営業秘密とは?不正競争防止法の営業秘密侵害罪をわかりやすく解説

監修者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

営業秘密とは、一般に、公表されていない営業上または技術上の秘密の情報のことです。

ただし、不正競争防止法ではより厳密な定義が置かれているため、その意味するところも状況によって変化します。

営業秘密は、会社の競争力を支える重要な要素の一つです。

しかし、その重要性とは裏腹に、営業秘密が不正に取得・利用される事件は後を絶ちません。

こうした事態に対処するために、不正競争防止法は「営業秘密侵害罪」を定めて、真面目に営業している会社を守っています。

この記事では、営業秘密とは何か、どのような行為が営業秘密侵害罪に該当するのか、そして会社が営業秘密を守るためにはどのような対策を講じるべきかについて、わかりやすく解説します。

特に、不正競争防止法における営業秘密は、日常的に使われる「営業秘密」よりも複雑になっています。ぜひこちらの解説をお役立てください。

営業秘密とは?

営業秘密とは?

 

不正競争防止法の営業秘密

営業秘密とは、日常的には、会社が社外秘にしている、営業上または技術上の情報を指します。

もっとも、不正競争防止法では、より細かく定義されており、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術的又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう」とされています。

つまり、

  1. ① 秘密として管理されていること(秘密管理性)
  2. ② 生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術的又は営業上の情報であること(有用性)
  3. ③ 公然と知られていないこと(非公知性)

の三つの要件をすべて満たす場合に、はじめて不正競争防止法上の「営業秘密」として認められることになります。

不正競争防止法では、会社の営業秘密が不正に侵害された場合に、その会社を保護するための定めが置かれています。

そのため、保護するべき営業秘密の範囲を厳密に定義しています。

逆に言えば、上の①②③のどれかの要件を欠くような情報が不正に侵害されたとしても、不正競争防止法上は残念ながら保護されないことになります。

この場合、民法上の救済措置(不法行為や債務不履行に基づく損害賠償など)で救済を受ける道はありますが、不正競争防止法に基づく手厚い保護が受けられない、ということに注意が必要です。

なお、①②③の3要件についてより詳しくは以下の「◯不正競争防止法の営業秘密の3要件」で後述します。

不正競争防止法第2条第6項

(定義)
第二条
6 この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。

引用:不正競争防止法|e-Gov法令検索

不正競争防止法は、営業秘密の侵害だけでなく、様々な不正行為を定めて取り締まっています。

不正競争防止法についてより詳しくお調べになりたい方はこちらのページも合わせてご覧ください。

 

営業秘密と企業秘密との違い

営業秘密と似た言葉に、「企業秘密」があります。

どちらも会社が外部に漏らしたくない情報を指して日常会話で使われますので、その場合に意味の違いはありません。

もっとも、法的には、営業秘密と、企業秘密では、法律上の保護の有無に違いがあります。

営業秘密は、不正競争防止法によって保護される情報で、一定の要件を満たす情報に限定されています。

一方、企業秘密は、会社が自主的に秘密にしている情報にすぎません。そのため、不正競争防止法などの法律上の保護を受ける対象とは限りません。

例えば、新製品の開発情報や顧客リストは、不正競争防止法で保護される営業秘密に該当する可能性があります。

一方、社内イベントの予定や中小企業の売上目標は、営業秘密にはならないことが多いと思われますが、それを会社が秘密にしていれば企業秘密に該当する可能性があります。

 

営業秘密と知的財産との違い

知的財産という言葉も、営業秘密と同じ場面でよく登場します。

どちらも会社の重要な財産で、会社が持つ技術やノウハウなどの情報を保護し、競合他社に対する優位性を確立するために活用されます。

もっとも、その内容はやや異なります。

営業秘密は、技術情報、営業情報など、事業活動に有用な情報全般が対象になりえます。

一方、知的財産は、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権などが認められる、法律で定められたごく限られた種類の情報が対象となります。

