弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

開示請求とは、企業や団体が持っている「あなた自身の個人データ」について、「どのような内容が記録されているか見せてほしい」と公式に求める手続きのことです。
今の時代、私たちの氏名や住所、買い物した履歴などは、企業のコンピューターにたくさん保存されています。
しかし、自分の情報がどう扱われているか分からないままでは不安ですよね。
そこで法律は、私たちに「自分の情報がどうなっているかを確認する権利」を認めています。これが開示請求です。
最近では、「身に覚えのないクチコミで売上が激減した」といった状況で開示請求を検討されている方も少なくありません。
情報を求める個人にとっては、開示請求は自分のプライバシーを守るための「最強の武器」です。
一方、「突然届いた『個人情報開示請求書』にどう対応すればいいか分からない」とお悩みの方もいらっしゃると思います。
本記事では、開示請求の基本から、実務担当者が直面する「不開示判断」の境界線、さらにはSNS誹謗中傷への対策まで、詳しく解説します。
開示請求とは?

開示請求の意味
開示請求とは、企業や団体などの組織が保有している自分自身の個人データについて、「どのような内容が記録されているかを見せてほしい」と本人(または代理人)が公式に求める手続きです。
最近では、日常のあらゆる場面で、私たちの氏名、住所、電話番号、購買履歴、位置情報、健康状態といった大切な情報が、企業のサーバーや名簿に蓄積されています。
しかし、自分の知らないところで自分の情報がどのように扱われ、誰に共有されているのかが不透明なままでは、安心してサービスを利用することはできません。
そこで、個人情報保護法は、私たち一人ひとりに「自分の情報がどうなっているかを確認する権利」を保障して、個人を守っています。
企業にとっての開示請求
開示請求を受ける側の企業にとっても、開示請求は単なる事務作業ではありません。
もし開示請求の場面で、不誠実な対応をしたり、情報の隠蔽を疑われるような振る舞いをすれば、企業のブランドイメージが崩れてしまうかもしれません。
逆に、開示請求に対して透明性の高い、スムーズな対応を行うことができれば、「この会社は個人情報を大切に扱ってくれている」という安心感を与えることができますから、顧客とのエンゲージメントを強化するチャンスにもなり得ます。
企業・個人の双方にとって、開示請求は重要なテーマだといえるでしょう。
開示請求の目的
開示請求が行われる目的は、様々ですが、代表的には以下の通りです。
①情報の正確性を確保するため
第一の目的は、「情報の正確性の確保」です。
企業が持っているデータが常に正しいとは限りません。
例えば、引っ越しをしたのに住所が古いままだったり、氏名の漢字が間違っていたりすることもあります。
開示請求によって自分のデータを確認し、もし間違いがあれば、それを修正させる「訂正請求」を行うためのステップとなります。
②不適切な利用がないかチェックするため
第二の目的は、自分の情報が、最初に同意した目的以外のことに使われていないか、あるいは勝手に第三者に売買されていないかを確認するためです。
もし、開示された内容から不適切な取り扱いが判明すれば、その情報の「利用停止」を求めることも可能になります。
③証拠を確保するため
少し深刻なケースですが、企業との間でトラブルになった際、自分たちがどのようなやり取りをしてきたかの記録を証拠として残すために開示請求が行われることがあります。
例えば、解雇を言い渡された従業員が、会社側が保持している自分の人事評価記録や、面談の議事録の開示を求めるようなケースです。
このように、開示請求は自分の情報をコントロールし、不利益を防ぐための防衛手段としての側面も持っています。
企業側は、請求を受けた際に「なぜこんなことを聞いてくるのか」と疑うのではなく、法律で認められた正当な権利行使であることを理解し、真摯に向き合うことが必要です。
開示請求の法的根拠
開示請求の法的根拠は、個人情報保護法です。
第三十三条 本人は、個人情報取扱事業者に対し、当該本人が識別される保有個人データの電磁的記録の提供による方法その他の個人情報保護委員会規則で定める方法による開示を請求することができる。
さらに、個人(「本人」)がデータの開示を求めた場合、企業(「個人情報取扱事業者」)は原則として「遅滞なく」それに応じなければならないと定められています(個人情報保護法33条2項)。
「遅滞なく」というところも重要で、「ダラダラと時間をかけずに、準備ができ次第すぐに行いなさい」という意味です。
正当な理由もなく数ヶ月も放置することは、法律違反とみなされる可能性がありますので注意が必要です。
なお、この法律を守らない企業に対しては、国(個人情報保護委員会)から「是正勧告」や「是正命令」が出されることがあります。
さらに、この命令にも従わなかった場合には、懲役・罰金といった刑事罰が科されることもあります(法第178条)。
開示請求できるのは誰?
