弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士
適応障害であっても、一定の条件を満たせば「傷病手当金」は問題なく受給可能です。
傷病手当金は、療養中の生活を支えるための大切な権利です。
しかし、この制度は申請要件が細かく、書類の書き方や提出のタイミングにミスがあると、不支給になったり、支給が大幅に遅れたりするリスクがあります。
また、会社側にとっては、休職中の給与調整や復職へのスムーズな誘導といった、適切な労務管理が求められます。
本記事では、適応障害で傷病手当金が「もらえない」という事態を防ぐために、労働者側が知っておくべき申請のポイントと、会社側が押さえておくべき労務対応の注意点を、企業法務に強い弁護士の視点から徹底解説します。
「申請で失敗したくない」「労使トラブルを未然に防ぎたい」という双方の不安を解消し、適切な制度活用にお役立てください。
目次
- 1 適応障害で働けなくなった場合の「休職」の基本対応
- 2 傷病手当金とは?
- 3 傷病手当金の支給を受けるための4つの要件
- 4 適応障害の休職で傷病手当金がもらえない5つの理由
- 5 傷病手当金の支給額はいくら?計算方法・支給期間
- 6 適応障害は労災になる?傷病手当金との違い
- 7 傷病手当金の申請方法と注意点
- 8 失敗して「もらえない」を防ぐための注意点
- 9 【企業向け】適応障害の人事・労務対応
- 10 適応障害による休職期間中に企業・労働者が押さえておくべきポイント
- 11 適応障害で休職中から復職する場合に企業・労働者が行うべきポイント
- 12 復職後の労働者に対して企業が注意すべきポイント
- 13 休職期間満了時に復職できない場合どうなる?
- 14 適応障害の休職者が退職を希望する場合
- 15 傷病手当金以外に利用できる「経済的支援・公的制度」
- 16 適応障害と傷病手当についてのよくあるQ&A
- 17 まとめ
適応障害で働けなくなった場合の「休職」の基本対応
休職制度とは
「休職制度」とは、会社に籍を置いたまま、一定期間、労務提供の義務を免除する制度をいいます。
直ちに解雇するのではなく、一定期間回復に専念してもらい、復職してもらうことを目的としており、従業員にとってメリットの大きい制度です。
ただし、休職制度は法律上の制度ではないため、以下の点に留意が必要です。
- すべての会社が必ずしも休職制度を採用しているとは限らない
- 認められる休職期間の長さや休職中の処遇は、会社(就業規則)ごとに異なる
そのため、まずは会社に休職制度があるか、最大でどれくらいの期間休めるのかを、就労先の就業規則等で確認する必要があります 。
適応障害で休職中の給与はどうなる?
会社が任意で採用している休職制度を利用する場合、休職中の給与については、個々の会社の規定によることとなります。
もっとも、賃金は、労務提供の対価として支払われるものであることが前提ですので、労務提供がない場合には、会社は賃金を支払う必要がないというのが原則です(これを「ノーワークノーペイの原則」ということがあります)。
そうすると、休職中には当然労務の提供がないわけですから、賃金の支払もないのが通常であり、会社が休職制度の内容として、休職中の労働者の賃金について特別な規定をしていない限り、休職中の労働者には、賃金の支払はないと考えられます。
傷病手当金とは?
休職中に、賃金の支払を受けられないとなると、労働者の生活に困難が生じます。
そこで、傷病手当金の給付の制度を利用することが考えられます。
傷病手当金は、業務外の病気やケガで働けなくなった被保険者に対して、健康保険から支給される給付金です。
つまり、会社が独自に支払うものではなく、健康保険組合や全国健康保険協会(協会けんぽ)などの保険者が支給する公的制度です。
この制度の目的は、病気やケガの療養中も生活を支えることにあります。
傷病手当金の支給を受けるための4つの要件
傷病手当金は、以下の4つの要件をすべて満たした場合に支給されます。
- ① 病気やケガの療養のため休んだこと
- ② 労働することができないこと(就労不能)
- ③ 連続する3日間を含み4日以上労働できなかったこと
- ④ 休んだ期間について傷病手当金の額より多い賃金の支払がないこと
「連続する3日間を含み4日以上労働できなかったこと」とは?