また、知的財産はその対象となるキャラクターや発明、商標などが秘密にされるわけではないことが多いです(特に、特許については国によって公開されます)。

他にも、営業秘密と知的財産を比較すると以下の表のようになりますので参考にされてください。

営業秘密 知的財産
共通する点
  • 会社の重要な財産
  • 法律によって保護される
異なる点 範囲 会社の営業活動に有用な情報であれば幅広く該当する(ただし、3要件あり) 発明(特許)、著作物、商標など、決まった類型のみが知的財産となる
公開/非公開 非公開 公開される(特に、特許は出願後に国によって公開される)
保護の態様 会社自身が秘密として管理する 国から権利を付与されて保護される

 

営業秘密と個人情報との違い

営業秘密と個人情報も、同じ場面でよく議論がされます。

個人情報とはプライバシー情報のことで、「特定の個人を識別することができる情報」を含む情報などです。

どちらも、会社が持っている情報を指すことが多く、厳重に管理される点で共通します。

しかし、「法律」と、「保護されている目的」に違いがあります。

営業秘密は、会社の健全な営業活動を保護するために、不正競争防止法によって保護されますが、個人情報は、個人の権利利益を保護するために、個人情報保護法によって保護されます。

営業秘密が会社の営業活動を保護するためのものであるのに対して、個人情報はその会社のお客様(消費者)などの個人のプライバシーを守るための概念です。

個人情報を保護しているのは個人情報保護法という法律です。

この法律は、消費者などの個人のプライバシーを守るための法律で、独自のルールや罰則を定めています。

個人情報について詳しくお調べになりたい場合は、こちらの記事も合わせてお読みください。

 

 

不正競争防止法の営業秘密の3要件

不正競争防止法で営業秘密として保護されるためには、前述の通り、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。

  1. ① 秘密として管理されていること(秘密管理性)
  2. ② 生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術的又は営業上の情報であること(有用性)
  3. ③ 公然と知られていないこと(非公知性)

これらの要件を満たす情報は、会社にとって重要な財産となり、不正な競争から保護される対象となります。以下で、それぞれについて見ていきましょう。

 

秘密管理性

営業秘密として保護されるためには、その情報が実際に、秘密として管理されていることが必要です。

「秘密として管理されている」というためには、具体的状況に応じた管理措置がとられていて、その情報について、情報にアクセスした人が営業秘密であることを認識できるようにしておく必要があります。

どの程度の管理措置を行えば秘密管理性が認められるかは、情報の性質、保有形態、情報を保有する会社の規模等に照らして総合的に判断されることになります。

例えば、「機密」や「○秘」の記載がなされた上で金庫の中に保管されている書類であれば、そこにある情報については「秘密に管理されている」と判断されやすいといえるでしょう。

システム上のアクセス制限がされた情報なども、秘密管理性が認められやすいです。

 

有用性

営業秘密となるためには、単に会社が秘密にしているだけでなく、その情報が実際に有用な情報であることが必要です。

有用な情報としては、例えば、製品の設計図や製法、顧客名簿、販売マニュアル等の情報が該当します。

他にも、過去に失敗した実験のデータ等であっても、再度の失敗を避け、研究開発費用の投資を節約できるという意味で有用性が認められることがありますので、有用性の判断も総合的に判断する必要があります。

有用性が否定される情報の例としては、犯罪の手口や脱税の方法に関する情報など反社会的な情報が挙げられます。

 

非公知性

既に誰もが知っている情報であれば、営業秘密として保護する必要がありません。そのため、「公然と知られていない」情報であることが必要です。

「公然と知られていない」とは、当該情報が保有者の管理下以外では一般的に入手できない状態にあることです。

なお、保有者以外の第三者がその情報を知っている場合でも、第三者に守秘義務が課されている場合には「公然と知られていない」状態にあるといえます。

また、情報を知っている人以外の第三者がその情報を独自に認識した場合(例 独自にその技術を開発した場合など)でも、その第三者が情報を秘密にしている場合には同じく「公然と知られていない」といえます。

 

 