開示請求を行うことができる権利を持っているのは、原則として、本人です。
より正確には、「その個人情報によって識別される本人」です。
自分の名前や住所、行動履歴といったデータは、自分自身のプライバシーそのものですから、その中身を確認する権利も当然その人に帰属するという考え方です。
しかし、実務の現場では、必ずしも本人が窓口に来たり、本人がメールを送ってきたりするとは限りません。
そのため、個人情報保護法では、本人以外にも一定の条件を満たした「代理人」による請求を認めています。
そして、代理人にも、法定代理人と、任意代理人という区別があります。
それぞれについて見ていきましょう。
本人による請求
最も一般的なのが、本人による直接の請求です。
本人が請求する場合、企業は「本当に本人であること」を確認するための証明書類を求めます。
一般的には、運転免許証、パスポート、マイナンバーカード(表面のみ)、健康保険証といった公的な書類のコピーを提示してもらうことになります。
オンラインでの請求であれば、電子署名や、スマートフォンのカメラを使った本人確認(eKYC)などが活用されることも増えてきました。
なお、企業側にとって悩ましいのは、「本人確認の厳格さ」と「柔軟性」のバランスです。
あまりに厳格すぎて硬直的な対応をすると、本人から「嫌がらせだ」とクレームを受けることがあります。
一方で、確認が甘ければ漏えいリスクを招きます。
実務上は、複数の書類を組み合わせたり、登録されている電話番号に折り返し電話をかけて確認したりするなど、多層的な確認プロセスをあらかじめマニュアル化しておくのがよいでしょう。
法定代理人による請求
次に、本人の代わりに法律上の権限を持って請求できる「法定代理人」がいます。
主に以下の2つのケースが該当します。
①未成年者の親権者
例えば、15歳未満の子供が利用している学習塾やSNSの情報を、親が確認したいという場合です。
この場合、親は子供に代わって開示請求を行うことができます。
②成年後見人
認知症などで判断能力が不十分な方のために、家庭裁判所から選任された後見人です。
本人の権利を守るために、後見人が代わりにデータを確認する必要があります。
企業が法定代理人から請求を受けた際は、本人確認書類に加えて、「代理権があることを証明する書類」を必ず提出してもらわなければなりません。
具体的には、戸籍謄本や、登記事項証明書などがこれに当たります。
これらの書類には有効期限(発行から3ヶ月以内など)を設けるのが一般的です。
「親だと言っているから大丈夫だろう」という安易な判断は、特に家庭内不和の事情がある場合(例えば親権争い中など)に、深刻なトラブルを引き起こす可能性があるため原則として避けましょう。
任意代理人による請求
最後に、本人が自分の意思で「この人に任せます」と決めた「任意代理人」による請求です。
典型的なのは、弁護士などの専門家が、本人から依頼を受けて請求を行うケースです。
本人が仕事で忙しい場合や、企業側とトラブルになっていて直接やり取りしたくない場合に利用されます。
開示請求を求める相手とは?
開示請求を行おうとする際、あるいは企業側として請求を受けた際に、まず整理しておくべきなのは「誰に対してその請求ができるのか」という点です。
法律上、開示請求の対象となる相手は「個人情報取扱事業者」と呼ばれます。
個人情報取扱事業者とは?