傷病手当金は、病気やケガの療養のため労働できないとき、労働できなくなった日から数えて3日を経過した日から労働できない期間、支給されます。
つまり、傷病により休んだ期間のうち、連続する最初の3日間を除き、4日目から支給されます。
この最初の3日間を待期期間といいます。
待期期間のポイントは以下の2つです。
- ① とびとびの休みではなく、3日連続休んでいること
- ② 土日祝日などの公休日や有給休暇も待期期間に含まれること
①とびとびの休みではなく、3日連続休んでいること
例えば、月曜、火曜は休んで、水曜出勤、木曜休んで、金曜からずっと出勤し続けているという事例では、最長で2日(月曜・火曜)しか休んでいないので、3日連続休んでいることにはなりません。

②土日祝日などの公休日や有給休暇も待期期間に含まれること
連続する3日間の中には、元々の休みである土日祝日等の休みや、有給休暇で休んだ日もカウントされます。
つまり、「給与の有無」に関係なく「労務に服さなかった期間」が3日あれば待期は完成します。

待期期間の3日を全て有給休暇を使用することも可能です。
3日を全て有給休暇、その後4日目から傷病手当金に移行すれば収入が途絶えるのを防ぐ方法も可能ということになります。
注意が必要なケース
4日目以降(支給開始後)も有給休暇を使ってしまうと、その日は「賃金が支払われた」とみなされ、傷病手当金を受け取ることができません。
そのため、従業員の方は、待期期間中は積極的に有給を使い、支給開始日以降は有給を使わずに手当金を申請するのが、経済的にも最も効率的です。
適応障害の休職で傷病手当金がもらえない5つの理由
適応障害で医師から休職を指示された場合、基本的には傷病手当金の受給対象となります。
しかし、健康保険法が定める要件を満たしていない場合や、手続きに不備がある場合、残念ながら不支給となってしまうケースが存在します。
主な理由は以下の5つです。

① 連続して3日間(待期期間)休んでいない
傷病手当金は、病気やケガで休職し、「給与が出ない期間の生活を保障する」ための制度です。
これを待期期間(待期3日間)と呼びます。
2日休んで3日目に出勤した場合、待期期間は完成しません。
また、この3日間は給与の有無を問わないため、有給休暇や公休(土日祝)であってもカウントされますが、「連続していること」が絶対条件です。
4日目の休みから初めて支給対象となります。
②「労務不能」であると医師が認めていない(意見書がない)
傷病手当金の申請書には、主治医による「労務不能であったことの意見書」の記載欄があります。
本人が「辛くて働けない」と思って休んでいても、医師が「この程度なら軽作業ならできる(労務可能)」と判断した場合や、受診を怠っていて「医師が診察していない期間」については、労務不能の証明がもらえず、その期間の手当金は支給されません。
③ 休職期間中に会社から一定以上の給与が支払われている
傷病手当金は、病気やケガで休職し、「給与が出ない期間の生活を保障する」ための制度です。
ですので、休職中に有給休暇を消化している場合や、会社の休職規程により傷病手当金の支給額(標準報酬月額の約3分の2)以上の給与が支払われている期間は、傷病手当金は支給されません。
※給与額が傷病手当金より少ない場合は、その差額分のみが支給されます。
④ 社会保険の加入条件を満たしていない(被扶養者など)
傷病手当金を受給できるのは、社会保険の「被保険者」本人のみです。
家族の扶養に入っている方(被扶養者)や、国民健康保険の加入者(自営業やフリーランスなど)は、原則として傷病手当金の制度自体がありません。
また、退職後も受給を継続したい場合(資格喪失後の継続給付)は、「退職日までに被保険者期間が継続して1年以上あること」などの追加要件を満たしている必要があります。
⑤ 休職中にアルバイトをしたり、副業で収入を得ている
傷病手当金をもらっている期間は、前提として「労務不能(働けない状態)」でなければなりません。
「本業の会社は適応障害のストレス要因(上司や環境)があるから休職しているが、別のアルバイトならできる」と自己判断で働いてしまうと、「労働が可能である」とみなされ、不支給や支給停止になります。最悪の場合、不正受給として過去に遡って返金を求められるリスクもあるため注意が必要です。
適応障害での休職は、精神的ストレスから病院への受診が遅れたり、手続きが後回しになりがちです。
まずは「定期的に通院して医師に状態を正確に伝えること」、そして「会社の担当者や健康保険組合と密に連携をとること」が、不支給を防ぐための最大のポイントとなります。
傷病手当金の支給額はいくら?計算方法・支給期間
傷病手当金は「月給の約3分の2」が目安
支給額は1日あたり標準報酬日額( = 支給開始日の以前12か月間の各標準報酬月額を平均した額 ÷ 30日)の3分の2とされています。
標準報酬月額とは、被保険者の報酬月額に基づき、等級区分によって定められた額をいいます。(保険料の額や保険給付の額を計算するのに用いられます。)
基になる報酬には、基本給のほか、役付手当、勤務地手当、家族手当、通勤手当、住宅手当、残業手当等、労働の対象として会社から現金または現物で支給されるものが含まれます。
支給開始日以前の期間が12か月に満たない場合は、次のいずれか低い方の額を使用して計算されます。
- ① 支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額の30分の1に相当する額
- ② 支給開始日の属する年度の前年度の9月30日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額を標準報酬月額の基礎となる報酬月額とみなしたときの標準報酬月額の30分の1に相当する額
支給期間は?