営業秘密侵害罪に該当する行為

不正競争防止法では、営業秘密を侵害する行為を営業秘密侵害罪に該当する行為として禁止しています。

具体的には、以下のような行為が営業秘密侵害罪に該当する不正行為として禁止されています。

  1. ① 営業秘密の不正取得行為、不正取得後に営業秘密を使用・開示する行為(4号)
  2. ② 不正取得された営業秘密を悪意又は重過失によって取得・使用・開示する行為(5号)
  3. ③ 不正取得された営業秘密を取得後に悪意又は重過失で使用・開示する行為(6号)
  4. ④ 保有者から示された営業秘密を図利加害目的で使用・開示する行為(7号)
  5. ⑤ 不正開示された営業秘密を悪意又は重過失で取得・使用・開示する行為(8号)
  6. ⑥ 不正開示された営業秘密を取得後に悪意又は重過失で使用・開示する行為(9号)
  7. ⑦ 営業秘密侵害品の製造者がこれを譲渡等する行為、営業秘密侵害品を譲り受けた者が悪意又は重過失でこれを譲渡等する行為(10号)

より詳しく、それぞれの行為についてみていきましょう。

 

①営業秘密の不正取得行為、不正取得後に営業秘密を使用・開示する行為(4号)

窃盗、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(不正取得行為)や不正取得行為によって取得された営業秘密を使用・開示する行為のことです。

「不正の手段」には、犯罪に該当する行為のみならず、それと同等の違法性を有する公序良俗違反の行為を手段とする場合も含まれます。

不正取得行為の例としては、営業秘密が記録されたPCやUSBメモリ等を窃取する行為、保有者のサーバーに不正アクセスし、保存されている営業秘密の電子データを取得する行為等があります。

「使用」とは、営業秘密の本来的目的に沿って用いることを意味しますので、技術情報である営業秘密を用いて製品を製造することや顧客名簿を用いて販売行為を行う場合などがこれにあたります。

「開示」とは、営業秘密を第三者が認識可能な状態にすることを意味し、非公知性を失わない態様で(つまり、「こっそりと」)特定の人物に示すことを含みます。

営業秘密を口外する場合はもちろん、技術情報について他社との間でライセンス契約を締結する場合なども「開示」にあたります。

 

②不正取得された営業秘密を悪意又は重過失によって取得・使用・開示する行為(5号)

その営業秘密について不正取得行為が介在したことを知っていたか(悪意)、または、通常要求される注意義務を果たせば容易に不正競争行為が介在した事実を知ることができた(重過失)状態で、不正取得された営業秘密を取得・使用・開示する行為のことです。

重要な技術情報について、その所持者の入手経緯を何ら調査することなく取得した場合には、何らかの調査を行えば容易に不正取得行為が介在した事実が判明するにもかかわらずこれを怠ったとして、重過失が認められることになるでしょう。

 

③不正取得された営業秘密を取得後に悪意又は重過失で使用・開示する行為(6号)

営業秘密の取得後に、その営業秘密について不正取得行為が介在したことを知ったか(悪意)、または、通常要求される注意義務を果たせば容易に不正取得行為が介在した事実を知ることができた(重過失)状態で、不正取得された営業秘密を使用・開示する行為のことです。

営業秘密の取得後にその営業秘密に関する不正取得行為が介在したとの報道がなされた場合や、営業秘密の保有者から警告を受けた場合などがこれにあたります(適用除外参照)。

 

④保有者から示された営業秘密を図利加害目的で使用・開示する行為(7号)

営業秘密の保有者が雇用契約、下請契約、ライセンシー契約等に基づき営業秘密を示した場合に、営業秘密を示された者が自己若しくは第三者に不正の利益を得させようとし(図利目的)、または、保有者に損害を与える目的(加害目的)で営業秘密を使用・開示する行為のことです。

営業秘密を保有する会社に勤務する従業員が、業務の中で知った営業秘密を競合他社へ開示し、対価を得る行為などがこれにあたります。

 

⑤不正開示された営業秘密を悪意又は重過失で取得・使用・開示する行為(8号)

営業秘密を取得する際に、それが7号に規定された開示行為や法律上・契約上の守秘義務に反してなされた営業秘密の開示行為(不正開示行為)によること若しくはこれらの開示行為が介在したことを知っていたか、通常要求される注意義務を果たせば容易に知りえたにもかかわらず、営業秘密を取得・使用・開示する行為のことです。

営業秘密を保有する会社に勤務する従業員が、業務の中で知った営業秘密を競合他社へ開示した場合に、競合他社が当該営業秘密を取得する行為や営業秘密を使用する行為などがこれにあたります。

 

⑥不正開示された営業秘密を取得後に悪意又は重過失で使用・開示する行為(9号)

