弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

著作権によって著作物の表現は一定の期間保護されますが、その前提となった事実やアイデアそのものまでは保護されません。
そして、自分の作品が他人の著作権を侵害しているかどうかを判断するためには、「類似性」と「依拠性」という要件が重要となります。
このページでは、著作権がどこまで保護されるのか、その具体的な範囲と境界線を解説しています。
目次
著作権はどこまで保護される?

著作権が保護するのは、具体的な「表現」です。
その裏返しとして、アイデアや事実そのものは保護しません。
つまり、著作権の保護対象は、頭の中にある漠然とした「アイデア」ではなく、文章、音楽、絵画といった形で具体的に「表現」されたものに限られます。
このように範囲が限定されている理由は、もしアイデアまで独占できてしまうと、保護の範囲が広くなりすぎてしまい、新しい文化や創作活動が生まれにくくなってしまうためです。
例えば、「タイムスリップもの」というアイデアを一人が独占できてしまうとすれば、別の作家や映画監督らが新しい切り口のタイムスリップものの作品を作ることができなくなり、文化の発展が妨げられてしまうということになります。
著作権の保護の対象はどこまで?
では、具体的にどのようなものが「表現」として保護され、どのようなものが保護されないのでしょうか。より詳しく見ていきましょう。
著作権で保護されるもの

著作権法では、保護の対象となるものを「著作物」と呼んでいます。
そして、この「著作物」にあたるかどうかは、以下の4つの要素を満たしているかで判断されます。
「著作物」の4つの要素
- 1 思想又は感情が表現されていること
- 2 創作的に表現されていること
- 3 表現されたものであること
- 4 文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものであること
それぞれについて簡単に説明します。
要素1:思想又は感情
これは、人の考えや気持ちといった、何らかの精神的な活動の成果であることを意味します。
機械が自動的に生成したデータや、単なる事実の羅列は、この要素を満たさないため著作物にはなりません。
要素2:創作的
これは、作者の何らかの個性が表れていることを意味します。
他人の作品を完全に真似したものではなく、少しでも作者自身の工夫や選択が加わっていれば「創作性」は認められやすいです。
なお、「創作性」は、芸術性の高さや新規性、独創性のレベルを問いません。
作者の個性が少しでも出ていればOK、という非常にハードルの低いものだと考えてください。
プロが作ったか、素人が作ったか、上手いか、下手か、といったことは一切関係ありません。
要素3:表現
これは、頭の中のアイデア(思想や感情)が、具体的な形として外部に現れていることを意味します。
文章、音楽、絵画、写真など、何らかの形で知覚できる状態になっている必要があります。
要素4:文芸、学術、美術又は音楽の範囲
これは、文化的な精神活動の成果であることを示しています。
例えば、工業製品の設計図などは、基本的には産業の発展を目的とする「技術」の領域なので、この範囲には含まれず、別の法律(意匠法など)で保護されることになります(ただし、例外もあり)。
これら4つの要素をすべて満たすものが「著作物」として、著作権法によって保護されます。
そして重要なのは、著作権は、特許庁への登録などをしなくても、著作物が創作された瞬間に自動的に発生するという点です。
これを無方式主義といいます。
著作権で保護されないもの

次に、著作権では保護されないものを見ていきましょう。
アイデア、理論、法則
具体的な表現ではなく、その根底にある考え方や仕組み自体は保護されません。
例えば、料理のレシピのアイデア、ゲームのルール、自然科学上の法則、などは保護されません。
単なる事実・データ
客観的な事実や、ありのままのデータそのものには、思想や感情、創作性がないため、著作物にはなりません。
ありふれた表現、短い言葉
誰が表現しても同じようになる、またはごくありふれた表現には、作者の個性が発揮されているとはいえず、創作性が認められません。
例えば、手紙冒頭の挨拶(時候の挨拶)、キャッチコピーやスローガン(例外あり)、記事のタイトル(例外あり)については、線引は非常に難しいですが創作性が認められないことが多いです。
権利の目的とならない著作物
公共性が高く、国民が自由に利用できる必要があるため、著作物ではあるものの、著作権の保護対象から除外されているものがあります(著作権法13条)。
具体的には以下については著作権が認められず、自由に利用できます。
- 憲法、法律、条例
- 国や地方公共団体の告示、訓令、通達
- 裁判所の判決、決定、命令
著作権侵害の境界線とは?