傷病手当金が支給される期間は、最長で1年6か月です。
以前は、「支給開始日から最長で1年6か月」とされていました。
しかし、2020年7月以降は制度が改正され、出勤と欠勤を繰り返した場合でも、休んだ期間を通算して1年6か月分の給付を受けられるようになっています。
つまり、療養しながら短期間の出勤をはさむケースでも、実際に休んだ日数を合計して計算できるため、より柔軟に利用できる制度になっています。
また、業務外の理由で適応障害を発症し、労働が困難となった場合にも、健康保険組合に対して、傷病手当金の支給を申請することが可能です。
企業としては、従業員が傷病手当金を受け取れるかどうかを確認し、必要に応じて申請書の記入や提出手続をサポートすることが望まれます。
申請方法については、「傷病手当金の申請について」で詳しく解説していきます。
参考:傷病手当金が支給される期間は通算して 1年 6か月間です|全国健康保険協会
適応障害は労災になる?傷病手当金との違い
労災保険で補償される「休業補償給付」とは?
適応障害が労働災害と認定されると、労働基準監督署から休業補償給付を受けることができます。
例えば、パワハラや職場でのいじめなどが原因で適応障害になったという場合には、業務上の事由による発症であるとして、労働災害と認定される可能性があり、その結果、休業補償給付が支給される可能性があります。
休業補償給付を受けるための要件は?
休業補償給付を受けるためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
- ① 業務上の事由による病気やケガの療養をしていること
- ② 上記の病気やケガの療養のため労働できないこと(就労不能)
- ③ 賃金の支払を受けていないこと
労災として認められるための3つの要件
精神障害が発病した場合に、労災として認定されるかどうかの要件としては、以下の3つがあります。
- ① 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
- ② 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
- ③ 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと
国際疾病分類第10回修正版(ICD-10)第5章「精神障害および行動の障害」に分類される精神障害であって、認知症や頭部外傷による障害は除かれます。
適応障害は、上記分類のうち、F4に該当するため、認定基準の対象となる精神障害となり得ます。
特別な出来事がある場合を「強」と評価し、特別な出来事以外を内容に応じて「弱」「中」「強」と評価して心理的負荷の強弱を判断します。
特別な出来事の例- 生死にかかわるような業務上の病気やケガをした。
- 発病直前の1ヶ月におおむね160時間を超えるような時間外労働をした。
適応障害が「業務(仕事)」に起因して発症したと認められる場合、健康保険の傷病手当金ではなく、労災保険の「休業補償給付」を申請することができます。
業務以外の心理的負荷があった場合、例えば、離婚した、多額の財産を損失したなどの個人的な事情によるショックがあった場合には労災と認められない可能性があります。
また、元々精神障害を繰り返し患っている場合など、その方の素質(個体側要因)が適応障害の発症の原因と認められる場合には、労災として認定されない可能性があります。
「傷病手当金」と「労災(休業補償給付)」どっちに該当?判断のポイント
適応障害になった場合に、「傷病手当金」と「労災(休業補償給付)」のどちらの制度を利用するかは、労災の基準に該当するかどうかで判断します。
つまり、適応障害の発症が労災の基準に該当する場合には、労災の休業補償給付を、そうでない場合には傷病手当金を受給することになります。
労災の基準に該当するかどうかは、上記で解説した3つの要件に該当するかで判断します。
抽象化すると、「誰が見ても明らかに強い仕事のストレスによって適応障害が発病している」といえるような場合には、まずは労災認定の可能性を考慮してみて良いと考えます。
精神障害の労災認定について、詳しくは以下のサイトで解説していますので、ご参照ください。
傷病手当金の申請方法と注意点
申請から支給までの具体的な流れ
傷病手当金の申請から支給までの具体的な流れは、以下のとおりです。

STEP1:心療内科・精神科で診断書を取得する
