瑕疵担保責任とは?契約不適合責任との違いや注意点【法改正対応】

監修者:弁護士 西村裕一
弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

「瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)」とは、一言でいうと、売買されたモノに欠陥(不具合)があった場合に、売主が買主に対して負う責任のことです。

しかし、この「瑕疵担保責任」という言葉は、2020年4月1日の民法改正により廃止され、現在は「契約不適合責任(けいやくふてきごうせきにん)」という新しい名称と仕組みに生まれ変わりました

「購入した建物の雨漏りが止まらない」 、「納品された機械がスペック通りに動かない」といったトラブルは、会社のビジネス取引でも、個人の住宅購入でも突然降りかかってきます。

その際、改正前の古い知識のままで対応してしまうと、請求できるはずの権利を逃してしまったり、逆に思わぬ重い責任を負わされたりするリスクがあります。

この記事では、旧民法における「瑕疵担保責任」の基礎知識から、新法である「契約不適合責任」への変更点、実務で注意すべきポイントまで、法律の専門家ではない方にもわかるように噛み砕いて解説します。

これから契約書を作成する担当者の方や、不動産売買を検討されている方にとって、必須の知識となるはずです。

ぜひお役立てください。

瑕疵担保責任とは?

瑕疵担保責任とは?

瑕疵担保責任とは、売買契約の目的物に「隠れた瑕疵」があった場合に、売主が買主に対して負わなければならない責任のことです。

読み方は「かしたんぽせきにん」と読みます。

2020年3月31日以前に締結された売買契約については、現在でもこの旧民法のルールが適用されます。

そのため、過去の契約に関するトラブル解決や、歴史的な経緯を理解するためには、まずこの「瑕疵担保責任」の本質を知っておく必要があります。

旧民法では、特定物(その場にある中古車や中古住宅など、替えがきかない物)の売買において、売主は「その物を現状のまま引き渡せばよい」というのが原則でした。

しかし、それではあまりに買主が不利になるため、例外的に「もし欠陥があったら責任を負いなさい」と定めたのが瑕疵担保責任です。

この責任は、売主に過失(落ち度)がなくても発生する「無過失責任」である点が大きな特徴でした。

 

瑕疵とは?

「瑕疵(かし)」という言葉は、日常会話ではほとんど使いませんが、法律の世界では「きず」や「欠陥」、「不備」のことを指します。

具体的には、その物が本来備えているべき品質や性能を欠いている状態を意味します。

瑕疵には、大きく分けて以下の3つの種類があります。

 

1. 物理的瑕疵

建物に雨漏りやシロアリ被害がある、土地に地中埋設物(ゴミやコンクリート片)がある、機械が壊れているなど、物理的な欠陥のことです。

最も一般的なイメージの「瑕疵」です。

 

2. 法律的瑕疵

物理的には問題がなくても、法律上の制限によってその物が自由に使えない状態です。

例えば、家を建てるために土地を買ったのに、建築基準法などの法規制により、予定していた建物が建てられない場合などがこれに当たります。

 

3. 心理的瑕疵

物理的・法律的には問題がないものの、心理的な嫌悪感から住み心地や使用に支障が出る状態です。

いわゆる「事故物件」が代表例です。

過去にその部屋で自殺や殺人事件があった場合、多くの人は「住みたくない」と感じるため、これも瑕疵として扱われます。

旧民法では、これらの瑕疵が「隠れた」ものであること、つまり、買主が契約時に通常の注意を払っても発見できなかったものであることが、責任追及の条件とされていました。

 

法改正により瑕疵担保責任は契約不適合責任へ

2020年4月1日に施行された改正民法により、長年親しまれてきた「瑕疵担保責任」という用語は法律の条文から姿を消しました。

代わって登場したのが「契約不適合責任」です。

これは、「売主が契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合に生じる責任」と定義されます。

「瑕疵(きずがあるか)」という不明確な基準から、「契約不適合(契約書の内容と合っているか)」という客観的な基準へと大きく転換されました。

実務の現場では、いまだに慣習として「瑕疵」という言葉を使うことがありますが、現在新たに締結される契約書においては「契約不適合」という用語を使用するのが正確です。

 

なぜ改正されたのか?

