付書類とその部数を記載します。
労働審判申立書と証拠以外では、証拠説明書や資格証明書などが考えられます。
証拠説明書とは、証拠の内容を表にして説明する文書のことをいいます。
資格証明書とは、相手方が法人の場合に必要な書類で、代表者事項証明書・全部事項証明書など、その代表者が代表権を持っていることを示すものになります。
労働審判の管轄|申立書はどこに出す?
労働審判を申し立てるためには、地方裁判所に申立書を提出する必要があります。
相手が日本国内の会社の場合、以下の3つのいずれかを管轄する地方裁判所となります(労働審判法2条1項)。
- ① 会社の営業所等の所在地
- ② 従業員の勤務地(退職後の場合は最後の勤務地)
- ③ 従業員と会社が合意で定める地方裁判所
労働審判の手続の流れ

参考:労働審判手続|裁判所
期日指定、呼び出し
労働審判は、迅速な解決を目指すものであるため、原則として3回以内の期日で審理が終結されます(実務的には2回で終結するケースが多い)。
第1回目は、申立てから40日以内に指定され、当事者双方が呼び出されます(基則13条)。
参考:労働審判規則
答弁書の提出
相手方(裁判で言う被告のことで通常会社側)は、裁判所が定めた期日までに答弁書を提出しなければなりません(規則14条)。
参考:労働審判規則
通常の民事訴訟では、答弁書の記載内容はとても簡素で、その後の期日で少しずつ主張を補充していく手法が取られています。
これに対し、労働審判は3回以内での解決を目指すため、最初に提出する答弁書に会社側の反論を十分に記載する必要があります。
したがって、労働審判を申し立てられた会社は、できるだけ早く、専門の弁護士にご相談されることを強くお勧めいたします。
第1回目の期日
第1回目の期日は通常、1時間から2時間程度で争点や証拠の整理が行われます。
多くの事件で、第1回目で主張や証拠が出揃い、裁判所(労働審判委員会)の心証が得られ、調停案(和解案)が提示されます。
ワンポイント:第1回期日における審理はどのようなもの?
裁判所側(労働審判委員会)が事実関係や法律論に関する双方の言い分を聴いて、争いになっている点を整理し、必要に応じて申立人(従業員側)や相手方(会社側)の関係者(会社の代表者や上司)などから直接事情を聴取するなどの審理を行います。

筆者の経験上、代理人弁護士がついている場合、最初にプレゼンテーション(申立書や答弁書の概要の説明)を求められることがあります。
その後、従業員に対しては会社側の委員、会社には従業員側の委員からの質問がなされることが多いです。
当事者(例えば従業員側)から相手方(例えば会社側)に対する尋問はできませんが、簡単な質問や確認などはできることがあります。
一通りの事情聴取が終わると、通常、労働審判委員会より、調停(話し合いによる解決)の可能性について打診されます。
このとき、当事者の一方は別室で待機し、個別に話を聞く形になることが多いです。
具体的には裁判所側の印象(従業員側と会社側のどちらに分があるかなど)が開示され、その上で、和解を勧められ、どのような内容(解決金の額など)であれば合意できそうか、などの意見を求められます。
第2、3回目期日
第2、3回目については規定はないものの、実務の運用では、第1回目から2週間ないし4週間程度の日数を置いて第2回目を入れ、第2回目から1〜2週間程度の日程を置いて第3回目を入れることが多いです。
第2回期日は通常、30分から1時間程度で行われます。
1回目で提示された調停案(和解案)について、双方が検討結果を報告することが典型です。
複雑な事案では、第1回目で提出できなかった証拠などを提出する場合もあります。
第2回期日までに解決した場合、第3回期日は開催されません。
申立てに必要な書類と証拠
必要書類としては、基本的に①労働審判申立書と、②申立内容に応じた証拠になります。
以下は、類型ごとの想定される証拠の例です。
- 解雇
解雇通知書、解雇理由証明書、雇用契約書、就業規則など - 残業代
雇用契約書、就業規則・賃金規程、タイムカード、給与明細、業務日報など - ハラスメント
録音の反訳書、メール、同僚の証言の陳述書など
労働審判によって得られる結果は3種類
上図のように、労働審判は、最終的に、調停成立、労働審判の確定及び訴訟移行という3つの結果があります。
調停成立
従業員側、会社側の双方が一定の合意案に納得すると、調停が成立します(労働審判法29条2項、民事調停法16条)。
調停とは、話し合いによって和解することを言います。
合意内容は調停調書という書面に記載され、万一、後日、合意内容を守ってもらえないときは強制執行できるようになります。
労働審判の確定
調停が成立しない場合、労働審判(通常訴訟でいう「判決」のイメージ)が言い渡されます(労働審判法20条)。
2週間以内に異議を申し立てないと労働審判が確定します(労働審判法21条)。
労働審判が確定すると、裁判上の和解と同じ効力(強制執行が可能)が発生します。
労働審判の異議申立て
労働審判に対し、2週間以内に従業員側又は会社側のいずれからか異議の申立があった場合、労働審判は効力を失います。
この場合、自動的に労働裁判手続きへと移行します(労働審判法22条)。
労働審判にかかる期間
労働審判は上述の通り、原則として3回以内の終了を目指しています。
また、多くの事案では、実際には2回目で終了しています。
では、具体的な期間はどの程度かかるのでしょうか。
2024年の統計資料によれば、労働審判の平均審理期間は96.7日と報告されています。
また、審理期間で最も多かったのは3ヶ月超え6ヶ月以内の45.9%です。
参考:2024年|裁判所「地方裁判所における民事第一審訴訟事件の概況及び実情」
2006年から2019年までに終了した労働審判の平均審理期間は、77.2日で申立てから3ヶ月以内に70.5%の事件が終了したと報告されています。
参考:裁判所|労働審判手続
したがって、コロナ等の災害等の異常事態がない限り、通常は80日程度で終了していると理解していただければよいと考えます。
労働審判は自分でもできる?
法律上、労働審判を弁護士に依頼する義務はありません。
したがって、理屈上は自分だけでも可能です。
しかし、上述したとおり、労働審判は、原則として3回以内の期日で終了するため、申立ての段階から十分な準備をして、的確な申立書を作成し、かつ、裏付けとなる証拠を集めて提出しなければなりません。
そのため、法律の専門家である弁護士に依頼する方が望ましいと考えます。
なお、裁判所も同様の見解を示しています。
参考:労働審判手続|裁判所
実際の統計データでも、申立人側(通常は従業員側)に代理人がついたケースは、全体の88.4%となっており、ほとんどの事案で代理人弁護士がついていることがわかります。