会社の休職制度を用いて休職する場合、通常は適応障害等であることが記載された診断書の提出が必要になります。
そのため、まずは心療内科・精神科を受診し、適応障害等であることの診断書を作成してもらってください。
STEP2:会社へ休職の申し出と申請書の手配
診断書をもらったら、会社へ提出して休職の申し出をしてください。
休職については在籍の期間の要件などがあるので、就業規則の内容を確認したり、人事担当者に自分があてはまるか確認してください。
また、傷病手当金の申請書も準備します。
申請書については、会社から受け取るか、加入している健保組合のホームページからダウンロードするなどによって入手することができます。
STEP3:申請書の記入と提出(医師の証明+事業主の証明)
申請書を準備したら、実際に申請書を記入し、加入している健保組合に提出します。
申請書には、医師が証明するところ(傷病名や労務不能と認めた期間など)、事業主(会社)が証明するところ(勤務状況や賃金の支払い状況等)がありますので、それぞれ記入してもらう必要があります。
STEP4:健保組合による審査と支給
申請書を提出したら、健保組合による審査が行われ、問題がなければ支給されます。
審査期間は、書類提出から約2週間〜4週間が目安になります。
添付書類が必要なケース一覧
以下では、申請にあたって添付書類が必要なケースと添付書類の内容について表でまとめております。
| 添付書類が必要なケース | 添付書類の内容 |
|---|---|
| 労災保険から休業補償給付を受けている場合 | 休業補償給付支給決定通知書のコピー |
| 適応障害の原因が第三者の行為(交通事故やけんか等)によるものである場合 | 第三者行為による傷病届 |
| 被保険者が亡くなられ、相続人が請求する場合 | 戸籍謄本 等 |
| 支給開始日以前の12か月以内で事業所に変更があった場合や、定年再雇用等で資格情報のお知らせ等に記載されている番号に変更があった場合 | 以前の事業所の名称、所在地及び事業所に使用されていた期間がわかる書類 |
| 障害厚生年金の給付を受けている方でマイナンバーを利用した情報照会を希望しない場合 | 年金給付額等がわかる書類(以下のすべての書類が必要)
|
| 障害手当金の給付を受けている方でマイナンバーを利用した情報照会を希望しない場合 |
|
| (申請期間が資格喪失後の場合)
老齢退職年金の給付を受けている方でマイナンバーを利用した情報照会を希望しない場合 |
年金給付額等がわかる書類(以下のすべての書類が必要)
|
| 被保険者のマイナンバーを記載した場合 | マイナンバーカードの表面・裏面の両方のコピー 等 |
失敗して「もらえない」を防ぐための注意点
申請したのに、その申請の失敗のためもらえないということを防ぐために、以下の注意点に気をつけてください。
①書類に不備がないかチェックする
傷病手当金は基本的に書類審査であるため、書類に不備があれば支給されない、あるいは支給されるまでに時間がかかってしまうということになりかねません。
書類に不備がないかは、会社の社労士の先生にチェックしてもらう、ご自身で健保協会のホームページをみてチェックするなどの対応が考えられます。
②労災保険の休業補償給付と重複できない
健康保険の傷病手当金と労災保険の休業補償給付を同時に受け取ることはできません。
適応障害の原因が、例えば、会社の上司のハラスメントや長時間労働などである場合、労災の申請を検討することになります。
労災申請の結果が出るまでには数ヶ月〜半年以上かかることが多いため、まずは傷病手当金を受給し、後に労災が認定された時点で傷病手当金を返還して休業補償給付に切り替える、という実務的な対応をとるのが一般的です。
③休職中に副業をしない
副業で収入を得ている場合、労務不能ではないとして申請が却下される可能性が高いです。
そのため、副業などで収入を得ないようにする必要があります(副業ができる状況であれば、本業の復帰なども検討すべきです)。
【企業向け】適応障害の人事・労務対応
会社は、傷病手当金の支給を希望している従業員に、傷病手当金支給申請書の受取代理人の欄の記入をしてもらうことで、傷病手当金を会社の口座に振り込んでもらう代理受取をすることができます。
これにより、会社は、傷病手当金を一旦会社が受け取り、従業員負担分の社会保険料を控除した上で、差額を従業員本人の口座に振り込むという方法で対応できます。