なぜ、120年ぶりに民法の大改正が行われ、瑕疵担保責任が見直されたのでしょうか。

主な理由は以下の2点です。

 

1. 「瑕疵」という概念の曖昧さの解消

旧法の「瑕疵」は、「客観的に見て欠陥があるかどうか」という基準で判断されていました。

しかし、「何をもって欠陥とするか」は人によって捉え方が異なり、トラブルの元となっていました。

例えば、中古住宅の古い設備は「欠陥」なのか「経年劣化」なのか、線引きが難しかったのです。

そこで新法では、「契約書で約束した内容と違うかどうか」を基準にすることで、判断をより明確にしようとしました。

 

2. 国際的な取引ルールとの整合性

「特定の物に隠れた欠陥があるから責任を負う」という旧民法の考え方(特定物ドグマといいます)は、日本独特の理論であり、国際的な取引ルールとは異なっていました。

そこで、国際的なスタンダードである「契約上の債務(義務)を果たしていないから責任を負う」という「債務不履行責任」の考え方に統一することになりました。

 

 

瑕疵担保責任と契約不適合責任の違い|変更のポイント

瑕疵担保責任と契約不適合責任へ|変更のポイント

「名前が変わっただけで、中身は同じでしょう?」と思われるかもしれませんが、それは誤りです。

瑕疵担保責任から契約不適合責任への変更は、買主が取れる手段(権利)が増えたり、損害賠償の範囲が変わったりと、実務に多大な影響を与える変更点が含まれています。

主な違いを比較表で確認してみましょう。

項目 旧民法:瑕疵担保責任 新民法:契約不適合責任
責任の発生要件 「隠れた瑕疵」があること 種類・品質・数量に関して「契約の内容と適合しない」こと
買主の善意・無過失 必要(隠れたものである必要あり) 不要(買主が知っていても契約内容と異なれば責任追及可能)
買主の権利(救済手段)
  • 契約解除
  • 損害賠償請求
  • 追完請求(修補、代替物引渡など)
  • 代金減額請求
  • 契約解除
  • 損害賠償請求
損害賠償の範囲 信頼利益(契約が有効だと信じた損害) 履行利益(契約通り履行されていれば得られたはずの利益)
期間制限 瑕疵を知ってから1年以内に権利行使 不適合を知ってから1年以内に通知

これらの変更点について、さらに詳しく解説します。

 

「隠れた」要件の撤廃と判断基準の変更

旧法では、買主が契約時に欠陥を知っていた場合(悪意)、売主に責任を問うことはできませんでした。

しかし、契約不適合責任では、「契約内容と合っているか」だけが基準になります。

極端な例ですが、買主が「ここが壊れているな」と知っていたとしても、契約書に「完動品(壊れていないもの)を引き渡す」と書いてあり、それを売主が保証していれば、売主は責任を負わなければなりません。

逆に言えば、どんなにボロボロの状態でも、契約書に「ボロボロの状態であることを双方が確認した」と記載されていれば、責任は発生しないのです。

契約書(および添付される仕様書や物件状況報告書)の記載内容が、これまで以上に極めて重要になったといえます。

 

買主の救済手段(権利)の「追完請求」と「代金減額請求」の追加

旧法では、欠陥が見つかった場合、買主は「いきなり契約解除」するか「損害賠償請求」するかの二択に近い状態でした。

「直してほしい」という権利(修補請求権)は、明文の規定がなかったのです。

新法では、まず第一に「契約内容通りに直してください」と言える「追完請求権」が認められました。

追完請求とは、具体的には以下の3つです。

  • 修補請求:壊れている部分を修理してほしい。
  • 代替物引渡請求:ちゃんとした別の新品と交換してほしい。
  • 不足分引渡請求:数が足りないから、足りない分を持ってきてほしい。

さらに、売主が修理に応じない場合や、修理が不可能な場合には、「代金減額請求権」を行使できます。

「直せないなら、その分安くしてほしい」と主張できる権利です。

これにより、トラブルの解決方法がより柔軟になりました。

 

