ミッキーマウスの著作権、期限切れってホント?弁護士が解説

監修者:弁護士 西村裕一
弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

「ミッキーマウスの著作権が切れて、自由に使えるようになった」というニュースを目にした方も多いのではないでしょうか。

米国で初代ミッキーマウスの著作権が切れたのは事実ですが、日本で同じようにミッキーマウスを自由に使えるようになったわけではありません。

この記事では、誤解されがちなミッキーマウスの著作権について詳しく解説しています。

権利に関する正しい知識を身につけ、ビジネスや創作活動におけるリスクを減らすためにお役立てください。

ミッキーマウスの著作権の基礎知識

ミッキーマウスの著作権の基礎知識

まず、「そもそも著作権って何?」という基本的な部分からおさらいしておきましょう。

 

著作権の基礎知識

「著作権」とは、一言でいうと「作品を創作した人が、その作品を独占的に利用できる権利」のこです。

そして、著作権が発生すると、権利者は、その作品をコピーしたり(複製権)、インターネットで公開したり(公衆送信権)、販売したり(譲渡権)といった使い方を独占できます。

もし、他の誰かが権利者の許可なく、その作品を勝手に自社のホームページに使ったり、グッズを作って販売したりすれば、権利者は「著作権侵害です!」と主張して、使用をやめさせたり(差止請求)、損害賠償を請求したり(損害賠償請求)することができます。

このように、著作権は、クリエイターの努力や才能の結晶である「著作物」を守り、文化の発展を促すために非常に大切な役割を果たしています。

ここでは簡単な説明に留めましたが、著作権は様々な権利がまとめられた複雑な権利です。知っておくべきルールも多数あります。

著作権についてより詳しくお調べになりたい方はこちらのページも合わせてご覧ください。

 

ミッキーマウスの著作権の基礎知識

ミッキーマウスの場合はどうでしょうか?

日本の法律では、ミッキーマウスという「キャラクターの概念」そのものに著作権が直接与えられるわけではありません。

著作権の保護対象は、あくまで具体的な「表現」です。

つまり、私たちが実際に目にしているミッキーマウスの「イラスト」や「絵」、あるいはミッキーマウスが登場する「アニメーション映画」の一つひとつが「著作物」として保護されている、と考えるのが正確です。

具体的には、「ミッキーマウス」と一言で言っても、時代や作品によって様々なバージョンのデザインが存在します。

代表的なところでは以下です。

  • 『蒸気船ウィリー』のミッキーマウス
  • 『ファンタジア』のミッキーマウス
  • 現代のミッキーマウス

これら一つひとつの具体的なデザイン(イラストや絵)が、個別の著作物として著作権法によって守られているのです。

 

 

ミッキーマウスの著作権は期限切れ?

大前提として、「初代ミッキーの著作権が切れた」というニュースは、あくまで『蒸気船ウィリー』に登場した、特定のデザインのミッキーに関する話であって、他のすべてのバージョンのミッキーが自由に使えるようになったわけではありません。

では、『蒸気船ウィリー』のミッキーについては、著作権が切れたことで、日本でも自由に利用が可能かというと、話はそう単純ではありません。

著作権のルールは世界共通ではなく、国ごとに定められています。

これを法律用語で「属地主義(ぞくちしゅぎ)」と言います。

つまり、日本での著作権の扱いは、日本の著作権法に従って判断されます。

 

アメリカの状況について

米国では、1998年に成立した法律(通称「ミッキーマウス保護法」とも呼ばれました)によって、法人(会社など)が創作した著作物の保護期間が「公表から95年」と定められました。

ミッキーマウスがスクリーンに初登場した映画『蒸気船ウィリー』は、1928年に公開されました。

ここから95年を計算すると、ちょうど2023年末になります。

1928年 + 95年 = 2023年

この計算により、米国では2024年1月1日をもって、『蒸気船ウィリー』という映画、およびその映画に登場する初代ミッキーマウスのデザインの著作権が消滅し、パブリックドメインとなっています。

これにより、米国内では、誰でも『蒸気船ウィリー』のミッキーマウスを原則として自由に複製、配布、改変などができるようになりました。

 

日本の状況

一方で、日本ではまだ蒸気船ウィリーの著作権の保護期間が残っていると考えられています。

日本の現在の著作権法では、映画の著作物の保護期間は「公表後70年」と定められています。(著作権法第54条)