参考:2024年|裁判所「地方裁判所における民事第一審訴訟事件の概況及び実情」
費用面でご心配な方へ
従業員の方は会社と異なり、弁護士にご依頼する費用の捻出が難しいという状況も想定されます。
労働審判を弁護士に依頼した場合に予想される費用については、下記にくわしく解説していますので参考になさってください。
もし労働審判に負けたら?不服がある場合の異議申し立て
調停が成立しない場合、審判が言い渡されます。
これに対し、適法な異議申立がない場合、審判が確定し、後から覆すことはできなくなります(労働審判法21条4項)。
異議申し立てはどうすればいい?
審判内容に不服であれば、異議を申立てることが可能です。
異議申し立ては、審判から2週間以内となります(労働審判法21条1項)。
異議申立後の本訴について支部への回付を希望する場合は、その旨の上申書を添付します。
異議申し立ての効果は?
審判の効力は生じません(労働審判法21条1項3項)。
そして、労働審判の申立時に、係属していた地裁に訴訟提起したものとみなされます(労働審判法22条1項2項)。
すなわち、労働裁判に自動的に移行します。
本訴の準備
従来の主張・立証の検討。
何を削り、何を加えるべきかを検討します。
異議申立後に、申立人から出された「訴訟に代わる準備書面」に対し、認否・反論を行なうこととなります。
労働審判を弁護士に依頼するメリット
労働審判を弁護士に依頼するメリットとしては以下のようなものが挙げられます。
①適切な法的主張をしてより良い結果が期待できる
労働審判でも、通常の裁判と同様、適切な法的主張をしなければ、裁判官を納得させることはできません。
専門家である弁護士に依頼することによって、本来認められるべき主張を適切に主張し、より良い結果を獲得することが期待できます。
②書面作成の手間を省ける
労働審判申立書や答弁書などの主張書面の作成は、慣れていないと完成させるまでに相当程度時間を要します。
事案にもよりますが、専門家である弁護士でも、作成までに数時間以上要することは珍しくありません。
弁護士に依頼すると、これらの書類作成業務を基本的には一任できるので、当事者は非常に楽になると思います。
③労働審判に同席してもらうことで労働審判期日も安心して臨める
労働審判には基本的に弁護士も同席します。
期日当日には、裁判官からいくつか質問されますし、最終的に裁判官の見解が述べられます。
しかし、一般の方だけでは、これらの裁判官の質問への対応や裁判官の見解の是非について瞬時に判断することは難しいことも多いです。
もっとも、専門家である弁護士であればある程度瞬時に判断できますので、期日当日の対応も安心して臨むことが可能になります。
労働審判についてのQ&A
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労働審判で弁護士なしは不利になる?
しかし、上で解説したとおり、労働審判は適切な書面を作成し、主張を裏付ける証拠を集めたりなど、弁護士でなければ難しい対応が多いです。
少なくとも、労働審判にくわしい弁護士に一度ご相談されることを強くお勧めいたします。
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労働審判で嘘は許される?
刑罰法令に触れる可能性もあります。
刑事罰を受けなかったとしても、虚偽の主張等は説得力に乏しく、プロの裁判官には見抜かれる可能性が高いと思われます。
まとめ
以上、労働審判について、手続きの流れや、各段階における会社の対応のポイントを詳しく説明しましたがいかがだったでしょうか?
労働審判は、第1回が勝負であり、比較的短期間のうちに、会社としてできるすべての主張と証拠の提出を行うべきです。
このような準備は、労働審判に精通した弁護士でなければ、十分行うことが難しいと思われます。
そのため、労働審判については、労働問題に精通した弁護士へ相談されることをお勧めいたします。
デイライト法律事務所には、企業の労働問題を専門に扱う労働事件チームがあり、企業をサポートしています。
まずは当事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。