日頃、給与を支払っている会社が、社会保険料を控除した上で、傷病手当金の残額を支払う方が、会社としては確実に社会保険料の支払を受けることができ、従業員としても、社会保険料を振り込む煩雑さがないという点で、双方にメリットがあります。
申請には、従業員の記入が必要ですので、会社としては、従業員に説明した上で、労働者に記入してもらい、申請するようにしましょう。
協会けんぽ(全国健康保険協会)は、2023年1月から傷病手当金の申請書の「受取代理人欄」を削除しています。
これは、詐欺や不正受給を防ぐためといわれています。
そのため、協会けんぽの場合は、会社を「受取代理人欄」に記載して傷病手当金を代理受領することができなくなりました。
会社としては、従業員負担分の社会保険料を立替払いしている場合は、
- 毎月指定口座に振り込みをしてもらう、もしくは口座引き落としとする
- 復職後の給与や退職金から控除する
などの対策を検討することになります。
なお、いずれの場合も従業員の同意が必要となり、後ほど揉めないよう、しっかり同意書などの作成をしてください。
適応障害による休職期間中に企業・労働者が押さえておくべきポイント
【労働者側】休職中の過ごし方
会社への最低限必要な連絡は行う
休職中も、会社に在籍していることに変わりはありませんから、会社から、最低限必要として求められている連絡は行わなければなりません。
医師の指示に従い、治療に専念する
療養のための休職ですので、医師の指示に従い、治療に専念することが重要です。
就業規則に、「休職期間中、治療に専念し、私傷病の回復に努めなければならない」と規定されていることも多くあります。
では、休職期間中に、旅行に行ったり、外出して遊んだりすることは、この規定に違反する行為として全く許されないのかというと、そんなことはありません。
治療に専念するというと、入院したり、自宅で安静にしたりということを想定されることが多いと思います。
とはいえ、身体に明確な異常がないような病(精神疾患など)の場合、入院や自宅での安静が絶対に必要なわけではない場合も多くあります。
そのような場合には、旅行に行ったり外出して遊んだりするといったことが、かえって、回復を早める可能性もあると考えられるため、直ちに治療に専念していないということにはなりません。
労働者としては、医師に相談し、医師の指示に従って、治癒のために行動することが大切です。
【企業側】休職者の管理について
休職中は治療に専念できるよう配慮する
会社としては、休職者が治療・療養に専念できるよう、配慮するようにしましょう。
たとえば、休職者が、復職できるのかどうかなどに不安を感じ、その不安感のためにかえって療養に専念できないといったことをなくすため、会社としては、十分な情報提供を行い(①傷病手当金などの経済的な保障について、②不安や悩みの相談先の紹介、③公的または民間の職場復帰支援サービスの紹介、④休業の最長期間など)、相談できる場を設けておくことが考えられます。
また、休職者との連絡は、休職者に不要な精神的負担を負わせることのないよう、普段の上司や同僚ではなく労務担当者が行うこととし、電話ではなくメールで行うようにするなどの配慮をすることが考えられます。
休職者との連絡をメールで行うことには、内容が記録に残るというメリットもあります。
休職中の労働者の行動についての対応方法について、詳しくは以下のページをご覧ください。
適応障害で休職中から復職する場合に企業・労働者が行うべきポイント
労働者側
復職したいことを会社に伝える
療養の結果、労働することができる状態に回復した場合、会社に復職したいことを伝える必要があります。
主治医に就業条件について記載してもらった診断書を提出する
会社に復職したいことを伝える際には、主治医から「就労可能である」ことを記載した診断書をもらい、会社に提出しましょう。
復職したいという本人の意欲だけでは、復職が早すぎると判断されて、復職が認められない可能性があります。
復職を急いだことで、かえって症状が悪化し、休職を繰り返すことになっては、元も子もありませんので、復職が可能な状態かどうかにつき、医師の診断を受け、診断書を会社に提出するようにしましょう。
会社は、労働者が復職可能な状態であるかどうかを慎重に判断するため、主治医の診断書のほか、主治医に直接照会したり、産業医との面談・受診を求めることもありますので、復職を希望する労働者としては、これに対して、同意書にサインするなどして、真摯に対応するようにしましょう。
企業側