単純にこのルールを『蒸気船ウィリー』(1928年公表)に当てはめると、1928年 + 70年 = 1998年
となり、とっくの昔に保護期間は終わっているように見えます。

しかし、日本の著作権法には、特に海外の古い作品の保護期間を考える上で、「戦時加算(せんじかさん)」という特別なルールが存在します。

戦時加算とは、サンフランシスコ平和条約に基づき、第二次世界大戦時の連合国の著作物に付いて、特定の期間を通常の保護期間に「上乗せ」して保護するという特別ルールです。

具体的には、日本と連合国との間で戦争状態にあった期間の日数を、本来の保護期間に加算しなければなりません。

ミッキーマウスのような米国の戦前の作品の場合、この加算される日数は約10年5ヶ月に及びます。

その結果、専門家である弁護士や研究者の間でも、日本のミッキーマウスの保護期間がいつ終わるのかについて、見解が分かれています。

例えば、美術の著作物(ミッキーの原画)について、著作者(ミッキーマウスについていえば、ウォルト・ディズニー)の死後保護や法改正、戦時加算などをすべて考慮して「2052年5月まで保護期間が続く」とする説なども存在します。

国際事情も相まって複雑な状況にありますので、基本的に、最も長く保護期間が続くとされる説(2052年まで存続説)を前提に、日本ではまだミッキーマウスの著作権は有効である、と考えて行動するのが望ましいでしょう。

著作権の保護期間については、著作物によって複数のルールが絡み合っています。

より詳しくお調べになりたい方はこちらのページも合わせてご覧ください。

 

 

ミッキーマウスの画像やイラストは自由に使える?

ミッキーマウスの画像やイラストは自由に使える?

前のセクションで、日本ではミッキーマウスの著作権はまだ有効であると考えるべき、と解説しました。

では、将来的に著作権の保護期間が完全に終了したら、その時こそミッキーマウスの画像を自由に使えるようになるのでしょうか。

答えは、残念ながらNOです。

たとえ著作権という壁をクリアしても、「商標権」の壁があります。

著作権が、イラストや文章、音楽といった「創作された表現(作品)」そのものを保護する権利であるのに対し、商標権は、商品やサービスに使う「目印(ブランド名やロゴマーク)」を保護する権利です。

著作権と商標権の違いは以下のとおりです。

著作権 商標権
保護の目的 文化の発展のため、創作活動を保護する。 産業の発展のため、商品やサービスの信用を守る。
権利の発生 作品を創作した瞬間に自動的に発生する(無方式主義)。 特許庁に出願し、審査を経て登録されて初めて発生する(登録主義)。
保護の対象 イラスト、文章、音楽、映画などの具体的な「表現」。 商品・サービスの「目印」となる文字、図形、記号、キャラクターの絵など。
権利の存続期間 原則、著作者の死後70年など、期間に限りがある。 登録から10年。ただし、更新し続ける限り半永久的に存続できる。
他人の利用 偶然似てしまっただけでは侵害にならない(依拠性が必要)。 偶然似てしまった場合でも、登録商標と似ていれば侵害になる。

商標権は「更新」を続ける限り、半永久的に権利を維持できるという非常に強力な特徴があります。

ウォルト・ディズニー・カンパニーは、世界各国で「ミッキーマウス」という文字、様々なポーズや表情のミッキーマウスのイラスト(図形)を、非常に多くの商品・サービスの区分で商標登録しています。

そのため、ミッキーマウスを無償利用してビジネスに利用する殆どの場合、少なくとも商標権侵害の恐れが高いと言えます。

 

 

ミッキーマウスを合法的に利用するには?

もちろん合法的に、正々堂々とミッキーマウスをビジネスに活用する方法も存在します。

会社として、正式にミッキーマウスを商品化したり、キャンペーンに使ったりするには、ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社と「ライセンス契約」を結ぶことが必要です。

ライセンス契約とは、簡単に言えば「キャラクターやブランドの持ち主(ライセンサー)から、使用料(ロイヤリティ)を支払うことを条件に、そのキャラクターなどを使用する許可をもらう契約」のことです。

また、完全に個人的な利用(例えばスマホの壁紙にしたり、子どものために絵を描いてあげたりすること)であれば、私的利用として許可なく複製が認められます。

著作権法には「私的使用のための複製」という例外規定があります(著作権法第30条)。

これは、「個人的に、または家庭内などごく限られた範囲内で楽しむために、著作物を自分で複製(コピー)すること」を認めるものです。

 

 

ミッキーマウスの著作権のよくある質問

最後に、多くの方が疑問に思いがちな点について、Q&A形式で解説します。

ミッキーマウスの画像をSNSのアイコンに使ってもいい?