前のセクションでは、どのようなものが著作権で「保護される」のか、その対象範囲を学びました。
しかし、他人の著作物を利用したからといって、すべてが直ちに「著作権侵害」になるわけではありません。
著作権侵害となるもの
まず、どのような場合に著作権侵害が成立するのかを見ていきましょう。
法律上は、主に次の2つの条件が満たされる必要があります。
- 1 依拠(いきょ)していること
- 2 表現が類似(るいじ)していること
「依拠」とは、簡単に言うと「他人の著作物を知っていて、それに基づいて創作した」ということです。
例えば、Aさんの描いたイラストを、Bさんが事前に見て知っていて、それを真似てイラストを描いた場合、Bさんの行為は「依拠」にあたります。
一方で、Aさんのイラストを全く知らずに、Bさんが偶然にもAさんのイラストとそっくりなものを独自に創作した場合、そこには依拠関係がありません。
「類似」とは、「表現が似ている」ということです。ただし、どの程度似ていれば「類似している」と判断されるのか、その基準は難しい問題です。
単に部分的に似ているだけでなく、「元の作品の創作的な表現(本質的な特徴)が、後の作品でも直接感得できるか」という観点から判断されるのが一般的です。
それでは、具体的にどのような行為が著作権侵害にあたるのか、見ていきましょう。
具体例1 ウェブサイトの画像を無断でダウンロードし、自社のブログに掲載する
他人のウェブサイトにある写真やイラストには、撮影者や制作者の著作権があります。
これを無断でコピーして自分のブログなどで利用する行為は、著作権の一つである複製権の侵害にあたります。
具体例2 市販のDVDをコピーして、友人や同僚に配布する
個人的な利用の範囲を超えて、DVDのコピーを他人に配る行為は、たとえ販売しなくても複製権の侵害となります。
具体例3 好きなアーティストのCD音源を無断でYouTubeにアップロードする
CDの音源を、権利者の許可なくインターネット上で誰もが聴ける状態にすることは、著作権の一つである公衆送信権の侵害です。
具体例4 海外の小説を、権利者に無断で日本語に翻訳して出版する
翻訳は、元の小説(言語の著作物)を翻案する行為にあたります。
「パロディ」や「オマージュ」について
パロディやオマージュと「翻案(パクリ)」の線引きは、非常に難しい問題です。
日本の著作権法には、「パロディ・オマージュだからOK」という明確な規定はありません。
パロディでも、元の作品の本質的な特徴が感得できる場合は、翻案権の侵害にあたると判断されるおそれがあります。
また、リスペクトの気持ちを込めたオマージュであっても、法的には翻案と評価されるリスクがあります。
著作権侵害とならないもの
一方で、著作権者の許可を得なくても、例外的に著作物を利用できる場合があります。
これは「権利制限規定」と呼ばれ、著作権法30条以下に定められています。
どのようなケースが認められているのか、代表的なものをいくつか見ていきましょう。
私的使用のための複製(著作権法30条)
個人的に、または家庭内などごく限られた範囲内で使用するために、著作物を複製する行為です。
たとえば、好きなアーティストのCDを、自分が所有するスマートフォンや携帯音楽プレーヤーに取り込んで、自分で楽しむということであれば著作権(複製権)の侵害になりません。
引用(著作権法32条)
自分の著作物の中に、他人の著作物を「引用」として取り込むことは、一定の条件を満たせば許可なく行うことができます。
レポートや論文、ブログ記事などで、他者の文章やデータを紹介する際に重要なルールです。
引用が認められるためには、主に以下の条件を満たす必要があります。
なお、文章だけでなく、画像を「引用」することもできます。
- 公表された著作物であること
- 引用部分が、自分の著作物と明確に区別されていること
- 自分の著作物が「主」で、引用部分が「従」という主従関係があること
- 引用する必要性があること
- 出所を明示すること
付随対象著作物の利用(著作権法30条の2)
写真撮影や録音・録画をする際に、意図せず写り込んでしまったり、録り込まれてしまったりした著作物については、一定の条件下で利用が認められます。
このように、著作権侵害の境界線は、単に「似ているか、似ていないか」だけでなく、「依拠したか」「権利制限規定にあたるか」といった様々な要素を総合的に考慮して判断されます。
安易な自己判断は避け、迷った場合は専門家への相談を検討することが賢明です。
著作権はいつまで保護される?