損害賠償の範囲が「履行利益」へ拡大

さらに、損害賠償の範囲も広がりました。

旧法では、契約が無効なのに有効だと信じて支出した費用(登記費用や調査費用など)である「信頼利益」に限られると解釈されていました。

一方、新法では、一般的な債務不履行と同じ扱いになるため、契約が正しく履行されていれば得られたはずの利益(転売して得られたはずの利益や、営業利益など)である「履行利益」まで請求できる可能性があります。

売主にとっては、責任を負う際の金銭的リスクが高まったと言えます。

ただし、損害賠償請求をするには、売主側に「過失(帰責事由)」が必要となる点は注意が必要です(修補や減額請求には過失は不要です)。

合わせて読みたい

契約不適合責任について、より詳しくお知りになりたい方はこちらのページもご覧ください。

 

 

瑕疵担保責任(契約不適合責任)の具体例

「契約不適合」と一口に言っても、具体的にどのような状態を指すのでしょうか。

法律上、契約不適合には大きく分けて「種類」「品質」「数量」の3つのパターン(および「権利」の不適合)が存在します。

これらは、旧民法の瑕疵担保責任で扱われていた「隠れた瑕疵」の概念を包摂しつつ、さらに広い範囲をカバーしています。

ここでは、それぞれのパターンについて、具体事例を紹介します。

 

①「品質」に関する契約不適合(旧・瑕疵に相当)

これが旧民法における「瑕疵(欠陥)」に相当する部分で、実務上特にトラブルが多い類型です。

目的物が、契約で予定されていた性質や性能、状態を備えていないケースを指します。

事例 契約不適合の内容 ポイント
中古住宅の雨漏り 契約書で「雨漏りなし」とされていたにもかかわらず、入居後に天井の一部から雨漏りが発覚した。 契約で合意した品質(雨漏りがないこと)を満たしていない。買主は修補や代金減額を請求できる。
土地の土壌汚染 商業用地として購入した土地から、基準値を超える有害物質が検出された。 土地として通常期待される安全性や利用目的上の品質に欠陥がある。
機械の初期故障 新品の製造機械を導入したが、納品直後から頻繁にエラーが発生し、仕様書通りの稼働ができない。 契約で保証された性能を満たしていない。売主は修理または交換の義務を負う。

 

②「種類」に関する契約不適合

契約で特定した種類や銘柄、型番とは異なる物が引き渡されたケースです。

事例 契約不適合の内容 ポイント
指定外の部品 特定のメーカーの高品質な電子部品を1,000個注文したが、別メーカーの安価な互換部品が納品された。 品質の良し悪しに関わらず、契約した種類(銘柄やメーカー)と異なるため不適合となる。買主は代替物引渡しを請求できる。

 

③「数量」に関する契約不適合

契約で合意した数量や面積よりも少ない物を引き渡した場合です。

事例 契約不適合の内容 ポイント
土地の面積不足 実測精算を前提とした売買で、契約書記載の面積よりも実際の測量面積が少なかった。 契約で約束した数量を満たしていない。買主は不足分に見合う代金減額を請求できる。

 

④「権利」に関する契約不適合

目的物に、買主の自由な利用を阻害する他人の権利が付着していた場合などです。

事例 契約不適合の内容 ポイント
土地への借地権 更地として購入した土地に、実は第三者が主張できる借地権や賃借権が残っていた。 買主は完全な所有権の行使ができない。売主は権利の障害を除去する義務を負う。

 

これらの事例からわかる通り、契約不適合の判断基準は常に「契約書の内容(合意内容)と合っているか」です。

したがって、不具合があっても、それを契約書に「容認事項」として記載し、双方が合意していれば、売主の責任は発生しません。

 

 

瑕疵担保責任(契約不適合責任)の期間制限

売主がいつまでも責任を負わなければならないとすると、売主は安心して代金を使えず、取引の法的安定性が損なわれます。

そこで民法は、買主が権利を行使できる期間に制限を設けています。

この期間制限のルールも、法改正で大きく変わったポイントの一つであり、特に実務担当者が間違えやすい部分ですので、しっかり押さえておきましょう。

 

種類・品質に関する不適合の場合

知った時から1年以内の「通知」が必要です。

買主が、種類または品質に関する契約不適合を知った時から1年以内に、その旨を売主に通知しなければ、買主の権利(追完請求、減額請求、損害賠償請求、解除権)は消滅します(民法566条)。

民法第566条
(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
第五百六十六条 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。

引用:民法|e-Gov法令検索

 

旧法との違い

旧法(瑕疵担保責任)では、1年以内に「権利行使(請求や訴えの提起)」が必要でした。しかし、新法では「通知」だけでよくなりました。通知さえしておけば、具体的な請求や金額の提示は1年を過ぎてからでも可能です(ただし、後述の消滅時効には注意)。

 

「通知」とは何をすればいいのか?