個人情報取扱事業者とは、個人情報保護法において、「個人情報データベース等を事業の用に供している者」と定義されています。
データベースを用いて個人情報を扱っているほぼすべての組織が、この「個人情報取扱事業者」に該当します。
例えば、地域に密着した商店がパソコンのExcelで顧客名簿を管理していれば、その商店は立派な個人情報取扱事業者です。
また、同窓会の名簿を管理している事務局や、ボランティア団体、NPO法人なども、一定の条件を満たせばこの定義に含まれます。
開示請求の対象にならない相手
一方で、開示請求の対象にならない相手も存在します。
代表的なのは、国や地方公共団体などの行政機関です。
これらは個人情報保護法ではなく、「行政機関等個人情報保護法」などの別の法律によってルールが定められているため、手続きの窓口や方法が異なります。
また、個人が完全に「私的な目的」で情報を管理している場合も対象外です。
例えば、あなたが自分のスマートフォンに登録している友人の連絡先や、年賀状を出すために作っている住所録などは、事業(仕事や組織活動)として使っているわけではないため、友人から「情報を開示しろ」と言われても、法律上の義務は発生しません。
あくまで、組織として、あるいは仕事の一部として情報を管理している場合に、開示請求の義務が生じるのだと理解しましょう。
個人情報の取り扱いに関する基本的なルールについては、以下のページでも詳しく解説しています。ぜひ、あわせてご覧ください。
小規模事業者除外ルールの廃止
なお、以前は、「取り扱う個人情報の数が5,000人分以下の事業者は除外される」という、いわゆる「小規模事業者除外」のルールがありました。
しかし、個人情報漏えい事故が社会問題化し、情報の価値が高まったことを背景に、平成29年(2017年)の法改正によって、この5,000人という枠は撤廃されました。
現在では、1人分でも個人情報をデータベース(検索可能な状態)にして仕事に使っていれば、その組織は個人情報取扱事業者としての義務を負うことになります。
もし、ご自身の所属する会社が、昔の感覚・ルールのままで運用されているようであれば直ちに見直しが必要です。
開示を請求できる情報とは?
開示請求を検討する際、あるいは企業として請求を受けた際に、最も重要なのは「どの範囲の情報までが開示の対象になるのか」という点です。
個人情報保護法では、開示の対象を「保有個人データ」と定めています。
この理解のためには、まず土台となる「個人情報」の定義を知り、その中からさらに絞り込まれた「保有個人データ」の条件を知る必要があります。
そもそも個人情報とは?
個人情報とは、一言でいえば「生きている個人に関する情報で、それによって特定の誰かを識別できるもの」を指します。
個人情報保護法では、大きく分けて以下の2つのパターンが個人情報とされています。
①その情報だけで特定の個人を識別できるもの
氏名、生年月日、住所、顔写真などが代表例です。
これらは、そのデータを見るだけで「これはAさんのことだ」とわかります。
②他の情報と照らし合わせることで、特定の個人を識別できるもの
例えば、単なる「会員番号」や「社員番号」だけでは、第三者には誰のことか分かりません。
しかし、企業内にある「会員名簿」や「従業員名簿」と照合すれば、すぐに特定の誰かであることが判明します。
このように、容易に他のデータと合体させて本人を特定できるものも、個人情報に含まれます。
さらに、近年追加された「個人識別符号」という考え方もあります。
これには、マイナンバー、免許証番号、パスポート番号といった公的な番号だけでなく、指紋データ、顔認証データ、DNAの配列情報といった「その人自身の身体的特徴をデジタル化したもの」も含まれます。
これに該当するものが含まれる情報も個人情報となります。
個人情報の取り扱いに関する基本的なルール、個人情報とは何か、について詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
保有個人データとは?
