ユーザが開発に協力してくれません。契約解除すると言い出した場合報酬は受け取れる?

  
執筆者
弁護士 本村安宏

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士

保有資格 / 弁護士・ITパスポート

現在、受注しているシステム開発を進めているところなのですが、当初の要件・仕様からの変更や追加が多く、それにもかかわらず、ユーザーは開発にあまり協力してくれないため困っています。

ユーザーが契約を解除すると言い出す可能性もあるのですが、報酬を受けとることはできるのでしょうか?また、損害賠償を請求される可能性はあるのでしょうか?

 

当事務所のIT弁護士が解説します。

双方の協力関係について

システム開発は、ベンダーとユーザーの共同作業ですので、信頼関係に基づく双方の協力がなければ成功しません。

裁判所はこの協力関係について、ベンダー側については「プロジェクト・マネジメント義務」、ユーザー側には「協力義務」として、信義則上の付随義務をそれぞれに認めています。

プロジェクト・マネジメント義務

裁判例によれば、プロジェクト・マネジメント義務の内容は、

①合意に従って開発作業を進めるとともに、常に進捗状況を管理し、開発作業を阻害する要因の発見に努め、これに適切に対処する義務
②ユーザーの開発へのかかわりについても適切に管理し、システム開発について専門的知識を有しないユーザーによって開発作業を阻害する行為がなされることのないようにユーザーに働きかける義務

というものです。

まず、①についてですが、これは、本来の債務の履行に加え、契約に従ったスケジュールでプロジェクトを進めていくことを求めるものです。

次に、②について、より具体的に言えば、ユーザーにおいて意思決定が必要な事項や、解決すべき懸念事項について、課題と期限を示すこと、ユーザーの意思決定が遅れた場合の支障を示すこと、ユーザーの意思決定ができるようベンダーがアドバイスをすること、開発の進行によっては受け入れられない要望があれば、十分な説明の上、これを拒否すること、などです。

このように、ベンダー側には、適切に開発を進めるとともに、ユーザーの合理的な意思決定を促すことで、システム開発を成功へ導くよう努める義務があります。

協力義務

一方、ユーザー側が果たすべき協力義務は、ユーザー自らが主体的にリスク分析を行い、内部の意見調整を適切に行って見解を統一したうえで、要望をベンダーに伝えることや、成果物の確認、ベンダーからの協力要請には応じるといった内容です。

ユーザー側の業務がどのようなものであるかはベンダー側にはわからないので、これを適切に伝えるなどして、積極的に開発に協力することが求められています。

 

義務違反の効果

ベンダー側のプロジェクト・マネジメント義務違反があった場合は、ユーザー側から、損害賠償や契約解除を主張されることとなります。

もっとも、ユーザーにも問題がある場合は、ベンダー側に解除に至る帰責性はないものと判断されたり、過失相殺として損害賠償額が減額されたりする可能性はあります。

一方、ユーザーに協力義務違反があった場合は、それにより仕事が完成しなかったとして危険負担(民法536条2項)、または債務振りき王を根拠として、ベンダー側からユーザーに対し、報酬相当額を請求することが考えられます。

 

ポイント

弁護士本村安宏イラストご質問の点については、ユーザーとの協力関係が築けなかった原因が、具体的に何なのかを検討することが必要です。

また、このような紛争を避けるためには、プロジェクトの進捗状況について記録化を図ることが重要です。具体的には、進捗状況の管理表を作成する、会議資料を作成する、議事録をとっておく、メールでのやりとりを残す、といった方法が有用です。

なぜなら、証拠がなければ、裁判所は義務違反の存否を判断できないことに加え、言った言わないの水掛け論となり、解決が難しくなるからです。

 

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