営業秘密の取得後に、その営業秘密について不正開示行為が介在したことを知ったか(悪意)、または、通常要求される注意義務を果たせば容易に不正開示行為が介在した事実を知ることができた(重過失)状態で、不正開示された営業秘密を使用・開示する行為のことです。

営業秘密の取得後にその営業秘密に関する不正開示行為が介在したとの報道がなされた場合や、営業秘密の保有者から警告を受けた場合などがこれにあたります。

 

⑦営業秘密侵害品の製造者がこれを譲渡等する行為、営業秘密侵害品を譲り受けた者が悪意又は重過失でこれを譲渡等する行為(10号)

営業秘密の不正使用行為によって製造された製品を、その製造者が譲渡、引渡し、譲渡等する行為や、その製品の譲受人が、その譲受け時に当該製品について不正使用行為により製造されたことについて知っていたり、知らなかったことについて重大な過失があった場合にその製品をさらに譲渡等をする行為です。

不正競争防止法第2条(抜粋)

(定義)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
~~
四 窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(以下「営業秘密不正取得行為」という。)又は営業秘密不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為(秘密を保持しつつ特定の者に示すことを含む。次号から第九号まで、第十九条第一項第七号、第二十一条及び附則第四条第一号において同じ。)

五 その営業秘密について営業秘密不正取得行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為

六 その取得した後にその営業秘密について営業秘密不正取得行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為

七 営業秘密を保有する事業者(以下「営業秘密保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為

八 その営業秘密について営業秘密不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について営業秘密不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為

九 その取得した後にその営業秘密について営業秘密不正開示行為があったこと若しくはその営業秘密について営業秘密不正開示行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為

十 第四号から前号までに掲げる行為(技術上の秘密(営業秘密のうち、技術上の情報であるものをいう。以下同じ。)を使用する行為に限る。以下この号において「不正使用行為」という。)により生じた物を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為(当該物を譲り受けた者(その譲り受けた時に当該物が不正使用行為により生じた物であることを知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者に限る。)が当該物を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為を除く。)

引用:不正競争防止法|e-Gov法令検索

 

 

営業秘密侵害罪の罰則

営業秘密侵害罪は、不正競争防止法によって規定されており、違反者には以下の刑事罰が科せられます。

 

個人の場合

10年以下の拘禁刑または2,000万円以下の罰金(もしくはその両方)。
ただし、国外で使用する目的で侵害した場合は、10年以下の拘禁刑または3,000万円以下の罰金(もしくはその両方)。

 

法人の場合

5億円以下の罰金。

国外で使用する目的で侵害した場合は、10億円以下の罰金。

これらの罰則は、不正競争防止法違反の中でも特に重い部類に入ります。営業秘密は会社の競争力の源泉と考えられるため、その侵害は会社の存続を脅かす重大な不正行為だからです。

なお、刑事罰の他に、営業秘密を侵害した場合には、民事上も、損害賠償請求、差し止め請求、信用回復措置請求などを受ける可能性があり、これに応じる義務があります。

 

営業秘密侵害罪の検挙件数

近年の営業秘密侵害罪の検挙件数は、増加傾向にあります。この背景には、技術の高度化やグローバル化に伴い、営業秘密の重要性が増していることが考えられます。

具体的に、警察庁が公表している営業秘密侵害事犯の検挙事件数は以下の通りです。

検挙事件数
平成26年(2014) 11
平成27年(2015) 12
平成28年(2016) 18
平成29年(2017) 18
平成30年(2018) 18
令和元年(2019) 21
令和2年(2020) 22
令和3年(2021) 23
令和4年(2022) 29
令和5年(2023) 26

出典:令和5年における生活経済事犯の検挙状況等について|警察庁

 

 

営業秘密が漏洩した事例

続いて、具体的に、どのような事例で営業秘密が漏洩してしまったのか、事例をご紹介します。

事例1 元社員から在職中社員への働きかけによる不正取得の事例
大手総合商社の元社員が、退職後に不正な利益を得る目的で、在職中の従業員を欺き、会社のサーバーへのアクセス権限を取得した事例。その後、転職先から貸与されたパソコンを使用して、営業秘密である取引台帳などのファイルを複製して持ち出されています。