著作権には「保護期間」という有効期限が定められています。
保護期間は、原則として著作者の死後70年です。
この期間が過ぎた著作物は、共有財産、いわゆる「パブリックドメイン」となり、原則として誰でも自由に利用できるようになります。
著作権の期限の原則は上記のとおりですが、実際には、団体名義の著作物や、映画の著作物など、種類によってより細かい保護期間の定めがあります。
著作権の期限について、より詳しくお調べになりたい方は以下のページも合わせてご覧ください。
生成AIが生成したコンテンツの著作権
近年、ChatGPTのような文章を生成するAIや、画像を生成するAIなどが急速に普及しています。
作品ともいうべき制作物をAIが生成できる時代になりました。
では、生成AIが生成したコンテンツに著作権が発生するのでしょうか。
結論から言うと、現状の日本の法律では、AIが自律的に生成しただけのものには、原則として著作権は発生しないと考えられています。
前述の通り、著作物は「思想又は感情を創作的に表現したもの」と定義されています(著作権法2条1項1号)。
AIは、あくまでプログラムに従って膨大なデータを処理し、統計的に最もそれらしい結果を出力しているにすぎません。
AI自体に、人間のような「考え」や「気持ち」(思想又は感情)はないため、AIは創作の道具ではあっても、創作の主体にはなりません。
一方、人間が制作過程で一定程度関わった場合には、その人間を創作者とした著作権が発生する可能性があります。
AI生成物に著作権が認められるかどうかは、「人間が、創作意図をもって、創作的に寄与したか」で判断されます。
AIと著作権に関してはここで紹介した他にも、様々な課題があります。
より詳しくお調べになりたい方はこちらのページも合わせてご覧ください。
著作権を侵害したときの罰則や責任
続いて、万が一、著作権侵害が起こってしまった場合の罰則や責任について解説します。
著作権の侵害は、単なるマナー違反ではありません。法律によって厳しい責任が定められた、「違法行為」です。
侵害行為が発覚した場合に問われる責任には、大きく分けて2つの種類があります。
- 1 民事上の責任:権利者(著作者など)から損害の賠償などを求められる責任
- 2 刑事上の責任:国から犯罪として罰せられる責任(罰則)
民事上の責任(権利者からの請求)
民事上の責任とは、著作権を侵害された権利者が、侵害した人(個人または会社)に対して、侵害行為によって受けた損害を回復するために行う請求のことです。
ある日突然、弁護士から内容証明郵便で警告書が届き、以下のような請求を突きつけられる、という形で表面化することが一般的です。
- 差止請求:侵害行為などを差止めるよう請求
- 損害賠償請求:損害分の金銭を請求
- 名誉回復等の措置請求:謝罪広告を新聞に掲載するなど、著作者の名誉回復措置を請求
刑事上の責任(罰則)
著作権侵害は、当事者間の民事的な問題にとどまらず、社会のルールを破る「犯罪」として、国から刑罰を科される可能性があります。
つまり、警察に逮捕・起訴され、前科がつくこともある、ということです。
刑事罰として、最も重いものだと個人に対して10年以下の懲役 または 1000万円以下の罰金 (またはその両方)が課されます。
さらに、法人に対しては3億円以下の罰金が課される可能性があります。
著作権侵害を回避するポイント

次に、著作権侵害を回避するためのポイントについて解説していきます。
自分で創作する
著作権侵害を回避するための最も確実な方法は、安易に他人の著作物に頼らず、自分でコンテンツを創作することです。
当たり前のことですが、情報があふれる現代では、つい忘れがちになる原点です。
まずは「できる限り自分たちで創り出す」という意識を、日々の業務の基本に据えることが、あらゆるリスクを回避する第一歩となります。
権利関係がクリアな素材を利用する
とはいえ、あらゆるコンテンツを100%自前で用意するのが難しい場面も多々あります。
その場合は、他人が作った著作物(素材)を利用することになりますが、その際は「権利関係が明確で、安全に利用できるもの」を厳選する必要があります。
権利者の許諾(ライセンス)を直接得る
例えば、特定の個人のブログ記事、写真、イラストなどをどうしても利用したい、という場合もあるでしょう。
その際は、権利者を探し出して、直接利用の許可(許諾、ライセンス)を得るのが正規のルートです。
著作権に強い弁護士に相談する
著作権の問題は、専門的で判断が難しいケースが少なくありません。
自社だけで抱え込まず、早い段階で専門家である弁護士の助言を求めることが、結果的に会社を大きなリスクから守ることにつながります。
日頃から会社の事業内容を理解してくれている顧問弁護士がいれば、いざという時に迅速かつ的確なアドバイスを受けることができます。
デイライト法律事務所では、著作権をはじめとする企業の法律問題に精通した弁護士が、企業のビジネスモデルに合わせた最適な顧問弁護士サービスを提供しております。
著作権の保護についてのQ&A
最後に、特に多くの方が疑問に思われるであろう点について、Q&A形式で解説します。
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LINEのアイコンに、他人の画像を設定したら著作権を侵害しますか?