次に、今回の本題である「保有個人データ」について解説します。
開示請求の対象となるのは、単なる個人情報ではなく、この「保有個人データ」です。
保有個人データとは、個人情報取扱事業者が、開示、内容の訂正、追加、削除、利用の停止、消去、および第三者への提供の停止を行うことのできる権限を持っている個人データを指します。
つまり、「その企業が自分の意思で自由に書き換えたり、消したりできるデータ」のことです。
例えば、業務委託で預かっているだけの顧客リストであれば、勝手に内容を書き換えたり削除したりする権限はありませんから、開示請求に応じる必要はなく、勝手に開示すべきではないことになります。
「当社には権限がないため、保有個人データには該当しません。依頼主の企業へ言ってください」という回答をすべきことになります。
保有個人データの定義や具体的な内容について、こちらのページでより詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
開示しなくてもよい「例外」の情報
「保有個人データ」であれば何でもかんでも出さなければならないかというと、実はそうではありません。
法律では、以下のような場合には、企業は開示を拒否することができる(あるいは一部を隠すことができる)と定めています。
①本人または第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合
例えば、ストーカー被害に遭っている人の住所を、加害者が本人になりすまして請求してきた場合などは、開示を拒否しなければなりません。
②当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合
これは企業実務で最もよく使われる判断基準です。
例えば、試験の採点基準や、人事評価の具体的な詳細、未発表の経営戦略に深く関わるメモなどがこれに当たります。
もしこれらを開示してしまうと、評価の公平性が保てなくなったり、企業の競争力が損なわれたりするため、開示を拒否できる可能性があります。
③他の法令に違反することとなる場合
他の法律で「開示してはならない」と決まっている情報は、個人情報保護法よりもそちらが優先されます。
第三者提供記録の開示
令和2年の改正により、もう一つ重要な開示対象が増えました。
それが「第三者提供記録」の開示です。
これは、「私のデータを、どこの会社に、いつ渡しましたか?」という記録そのものを開示させる権利です。
自分のデータが知らないうちに名簿業者や広告会社に回されていないか、などを確認するための手段となります。
企業側は、誰にデータを提供したか、逆に誰からデータを受け取ったかという「授受の記録」を一定期間保存する義務があり、本人からの請求があればこれを開示しなければなりません。
開示請求の方法とは?
個人情報保護法では、会社側が「開示請求を受け付けるためのルール」をあらかじめ決めておいてよいことになっています。
そのため、開示請求を行いたいと考えたとき、まずはその会社のウェブサイトなどで「どのような手続きが必要か」を確認することから始まります。
多くの会社では、プライバシーポリシー(個人情報保護方針)というページの中に、「個人情報の開示等に関するお手続きについて」といった項目を設けています。
開示請求の手続の流れ
基本的な手続きの流れは以下の通りです。
①会社の受付窓口を確認する (ウェブサイトや電話で確認)
まず「①会社の受付窓口を確認する」についてです。
会社によって、郵送のみ受け付ける場合や、専用のウェブフォームを用意している場合があります。
まずは会社の「プライバシーポリシー」を確認しましょう。
②必要書類と手数料を準備する (申請書、本人確認書類、定額小為替など)
次に「②必要書類と手数料を準備する」です。
後ほど詳しく説明しますが、免許証のコピーなどが必要になります。
また、会社が定める手数料(郵送代や事務手数料など)を事前に支払う必要があるケースがほとんどです。
③会社へ請求書類を送付する (郵送や専用フォーム、メールなど)
「③会社へ請求書類を送付する」際は、できるだけ記録が残る方法を選びましょう。
郵送であれば「特定記録郵便」や「書留」を利用するのが安心です。
④会社による本人確認・内容の審査 (なりすましがないか、開示できるデータかを確認)
「④会社による本人確認・内容の審査」は、会社側が最も慎重に行うステップです。
提出された書類に不備がないか、本当に本人のデータが存在するかを調査します。
⑤開示・不開示の決定 (社内での調査と法的な検討)
「⑤開示・不開示の決定」では、法律上の例外(他人の情報が含まれていないかなど)に当たらないかを判断します。
すべてのデータが開示されるとは限らず、一部が黒塗りになることもあります。