裁判などを起こす必要はありません。「ここが契約と違いますよ」「不具合がありますよ」という事実を売主に伝えればOKです。

ただし、後で「言った、言わない」のトラブルになるのを防ぐため、電話ではなく、メールやFAX、重要な案件であれば内容証明郵便で通知するのが鉄則です。

通知の内容も、「なんとなく調子が悪い」といった曖昧なものではなく、「屋根の北側部分から雨漏りが発生している」「納品された部品の寸法が図面より2ミリ大きい」など、不適合の内容を具体的に特定する必要があります。

 

例外:売主が悪意・重過失の場合

売主が引渡し時に不適合があることを知っていた(悪意)、または重大な過失によって知らなかった場合は、この1年の期間制限は適用されません。

売主を保護する必要がないからです。この場合、買主は1年を過ぎても権利を行使できます(消滅時効にかかるまで)。

 

数量・権利に関する不適合の場合

数量不足や権利の不適合については、「知ってから1年以内の通知」という制限はありません。

なぜなら、数量が足りないことや、他人の権利が付着していることは、外見上明白であったり、契約書と照らし合わせれば容易に判断できることが多く、品質の欠陥のように「後からじわじわ判明する」性質のものではないからです。

また、売主としても比較的容易に確認できるため、早期の通知を義務付ける必要性が低いと考えられています。

 

消滅時効の壁

上記の通知期間とは別に、すべての契約不適合責任(種類・品質・数量・権利)には、債権の一般的な「消滅時効」が適用されます(民法166条)。

以下のいずれかの期間が経過すると、権利は時効により消滅します。

  • 権利を行使できることを知った時から5年(主観的起算点)
  • 権利を行使できる時(引渡し時)から10年(客観的起算点)

つまり、「品質」の不適合の場合、不具合を見つけてから1年以内に「通知」を行ったとしても、その後放置して5年が経過してしまうと、時効によって請求できなくなる可能性があります。通知をした後は、速やかに交渉を進める必要があります。

 

商法による特則(BtoB取引の注意点)

会社間の取引(売主も買主も商人の場合)では、民法よりもはるかに厳しい商法526条のルールが適用されます。これを忘れていると、ビジネスで致命的なミスとなります。

  • 検査義務
    買主は、商品を受け取ったら、遅滞なく検査をしなければなりません。
  • 通知義務
    検査で発見できる瑕疵・不適合:直ちに通知が必要。
    検査では直ちに発見できない瑕疵(隠れた瑕疵):商品受領後6ヶ月以内に発見して通知が必要。

民法の「知ってから1年」と比べると、非常に期間が短くなっています。

特に「受領後6ヶ月」という絶対的な期間制限があるため、半年後に機械が故障しても、それが初期不良であったことを証明して責任追及するのは非常に困難になります。

企業間取引においては、「届いたらすぐ検品」がリスク管理の基本になりますのでご留意ください。

商法第526条
(買主による目的物の検査及び通知)
第五百二十六条 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。2 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。売買の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことを直ちに発見することができない場合において、買主が六箇月以内にその不適合を発見したときも、同様とする。3 前項の規定は、売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことにつき売主が悪意であった場合には、適用しない。

引用:商法|e-Gov法令検索

 

 

瑕疵担保責任(契約不適合責任)の免責特約とは?