いいえ、使用してはいけません。これは著作権侵害にあたる可能性が高い行為です。

SNSのプロフィールアイコンは、インターネットに接続している不特定多数の人が誰でも見ることができる状態にあります。

このように、インターネット上で著作物を誰もがアクセスできる状態に置く行為は、著作権法上の「公衆送信権」(著作権法第23条)という、著作権者が専有する権利を侵害する行為となります。

なお、前のセクションで解説した「私的使用のための複製」が認められるのは、あくまで自分自身や家族といった、ごく閉鎖的でプライベートな空間での利用に限られます。

SNSのアイコンは、その性質上、全世界に公開されているパブリックな場ですので、私的使用の範囲を超えると評価されます。

なお、ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社が公式にイラストをユーザーにプレゼント等で提供し、「このイラストをSNSのアイコンに使用することを許可します。」となっている場合には、そのイラストをそのままの形で利用することはできます。

 

ミッキーマウスのイラストを描いて販売してもいい?

無断での販売は絶対にやめましょう。

これは著作権および商標権を侵害する違法行為となってしまいます。

いわゆる「ファンアート」や「二次創作」と呼ばれる活動の一環として、好きなキャラクターのイラストを描く方はたくさんいらっしゃいます。

しかし、それを「販売する」となると、話は全く別です。

元のミッキーマウスのイラストをそっくり真似て描けば「複製権」の侵害、自分なりのアレンジを加えて新しいイラストを描けば「翻案権」の侵害となります。

そして、そのイラストを販売する行為は「譲渡権」の侵害にあたります。

これらはすべて、著作権者が持っている強力な権利です。

さらに、ミッキーマウスのイラストが入った商品を販売することは、消費者に「ディズニーの公式商品だ」と誤解させるおそれがあります。

これは、前のセクションで解説した「商標権」の侵害に直結します。

したがって、発覚すれば、販売行為の差止めや損害賠償請求をウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社から受ける可能性があるだけでなく、著作権法違反として刑事罰の対象になる可能性すらあります。

 

昔のミッキーマウスの映画をYouTubeにアップロードしてもいい?

これもNGです。これは著作権侵害であり、刑事罰の対象にもなりうる行為です。

たとえ米国でパブリックドメインになった『蒸気船ウィリー』であっても、安易にYouTubeなどの動画共有サイトにアップロードしてはいけません。

日本では『蒸気船ウィリー』の著作権がまだ存続しているという解釈が有力です。

そのため、著作権者の許可なく映画本編をアップロードする行為は、「公衆送信権」の侵害となります。

さらに、映画には、音楽(BGMや主題歌)や、声優の演技なども含まれています。

これらの「著作物を世に伝える役割を果たした人(実演家、レコード製作者など)」に与えられる権利を「著作隣接権」と言います。

音楽の著作権や、レコード製作者の権利、実演家の権利などがまだ生きている場合、それらの権利も侵害することになります。

 

 

まとめ

今回は、「ミッキーマウスの著作権は期限切れになったのか?」という話題を入口に、著作権と商標権にまつわる重要な法律知識を解説してきました。

米国での著作権切れは『蒸気船ウィリー』に登場する初代ミッキー限定の話であり、日本では「戦時加算」という特殊なルールのため、ミッキーマウスの保護期間はまだ満了していないとするのが最も安全な考え方であることを覚えておきましょう。

また、仮に著作権が切れても「商標権」の壁があることも知っておきましょう。

ミッキーマウスなどの有名キャラクターは大企業の重要な資産であることが多いですから、使用することには慎重になる必要があります。

もし権利を侵害してしまえば、ディズニーなどの権利者から警告書が届き、莫大な損害賠償を請求される恐れもあるでしょう。

もし、あなたが自社のビジネスでキャラクターの利用を検討している場合、あるいは自社が創作したキャラクターの権利をどう守ればいいか悩んでいる場合、自己判断してしまう前に、ぜひ一度、著作権や商標権に詳しい弁護士にご相談されることをおすすめします。

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