⑥本人への回答・データの送付 (希望した方法で内容が届く)
最後に「⑥本人への回答・データの送付」です。
最近ではメール添付やダウンロード形式での回答も増えていますが、セキュリティのためにパスワードが別送されるなどの工夫がなされます。
以上の一連の流れには、通常2週間から1ヶ月程度の時間がかかるのが一般的です。
開示請求に必要な書類
開示請求を成功させるために、最も重要でミスが許されないのが「本人確認書類」の準備です。
会社は、間違った相手に情報を渡してしまうことを何よりも恐れています。
そのため、要求される書類はかなり厳格です。
一般的に必要となる書類を整理しました。
1.個人情報開示申請書
会社の指定するフォーマットがある場合はそれを使用します。
決まった形がない場合は、自分の氏名、住所、連絡先、そして「何を、どこまで開示してほしいか」を具体的に記載した書面を作成します。
2.本人確認書類(以下のうちいずれか一通、または複数を組み合わせる)
- 運転免許証のコピー
- パスポートのコピー
- マイナンバーカード(表面のみ)のコピー
- 健康保険証のコピー(記号・番号を黒塗りしたもの)
- 住民票の写し(発行から3ヶ月以内のもの)
3.代理人が請求する場合の追加書類
本人に代わって弁護士や親権者が請求する場合は、以下の書類が追加で必要になります。
- 委任状(本人の実印が押されたもの)
- 本人の印鑑登録証明書
- 代理人自身の本人確認書類
- (親権者の場合)戸籍謄本など、関係を証明する書類
開示請求にかかる費用
開示請求は、完全に無料で行えるわけではありません。
法律上、会社は「実費を勘案して合理的であると認められる範囲内」で手数料を徴収することが認められています。
一般にどのような費用がかかるのか、表にまとめました。
| 費用の項目 | 内容の目安 | 相場感 |
|---|---|---|
| 事務手数料 | データの検索や精査にかかる人件費 | 500円 ~ 1,000円程度 |
| 郵送費用 | 本人確認のやり取りや、回答書を送る費用 | 実費 (特定記録など) |
| メディア代 | CD-RやUSBメモリに保存して送る場合 | 数百円程度 |
多くの会社では、1件の請求につき「800円」や「1,000円」といった固定の手数料を設定しています。
注意したいのは、もし調査の結果「該当するデータが1件もなかった」という場合でも、手数料は返金されないのが一般的だという点です。
開示請求された企業はどうすればいい?
もし、あなたの会社に「私の個人情報を開示してください」という請求書が届いたら、現場の担当者はどのように動くべきでしょうか。
まず大前提として、開示請求は法律で認められた個人の権利であり、会社側にはそれに応じる「義務」があることを再認識してください。
一方で、請求された情報をすべて無批判に出せばよいというわけでもありません。
会社には、他人のプライバシーを守る義務や、営業秘密を守る権利もあります。
対応手順を具体的に見ていきましょう。

ステップ1:即座に「受付体制」を整える
開示請求の通知が届いたら(あるいは電話があったら)、まずは社内の「個人情報保護責任者」や「法務担当者」へ情報を集約してください。
たまたまこれを受け付けた現場の社員が独断で「ありません」とか「出せません」といった回答をしてしまうのは危険です。
「社内で調査の上、改めてお手続きについてご案内します」と、冷静かつ丁寧な初期対応を心がけましょう。
ステップ2:厳格な「本人確認」の実施
開示手続きにおいて、会社が最も慎重になるべきなのが本人確認です。
間違った相手に情報を開示することは、それ自体が「漏えい事故」となりえます。
届いた申請書と、添付された本人確認書類(免許証のコピーなど)を照らし合わせ、社内に登録されているデータと矛盾がないかを確認します。
代理人からの請求であれば、さらに「委任状」と「印鑑証明書」の原本を確認し、必要であれば本人に電話をかけて「本当にこの弁護士に依頼しましたか?」と確認するステップを入れることも検討してください。
ステップ3:社内データの「網羅的」な調査
本人確認が終わったら、社内のどのシステムやファイルに本人のデータが保存されているかを調査しましょう。
多くの会社では、データが複数の場所に分散していることが多く、この作業が大変な場合もあります。
顧客管理システム、営業担当者のExcelファイル、お問い合わせメールの履歴、紙の契約書、バックアップデータなど、これらの場所から漏れなくデータを抽出する必要があります。
ステップ4:開示範囲の「精査」と「マスキング」
抽出したデータが揃ったら、そのまま出すのではなく、内容を精査しましょう。
特に、従業員個人を含めた第三者の個人情報の保護の観点には注意しましょう。