契約不適合責任の規定は、「任意規定」と呼ばれます。

これは、「当事者同士で別の取り決め(特約)をすれば、そちらを優先してもいいですよ」というルールのことです。

逆に、絶対に守らなければならないルールは「強行規定」と呼ばれます。

したがって、契約書の中に「売主は契約不適合責任を一切負わない」または「責任を負う期間を引渡しから3ヶ月に限定する」といった条項(特約)を盛り込めば、原則としてその特約は有効となります。

これを「免責特約(めんせきとくやく)」といいます。

特に中古住宅の売買などでは、建物が古いため、引渡し後にどのような不具合が出るか予測できません。

個人である売主が将来にわたって重い責任を負うのは酷であるため、実務上、免責特約や期間短縮の特約を入れることが一般的です。

しかし、「どんな特約でも自由」というわけではありません。

買主が著しく不利になる場合や、公平性を欠く場合には、法律によって特約が無効とされるケースがあります。

ここでは代表的な3つの制限ルールを紹介します。

 

消費者契約法による制限(BtoC取引)

売主=事業者(会社など)、買主=消費者(個人)の場合など、消費者契約法が適用される場合には、事業者の契約不適合責任(特に損害賠償責任)を「全部免責」とする特約は無効です(消費者契約法8条)。

例えば、不動産会社が個人に中古マンションを売る際に「現状有姿とし、売主はいかなる責任も負わない」とする契約条項は無効となります。ただし、「一部免責(期間を短縮するなど)」は、不当に短いものでなければ認められる可能性があります。

 

宅地建物取引業法による制限(プロ対アマの不動産取引)

売主=宅建業者(不動産屋)、買主=宅建業者以外(一般個人や一般法人)の場合など、宅地建物取引業法による制限が適用される場合には、民法の規定よりも「買主に不利な特約」は原則として無効となります(宅建業法40条)。

 

民法独自の制限(売主の悪意)

売主が、不具合があることを知っていながら、それを買主に告げずに「責任を負わない」という免責特約を結んだ場合、その特約は無効です(民法572条)。

これは信義則(信義誠実の原則)に基づくルールです。

ズルをして責任を逃れることは許されません。

以上を簡易な表で整理すると以下のとおりです。

ただし、微妙な事例については各法律の適用条件を個別事案に沿って慎重に判断頂くように留意ください。

取引の形態 売主 買主 免責特約の効力
個人間売買 個人 個人 原則有効(全部免責もOK)
企業間取引 会社 会社 原則有効(全部免責もOK)
消費者契約 会社 個人 全部免責は無効(一部免責はOKの可能性あり)
宅建業法 宅建業者 一般 民法より不利な特約は無効(期間を引渡しから2年以上とする特約のみOK)

 

免責特約の注意点

なお、免責特約を有効にするためには、曖昧な表現を避けることが重要です。

  • 悪い例:「売主は責任を負わない」
  • 良い例:「売主は、本物件の引渡し後、本物件の種類、品質または数量に関して契約の内容と適合しない状態があったとしても、買主に対し、修補、代替物の引渡し、不足分の引渡し、代金の減額、損害賠償および契約解除の責任を含め、一切の責任を負わないものとする。」

このように、具体的に権利を列挙して免責することを明記すると、紛争のリスクを減らすことができます。

 

 

【売主側】瑕疵担保責任(契約不適合責任)のポイント

【売主側】瑕疵担保責任(契約不適合責任)のポイント

売主として契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任)を適切に管理することは、売却後の予期せぬ出費や、訴訟リスクを回避するために不可欠です。

そして、売主側の防衛策は、契約内容を明確にしてリスクをコントロールすることです。

具体的にポイントとなる点を見ていきましょう。

 

ポイント1:契約書に「品質・仕様」を具体的に明記する

契約不適合責任は「契約と合っていないこと」が原因で発生します。

そこで、売主側にとって最も重要な対策は、「何を売ったのか」を客観的に明確にすることです。

 

商品の状態を客観的に記録する

中古の機械や建物、ソフトウェアなどを販売する場合、引き渡し時点の不具合や限界性能を、写真、ログデータ、専門家の診断書など、具体的な証拠をもって記録し、それを契約書に添付します。

 

仕様書・物件状況等報告書の重要性

不動産売買では、売主が作成する「物件状況等報告書」が、契約の「品質」を決める重要な証拠になります。

過去の雨漏りの有無、シロアリ被害の経験、設備の故障歴など、知っている限りの情報を正直に、そして詳細に記載してください。

曖昧な記載や、事実と異なる記載があれば、後々「契約不適合」の証拠として使われてしまいます。

 