また、それが芸能人やスポーツ選手など有名人の写真である場合は、著作権に加えて「パブリシティ権」という、全く別の権利も侵害する可能性があります。
多くの方が日常的に行っているため、問題ないように感じてしまうかもしれませんが、法律的に見れば極めてリスクの高い行為ですので、行うべきではありません。
もしアイコンに設定した画像が、芸能人、アイドル、スポーツ選手などの写真だった場合、事態はさらに複雑になります。
この場合、写真を撮影したカメラマンなどが持つ「著作権」とは別に、被写体である有名人本人が持つ「パブリシティ権」を侵害する可能性があります。
「パブリシティ権」とは、有名人の氏名や肖像などが持つ、顧客を惹きつける力(経済的な価値)を、本人が独占的に利用できる権利のことです。
あなたが好きな芸能人の写真をアイコンに使うと、たとえ応援する気持ちからであっても、その芸能人が持つ経済的な価値を無断で利用していることになり、権利侵害とみなされる可能性があるのです。
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ディズニーの著作権はどこまで?
- 美術の著作物:ミッキーマウスやディズニープリンセスといったキャラクターのデザインはもちろん、映画の背景美術、制作段階のコンセプトアートに至るまで、あらゆる絵画的・図形的な表現が保護されます。
- 映画の著作物:『アナと雪の女王』や『ズートピア』といった映画作品そのものが、一つのまとまった著作物として保護されます。
- 音楽の著作物:「レット・イット・ゴー」や「ホール・ニュー・ワールド」といった楽曲や歌詞も、当然ながら保護の対象です。
- 言語の著作物:映画の脚本やセリフも著作物です。象徴的なフレーズも、作品のストーリーと密接に結びついた表現として保護の対象となり得ます。
ディズニーの著作権管理は、唯一無二のブランド価値を守るための、高度で戦略的な企業活動です。
また、ディズニーの知的財産は「著作権」だけでなく、商標権など様々な権利によって多重に守られています。
ですので、個人的な利用にとどまらない安易な利用はしないように注意しなければなりません。
利用を検討される場合には、ディズニーとのライセンス契約を結ぶ必要があります。
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ミッキーマウスを参考にイラストを描いてもいい?
しかしながら、描いたイラストを公表するということになると、基本的には著作権侵害になりうる行為ですので、避けるべきでしょう。
ただし、その利用目的によって実態は大きく変わります。
個人がファン活動として非営利で楽しむ場合
法律上は著作権侵害にあたる可能性が高いものの、現実には権利者が「黙認」している、あるいは、「捕捉できない」ものが多いのが実情です。
しかし、黙認は合法とは別です。
個人でファンアートを楽しむ際は、リスクを十分に理解した上で、作品とクリエイターへの敬意を払い、節度ある範囲で行うことが求められます。
会社や個人事業主がビジネス(商用)で利用する場合
目的が何であれ、NGです。
明確な著作権侵害行為であり、極めて高いリスクを伴います。
「自分で一から描いているのだから問題ないのでは?」と思うかもしれません。
しかし、著作権法では「翻案(ほんあん)」という行為が厳しく規制されており、「参考にして描く」行為の多くは、この「翻案」にあたる可能性が高いです。
まとめ
この記事では、「著作権はどこまで保護されるのか?」という、身近でありながらも複雑なテーマについて、基本的な考え方から、具体的な事例、対策まで、網羅的に解説してきました。
もし、著作権についてわからないことや、著作権侵害に関する疑問、トラブルに直面した場合は、一人で抱え込まずに企業法務に強い弁護士に相談することをお勧めします。
デイライト法律事務所では、企業法務に関する豊富な経験と専門知識を持つ弁護士が、皆様のビジネスをサポートいたします。著作権などの知的財産権に関するご相談はもちろん、その他企業法務全般について、お気軽にお問い合わせください。
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