復職の可否について主治医の診断書を提出させる
休職者が復職可能な状態かどうか慎重に判断するため、休職者が復帰を希望してきた場合には、必ず主治医の診断書の提出を求めましょう。
特に、精神疾患の場合には、休職者本人が自身の状態を適切に把握できていない場合もあり、復職が早すぎるという可能性がありますので、客観的な主治医の意見を求めることが大切です。
診断書は休職者本人に持参してもらい、実際に休職者から、現在の生活や体調などについて話を聞くことができれば、本人の状態を直接確かめることができ、復職可能かどうかの判断の材料となるのでよいでしょう。
聞き取った内容は、記録に残しておくようにしてください。
場合によっては、休職者本人に同行して、主治医に話を聞きに行くことも考えられます。
復職後の業務内容などを主治医に伝えた上で、復職の可否を判断できる点で有用です。
また、実際に復職した場合に、配慮すべき点などについても確認することができます。
ここでも、聞き取った内容は、記録に残しておくようにしてください。
産業医面談を実施する
産業医がいる場合には、産業医との面談・受診を求めることで、より慎重な判断が可能となります。
主治医だけの意見では、どうしても復職を希望する患者である労働者本人からの強い要請からやむを得ず、診断書を作成したが本当はもう少し休職したほうがよいといったケースやそもそも仕事内容を主治医が理解していない状態で復職診断書を作成したというケースも散見されます。
産業医との面談では、通院・治療状況、自覚症状、生活・睡眠のリズム、復職に関する本人の考え等を確認し、回復が十分で、復職可能な状態であるかを確認することとなります。
復職後の就業条件や仕事内容に関する注意点を確認する
復職後、時短勤務から段階的に勤務時間を延ばすといったことや、負荷の軽い業務から復帰させるといった就業条件について、労働者との間で、確認しておく必要があります。
休職者の「通勤訓練」や「リハビリ出勤」を検討する
「通勤訓練」とは、復職を希望する休職者が、一週間程度の期間、毎日同じ時刻に、会社近くの図書館など職場付近の一定の場所に行き、その場所で一定時間を過ごして、帰宅することができるかをチェックすることをいいます。
復職をすれば、毎日同じ時刻に通勤する必要が出てきますので、それができる状態であるかを確認するということです。
休職者には、1週間程度の期間を定めて、上記の行動を行い、できたかどうかをメールなどで報告するように求めます。
「リハビリ出勤」とは、本格的な復職に先立って、休職者に会社に出勤してもらい、一定時間を会社で過ごしてもらうようにすることをいいます。
リハビリ出勤を活用することで、本格的な復職がスムーズに行えることが期待できます。
休職中の出勤で、労務提供をさせず、身の回りの整理や読書などをさせる場合は、賃金等の支払はありませんが、かわりに、継続して傷病手当金が支給されることとなります。
この点について、会社は労働者に対し、しっかり説明を行い、理解を得ておきましょう。
リハビリ出勤において、業務をさせる場合には、賃金の支払が必要となりますので、注意が必要です。
「リハビリ出勤」を行う際の注意点について、詳しくは以下のページをご覧ください。
復職後の労働者に対して企業が注意すべきポイント
勤務時間の長さについて、柔軟に対応すること
復職後すぐは、午前中のみの出勤とし、徐々に勤務時間を長くするなどして、復職した労働者にいきなり大きな負荷がかからないように配慮しましょう。
精神的負荷の小さな業務から復帰させること
窓口業務、苦情処理業務、運転業務などや、危険を伴う作業、高所での作業などは、復職したての労働者の負担となり、再び精神疾患を発症することにつながり得ることから、避けるようにしましょう。
従前の業務に戻す際にも、労働者の状態を見て、段階的に行うよう配慮しましょう。
残業、深夜業務をさせないこと
復職直後の時短勤務を経て、定時までの就業が可能となっても、すぐに残業や深夜業務をさせないように注意しましょう。
服薬との関係で問題のある業務に就かせないこと
運転業務や機械を使用する業務などを行わせる場合には、服用中の薬との関係で問題がないか確認するようにしましょう。
復職時に服用している薬については、復職可能か判断する際に主治医に聞いておくとよいでしょう。
参考:心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き |厚生労働省
休職期間満了時に復職できない場合どうなる?