例えば、コールセンターの応対履歴を開示する場合、その中に「他の顧客の名前」や「従業員個人のプライバシー」が含まれていることがあります。
こうした他人の情報は、マジックで黒く塗りつぶす「マスキング」作業が必要です。
また、会社の高度な「営業秘密」や、特定の個人を評価した際の「内部評価」など、開示することで会社の業務に著しい支障が出る可能性がある部分は、法律上の不開示事由に該当するかどうかを慎重に判断します。
ステップ5:回答書の作成と送付
最後に、決定した方法(書面やデジタルデータ)で回答を行います。
もし、一部を非開示(黒塗り)にした場合は、なぜその部分を出せなかったのかという理由を、法的な根拠に基づいて記載しなければなりません。
「社内ルールで非公開です」という説明だけでは不十分で、「個人情報保護法第●条第●項第●号の『●●』に該当するため」といった、具体的な理由を添えることが求められます。
以上の基本的な手順で開示請求には丁寧に対応しましょう。
開示請求に関する企業の注意点
会社が個人情報の開示請求を受けた際、最も注意しなければならないのは「法的な義務を果たすこと」と「会社の正当な利益を守ること」のバランスです。
期限の厳守と「遅滞なく」の解釈
法律では、開示請求を受けた場合、会社は「遅滞なく」開示を行わなければならないと定めています。
実務上は、請求を受けてから「2週間から1ヶ月程度」が一般的な許容範囲と考えられています。
もし調査に時間がかかる場合は、あらかじめ本人に対して「現在調査中であり、回答までにあと◯日程度かかる」という中間報告を行うことが重要です。
安易な「不開示」判断のリスク
不都合な情報について安易に「該当するデータはありません」や「社外秘のため開示できません」と回答することは極めて危険です。
もし後になってそのデータが存在することが判明した場合、会社は「隠蔽」を疑われることになります。
不開示とする場合には、法律で認められた例外事由に本当に該当するのか、慎重に検討しなければなりません。
なりすましによる「第三者への漏えい」の防止
開示請求への対応において、最も重大な過失となり得るのが「なりすまし」への誤開示です。
もし本人確認が不十分なまま情報を渡してしまったら、会社は「個人情報の漏えい」という重大な事故を引き起こしたことになり、被害者から多額の慰謝料を請求される恐れがあります。
社内マニュアルの整備と教育
開示請求は、ある日突然、予期せぬ部署に届くことがあります。
受付窓口の明確化、本人確認のルール、データの抽出範囲、マスキングの手順、回答書の雛形などを盛り込んだマニュアルを作成し、定期的に研修を行うことが有効です。
企業法務に強い弁護士に相談する
裁判の証拠集めが目的と思われるような対立関係にある相手からの請求や、営業秘密が含まれる場合など、高度な法的判断が必要になることも少なくありません。
お困りの場合には、自社だけで抱え込まず、できるだけ早期に企業法務に強い弁護士へ相談されることを強くお勧めします。
開示請求のように、スピード感をもって対応する必要がある事案が発生したときにすぐ弁護士へ相談できるよう、顧問弁護士をお持ちいただくこともぜひご検討ください。
開示請求についてのQ&A
最後に、よくある質問についてお答えします。
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発信者情報開示請求とは何ですか?
令和4年(2022年)の法改正により、一つの手続きでまとめて行えるようになり、以前よりも迅速に相手を特定できる可能性が高まっています。
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クチコミの開示請求とは?
「料理の中に虫が入っていた」という投稿があり、それが真っ赤な嘘であれば開示が認められる可能性が高いです。
一方で、「接客が少し冷たく感じた」という主観的な感想については、開示を認めてもらうのは難しいでしょう。
まとめ
今回は、開示請求の基本的な意味、必要な手続き、要件、そして会社側が気をつけるべき注意点など、幅広い視点で解説しました。
個人情報の開示請求は、個人の権利を守るための大切な仕組みであると同時に、会社にとってはコンプライアンスの姿勢が問われる重要なプロセスです。
一見シンプルに見える手続きですが、一歩間違えれば重大な法的トラブルや信用問題に発展しかねない、非常に繊細なテーマでもあります。
開示請求やその他個人情報の取り扱いに関するトラブルでお悩みのことがございましたら、どうぞお一人で抱え込まず、私たちデイライト法律事務所にご相談ください。
専門家の立場から、貴社のビジネスが円滑に進むよう全力でサポートいたします。
LINEや電話相談を活用した全国対応も行っていますので、お気軽にお問い合わせください。