ポイント2:免責特約および期間制限特約の適切な活用

売買契約における責任は、「契約で定めた内容」が優先されます。

売主として、責任を限定する特約は積極的に検討すべきです。

 

期間短縮特約の利用

特に個人の売主の場合、引渡しから数年後に責任を追及されるのは経済的な負担が大きすぎます。

例えば、「契約不適合責任を負う期間は、引渡しから3ヶ月間に限る」といった特約を設けることで、リスクを限定できます。

ただし、先に解説した通り、売主が宅建業者である場合や、買主が消費者である場合は、法律により期間短縮に厳しい制限がかかるため、弁護士に相談し、特約の有効性を確認してください。

 

「現状有姿(げんじょうゆうし)」の限界

「本物件は現状有姿のまま引き渡す」という記載は契約書でもよく見かけますが、この条項だけでは不十分です。

この文言は、単に「今の状態のまま引き渡す」という意味であり、「瑕疵(不具合)があっても責任を負わない」という免責の意思を明確に伝えるものではないと解釈される可能性があるからです。

免責の意思は、具体的かつ明確に記載する必要があります。

 

ポイント3:早期の交渉と修理(追完)対応の検討

買主から契約不適合の通知を受け取った場合、売主はまず「追完請求(修理や交換)」に応じるかどうかを検討します。

 

追完請求のメリット

追完請求に応じることで、高額になりがちな「代金減額請求」や「損害賠償請求」に移行するのを防げる可能性があります。

また、売主が自ら修理業者を選ぶことで、修理費用をコントロールしやすいというメリットもあります。

 

拒否権の行使

ただし、売主に過大な負担を強いる場合(例えば、修理費用が売買代金をはるかに超えるなど)、売主は追完を拒否することができます。

この場合、買主は代金減額請求などに移行することになります。

 

 

【買主側】瑕疵担保責任(契約不適合責任)のポイント

【買主側】瑕疵担保責任(契約不適合責任)のポイント

買主側にとって、契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任)は購入後のリスクをヘッジするための最も重要な防御手段といえます。

この権利を失わないための最重要ポイントは、権利行使のタイミングと手続きを間違えないことです。

 

ポイント1:契約前の徹底的なデューデリジェンス(調査)

いくら新法で買主の権利が強化されたとはいえ、不適合が見つかれば時間と費用がかかります。事前にリスクを把握し、価格交渉に活かすことが最善です。

 

建物状況調査の実施

中古住宅を購入する際は、契約前に第三者の専門家(建築士など)に依頼して、建物の状態を客観的にチェックしてもらいましょう。

調査で見つかった不具合は、契約書に「容認事項」として記載させるか、売主の責任で修理させる(契約内容に含める)べきです。

 

契約書の仕様項目を細かくチェック

商品の購入の場合、単に「〇〇一式」とするのではなく、「〇〇の動作保証期間」「耐用年数」「素材」など、期待する品質や性能を仕様書にできる限り細かく記載してください。

これが「契約内容」となり、後の契約不適合の強力な証拠となります。

 

ポイント2:引渡し後の「速やかな検査と通知」の徹底

買主の権利行使の「期限」は、不適合を知った時から1年という非常にタイトなものです。

この通知を怠ると、どんなに重大な不具合でも権利を失います。

 

受領後ただちに検査を行う

物品が届いた、建物の引渡しを受けた、その日からすぐに検査を開始してください。

特に企業間の取引(商法が適用される場合)では、「直ちに」検査し、瑕疵があれば「直ちに」通知しないと権利を失う(原則6ヶ月以内)という極めて厳しいルールが適用されます。

 

通知の証拠を残す

不適合を発見したら、その事実(いつ、どこに、どのような不具合があるか)を明確に記載し、内容証明郵便や、到達が記録される電子メールなど、後で証拠となる方法で売主に通知してください。

口頭での通知は避けましょう。

 

ポイント3:柔軟な救済手段の選択

新法では、買主の権利が「解除・損害賠償」から「追完・減額」へと拡大されました。

状況に応じて最も合理的な選択肢を取ることが重要です。

 