 

事例2 元役員による競業他社への持ち出しの事例
塗装大手である日本ペイント社の元役員が、同社の主力商品の営業秘密(建築用塗料の設計情報)を複製し、USBメモリーに保存して持ち出した事例。

 

事例3 派遣労働者による顧客情報持出&名簿業者への開示事例
通信教育業を営むベネッセ社でシステム開発に従事していた派遣労働者が、約3000万件の顧客情報を自己のスマートフォン等に複製して持ち出し、このうち約1000万件の顧客情報をインターネット上にアップロードし、名簿業者に開示した事例。

 

事例4 海外からの働きかけによる漏洩の事例
電子部品製造大手のNISSHA社の元従業員が、海外(中国)からの接触・働きかけを受けて、営業秘密を持ち出して、関連会社の事務所にて同社の主力商品に使用されるタッチセンサー技術に関する情報を、自身のハードディスクに不正に複製した事例。

なお、その元従業員は退職後、中国にある競合他社で働いていたとのことです。

 

 

営業秘密を守るための対策

以上のような営業秘密の漏洩を予防するために、会社としてはどのような対応が必要でしょうか?

会社が営業秘密を守るための代表的な対策方法は以下の通りです。

営業秘密を守るための対策

 

①秘密管理体制の構築

社内ルールなどで営業秘密の管理について定めることで、社内の秘密管理体制を作ることから始める必要があります。

体制としては、そもそも、どの情報が営業秘密に該当するのかを定めることで、管理すべき対象が明確化されます。
次に、営業秘密へのアクセス制限や持ち出し制限などのルールを設けます。

例えば、営業秘密へのアクセス権限を必要最小限の従業員に限定したり、営業秘密の持ち出しを禁止したりするなどとしている会社が多いです。

また、役員や従業員(あるいは退職者)による営業秘密持出の事例も少なくありません。

そこで、役員や従業者について、競業避止義務に関する就業規則を作成したり、役員や従業者との間で競業避止契約を締結することで、役員や従業者が退職後に競合会社に就職する等の行為を行うことを防止し、ひいては会社の秘密情報が競業者に利用されることを防止することも有効です。

 

②従業員教育

どれだけ体制やルールを作っても、それを運用する従業員が理解していなければ意味がありません。

そこで、従業員教育も大変重要な対策です。

営業秘密の重要性や管理方法について、定期的に研修を実施することで、従業員の意識を高めることができます。

また、退職する従業員に対して、秘密保持義務を確認することも重要です。

退職後も一定期間、営業秘密を保持する義務があることを周知することで、情報漏洩のリスクを低減することができます。

 

③秘密保持契約の締結

従業員や取引先との間で、秘密保持契約(NDAとも呼ばれます)を締結することも重要です。

秘密保持契約には、営業秘密の範囲や使用条件、守秘義務の内容などを記載します。

 

④情報セキュリティ対策

情報セキュリティ対策も重要です。

昨今の巧妙化した不正アクセスや情報漏洩を防ぐために、最新のファイアウォールやウイルス対策ソフトなどを導入することが必要ですし、そのための専門家や専門部署を設置する会社も少なくありません。

 

⑤物理的セキュリティ対策

もちろん、物理的セキュリティ対策も重要です。

具体的には、オフィスや個室への入退室管理や監視カメラの設置など、物理的なセキュリティ対策を講じることで、部外者の侵入を防ぎましょう。

特に、重要なサーバーや記録媒体のある部屋については、一部の社員しか入れないよう施錠するなどの対策も考えられます。

 

⑥企業法務に強い弁護士に相談する

一般論としては以上のような対策が考えられますが、実際には会社の業務や取り扱う情報などによって、取るべき対策はケースバイケースです。

そのため、営業秘密の管理や漏洩対策については、不正競争防止法の観点も踏まえて、会社のことに詳しい(企業法務に強い)弁護士に相談されることをお勧めします。

例えば、社内規則や契約を作るにあたっても、その内容次第では、秘密保持義務や競業避止義務がなどが無効と判断される場合が少なくないため、弁護士のサポートを受けることが大変重要です。

そして、より会社のことを理解した弁護士に相談ができるよう、顧問弁護士をお持ちになることも検討しましょう。

会社法務に強い弁護士へ相談するメリットや、顧問弁護士については、こちらのウェブサイトをご覧ください。

 

 

営業秘密についてのQ&A

最後に、営業秘密についてよくあるQ&Aをご紹介します。

 

営業秘密を不正に取得された場合、どのようなリスクがあるか?