休職期間満了時に復職可能な状態になく、復職できない場合、自然退職または解雇となります。
適応障害のような精神疾患の場合には、休職期間満了時に復職できる状態か否かについて、会社と労働者との間で意見が食い違い、争いとなることもあります。
会社と労働者とで意見が食い違う場合には、双方ともに、弁護士に相談されることをお勧めします。
また、一旦復職した後に、病気が再発した場合には、再度休職することが考えられますが、前回の休職と同じ病気での休職の場合、休職期間が、会社が認めている休職期間から前回の休職期間を引いた残りの期間しか認められないこともあり得ます。
こうした点も会社が就業規則において、どのようにルールを定めているかがポイントになります。
逆にいえば、会社は休職制度を設ける場合、しっかりと期間満了時の法律関係や休職期間の設定、再度の休職の場合の期間について検討した上で就業規則を作成しなければならないということです。
適応障害の休職者が退職を希望する場合
労働者側がすべきこと
休職者が、退職を希望する場合、会社に退職願を提出する方法が考えられます。
退職願を提出することによって、会社との間の雇用契約を解約する申込みをすることができます。
会社が、労働者の解約の申込みに対して承諾すると、雇用契約は解約されます。
たとえ、労働者が後に退職願を撤回したいと考えたとしても、会社の承諾以後は、雇用契約の解約が成立してしまっていますので、撤回することができません。
したがって、労働者としては、退職願を提出する前に、本当に退職をしてよいのか、よく考える必要があります。
企業側の対処法
休職者が退職願を提出した場合には、会社はそれを受け取って問題ありません。
退職の申入れに応じる場合には、休職者に対し、退職を承諾することになります。
適応障害のような精神疾患の場合、労働者が精神的に不安定になっているために、突発的に退職願を提出しては、その撤回を主張する事態も起こり得ます。
会社としては、一度、退職の申入れに対し承諾したならば、労働者の撤回の主張に応じる必要はありません。
一方、会社が承諾する前であれば、通常は、労働者は退職の申入れを撤回することができますので、雇用契約は存続することになります。
退職の申入れに対し、会社がどのような対応をしていれば、承諾したといえるかについては、個々の具体的な事情により判断されますが、後のトラブルを防止するためには、退職を承諾したことを証明する書類などを労働者に発行するなどしておくとよいでしょう(退職届を受理した旨をメールで送るというのも一つの方法です。)。
また、労働者が、自ら退職願を提出し、会社が承諾しただけなのに、後になって、不当解雇を主張されるような事案も存在します。
このような場合、会社としては、労働者からの退職の申入れによって、雇用契約が終了したと主張することになりますので、退職願が証拠となると考えられます。
精神疾患を発症した労働者が退職を申し出ている場合の、会社の対応方法について、詳しくは以下のページをご覧ください。
傷病手当金以外に利用できる「経済的支援・公的制度」
適応障害で休職や退職を余儀なくされた際、使える公的制度は傷病手当金(または労災保険)だけではありません。
医療費の負担を減らす制度や、生活費をカバーする制度が複数あります。
それぞれの特徴とメリットを知り、状況に合わせて活用しましょう。
医療費の負担を減らす制度
自立支援医療(精神通院医療)
精神疾患(適応障害、うつ病など)で通院治療を続ける際、医療費の自己負担を原則「1割」に軽減できる制度です。
- メリット
通常3割負担の医療費(診察代・お薬代)が1割になります。
また、世帯の所得に応じて「1ヶ月の負担上限額」が設定されるため、毎月の医療費を大幅に抑えることができます。
- 申請先
お住まいの市区町村の福祉担当窓口(障がい福祉課など)
- 注意点
申請受理日から有効となるため、早めの手続きがおすすめです(診断書が必要です)。
また、対象となるのは「指定された医療院・薬局での精神通院」に限られます。
税金や社会保険料の負担を減らす・猶予する制度
休職中や退職後は収入が減るため、毎月の固定費(税金・保険料)の負担を減らすことも実質的な経済支援になります。
住民税・国民健康保険料・国民年金の減免・猶予
- 住民税
前年の所得に対して課税されるため、休職・退職後に最も重い負担になりがちです。
事情によっては分割納付や徴収猶予、減免が認められる場合があります(市区町村の税務課へ相談)。
- 国民健康保険料(税)
会社を退職して国民健康保険に切り替える際、倒産や解雇、あるいは「正当な理由のある自己都合退職(病気による退職等)」に該当すれば、保険料が最大7割軽減される「非自発的失業者」の軽減制度が使えます。