追完請求の優先

不具合の程度が軽微であれば、まずは「修理(修補)をしてください」という追完請求を優先します。

 

代金減額請求への移行

売主が追完請求に応じない、または修理が不可能な場合は、修理に要する費用や、不具合によって失われた価値に相当する金額を「代金から引いてください」という代金減額請求に移りましょう。

 

解除権の制限

契約の解除は、代金減額請求などを行ってもなお、契約をした目的が達成できないほど重大な不適合がある場合にのみ認められます。軽微な不適合で安易に解除してしまうと、訴訟で認められないリスクがあるため、慎重な判断が必要です。

 

 

瑕疵担保責任についてのQ&A

続いて、よくいただく質問についてQ&A形式でご紹介します。

瑕疵担保責任とは何ですか?

瑕疵担保責任とは、2020年3月までの旧民法において使われていた用語で、売買した物に「隠れた欠陥(瑕疵)」があった場合に、売主が買主に対して負う責任のことです。

現在は、より契約の内容との一致を重視する「契約不適合責任」という名称に変わり、買主の権利(追完請求、代金減額請求など)が具体的に法律で定められました。

取引の公正さと解決の柔軟性を高めるために改正されました。

 

瑕疵担保責任は1年以内ですか?

原則として、知ってから1年以内に「不適合の通知」が必要です。

契約不適合(品質や種類に関するもの)を買主が知った時から1年以内に売主に「不適合がある」という事実を通知しないと、買主の権利は消滅します(民法566条)。

この「1年」は、買主が不具合を知った瞬間からカウントダウンが始まるため、非常にタイトです。

また、企業間の取引では、この期間はさらに短縮され、「受領後6ヶ月以内」が原則となります。

ただし、この通知をした後、実際に金銭を請求したり、訴訟を起こしたりする期間は、最長で引渡しから10年の消滅時効が適用されます。

 

瑕疵担保責任は廃止されたのですか?

はい、用語としては廃止され、契約不適合責任に移行しました。

責任自体がなくなったわけではありません。むしろ、「瑕疵」という曖昧な言葉が、「契約内容との不適合」という明確な基準に置き換わり、買主は「修理してほしい」「安くしてほしい」といった新しい権利を得て、より強力な保護を受けることができるようになりました。

 

瑕疵保険が使えないケースは?

住宅の瑕疵保険(既存住宅売買瑕疵保険など)は、主に買主の保護を目的としていますが、保険金が支払われないケースも存在します。
  • 契約時に知っていた瑕疵契約書や重要事項説明書に記載されていた不具合については、想定内のリスクとして保険の対象外です。
  • 経年劣化単なる時間の経過による劣化や、通常の使用で生じる摩耗は、保険の対象外です。保険は「隠れたる構造上の欠陥」などを対象とします。
  • 天災による損害地震や台風などの自然災害による損害は、基本的に火災保険や地震保険の適用範囲となり、瑕疵保険ではカバーされません。
  • 業者の検査未実施既存住宅売買瑕疵保険に加入するためには、登録された検査機関による事前検査に合格する必要があります。検査を受けずに契約した場合や、検査で不適合とされた部分を修補せずに契約した場合は、保険は利用できません。

 

 

まとめ

今回は、旧民法の瑕疵担保責任の基本的な意味から、現在の契約不適合責任との違い、実務上の注意点まで、幅広い視点で解説しました。

法改正により、「契約内容との適合性」を判断基準とする、より現代的でグローバルなルールへと変化しています。

これによって、契約書、仕様書、物件状況報告書といった「書面」の持つ意味が、以前にも増して重要になりました。

「何を売るか、何を買うか」を曖昧にせず、書面で具体的に合意することが、売主・買主双方にとって、予期せぬトラブルと経済的な損失を避けるための最大の防御策です。

契約不適合責任やその他契約に関するトラブルでお悩みのことがございましたら、どうぞお一人で抱え込まず、私たちデイライト法律事務所にご相談ください。 契約書作成の段階から、不適合が発見された後の交渉、訴訟対応まで、専門家の立場から全力でサポートいたします。

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