営業秘密を不正に取得された場合、会社には以下のようなリスクがあります。
競争力の低下

競合他社に技術情報や顧客情報を利用され、市場での優位性を失う可能性があります。

 

信用の失墜

顧客や取引先からの信頼を失い、会社の信用が低下する可能性があります。特に顧客や取引先の情報を多く持っている場合にはそのリスクが高いです。

 

事業活動の中断

営業秘密が漏洩が続く恐れがある状況になってしまうと、最悪の場合、事業活動そのものを一時的に停止する必要が出てくる場合もあります。その期間の売り上げが生じなくなるため、損失が拡大することになります。

 

訴訟などの費用負担

元従業員や競合会社などの不正取得者に対して、損害賠償請求をすることが考えられますが、そのための費用や時間がかかります。

例えば、訴訟での請求をするには裁判所に納付する費用や弁護士費用、対応のための人件費・交通費等の諸経費も発生することになります。

これらのリスクは、会社の規模や業種によって異なりますが、いずれも会社にとって大きな脅威となります。

まずは、営業秘密を不正取得されないような対策をしっかり講じましょう。

 

営業秘密を守るために、従業員にどのような教育をすればよいか?

従業員に対する教育・研修は大変有効な対策の一つです。
具体的には、社内のルール・規則を定めたうえでその内容を説明することになるでしょう。

特に、以下について重点的に教育テーマとして研修資料などを作成するのが一般的です。

  • 営業秘密の重要性
  • 営業秘密の範囲
  • 営業秘密の管理方法(社内ルール)
  • 営業秘密漏洩時の対応
  • 秘密保持義務(守秘義務)の内容

これらの教育を定期的に実施することで、従業員の意識を高め、営業秘密漏洩のリスクを低減することができます。

なお、弁護士などの外部の専門家に研修の講師を依頼いただくことも有効ですので、ぜひご検討ください。

 

営業秘密が漏洩した場合、どのような対応を取るべきか?

万が一、営業秘密が漏洩してしまった場合には、速やかな対応が求められます。
まず、漏洩した情報やその経路、時期などを速やかに確認・調査しましょう。

そしてそれらの情報をもとに、被害が拡大しないように情報の回収や、社内システムの切断など、必要な応急処置を行いましょう。

続いて、弁護士にご相談のうえで、不正取得者などへの法的な措置(差止請求や損害賠償請求、刑事告訴など)を検討するようにしましょう。

最後に、再発防止策を検討しましょう。従業員への教育の強化や、情報セキュリティの強化など、事例に応じて再発防止策も変わります。

以上が大まかな流れになります。

ただし、具体的な対応は事件ごとに個別に検討する必要があることには注意し、もし不安があれば速やかに企業法務に強い弁護士へ相談されるのがよいでしょう。

 

 

まとめ

このページでは、営業秘密や営業秘密侵害罪について詳しく解説しました。

営業秘密は、会社の競争力を支える重要な財産です。

しかし、その重要性とは裏腹に、営業秘密が不正に取得・利用される事件は後を絶ちません。

特に近年では不正取得の方法も高度化・巧妙化していますので、会社としてもしっかり対策を行う必要があります。
営業秘密を守るためには、秘密管理体制の構築、従業員教育、秘密保持契約の締結、情報セキュリティ対策、物理的セキュリティ対策など、多角的な対策を講じる必要があります。

また、万が一、営業秘密が漏洩した場合は、速やかに専門家である弁護士に相談し、適切な対応を取ることが重要です。
この記事をご覧いただいて、ぜひ営業秘密侵害に負けない安定した会社の体制を作っていただければと思います。

そして、もし、営業秘密や不正競争防止法に関して疑問や不安を感じた場合は、専門家である弁護士に相談することを強くお勧めします。

デイライト法律事務所では、企業法務に関する豊富な経験と専門知識を持つ弁護士が、皆様のビジネスをサポートいたします。

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