- 国民年金
収入が著しく減少した場合、申請により保険料の全額または一部が免除・猶予されます。
免除期間も将来の年金額に一部反映されます(年金事務所または市区町村窓口へ相談)。
退職した後に利用できる生活保障制度
雇用保険の基本手当(失業保険)
会社を退職し、適応障害が回復して「働ける状態」になったら、ハローワークで失業保険を受け取ることができます。
適応障害など正当な理由で自己都合退職した場合、通常2〜3ヶ月ある「給付制限期間」(待機期間)がなくなり、手続き後すぐに(7日間の待期期間後)失業保険を受給できる可能性があります。
退職後、まだ体調が悪くてすぐには働けない場合は、失業保険の受給期限(原則1年)を最長4年間まで延長できます。
まずは傷病手当金で療養し、体調が戻ってから失業保険に切り替えるのがよいでしょう。
生活費そのものの維持・貸付を行う制度
生活福祉資金貸付制度(総合支援資金)
低所得世帯や休職・失業により生活困窮している世帯に対し、都道府県の社会福祉協議会が無利子または低利子で生活資金を貸し付ける制度です。
- 内容
生活立て直しのための「総合支援資金」などがあり、一時的な生活費の補填に利用できます。
- 申請先
お住まいの市区町村の社会福祉協議会(または自立相談支援機関)
長期化した場合に検討する制度
精神障害者手帳
適応障害でも、症状が長期化(初診日から6ヶ月以上経過)し、日常生活や就職活動に支障が出ている場合は、障害者手帳を取得できる可能性があります。
- メリット
税金(所得税・住民税)の控除が受けられるほか、公共交通機関の割引、障害者雇用枠での就職活動が可能になります。
適応障害による休職・退職時は、「まずは自立支援医療で医療費を抑え、傷病手当金で生活を維持する」のが第一歩です。
もし退職することになれば、社会保険料の減免手続きや、失業保険の「受給期間延長手続き」を忘れないようにしましょう。
これらの公的制度を利用することで、経済的な不安を最小限に抑えて療養に専念することができます。
適応障害と傷病手当についてのよくあるQ&A
ここでは、適応障害と傷病手当について、よくあるご質問をご紹介いたします。
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適応障害の場合、傷病手当はもらえない?
しかし、傷病手当の受給要件は、上で解説したように、①病気やケガの療養のため休んだこと、②労働することができないこと(就労不能)、③連続する3日間を含み4日以上労働できなかったこと、④休んだ期間について傷病手当金の額より多い賃金の支払がないこと、の4点です。
したがって、この要件に当てはまるのであれば、適応障害であっても傷病手当を受給できます。
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適応障害で傷病手当をもらう場合のデメリットとは?
もっとも、傷病手当の申請のために、会社と書類のやり取りが必要になります。
また、生命保険によっては、過去5年以内の病歴が加入時に審査の対象となることがあります。
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適応障害となった従業員が退職後に傷病手当を受給できる?
ただし、例えば、すぐに転職して労務が可能になった場合や、支給期間の1年6ヶ月を超える場合には退職後に受給できなくなりますので、その点は注意が必要です。
また、退職日前に出社して引き継ぎ業務を行っていた場合にも、労務が可能とみなされ、退職後に傷病手当金がもらえない可能性が高いです。
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パートが適応障害となった場合でも傷病手当を受給できる?
パートでも、一定の条件を満たすと、社会保険加入の対象となります。
参考:パート・アルバイトの方への社会保険の適用について|厚生労働省
そのため、パートでも社会保険に加入していれば、適応障害による傷病手当受給も可能となります。
他方で、国民健康保険(いわゆる「国保」(コクホ))や、家族の扶養に入っている方は、傷病手当金の対象外になります。
まとめ
適応障害などの精神疾患による休職は近年増えており、休職中の給付の制度や復職の判断についてなど、労使双方が知っておくべき点は多くあります。
特に、復職については、労使間でトラブルになることも少なくありません。
対応方法に困った場合には、労使双方とも、早期に弁護士に適切な対応方法を相談し、状況によっては労使間の調整を依頼されることをお勧めします。
また、会社が、休職制度や、リハビリ出勤の制度の導入を検討される場合には、就業規則の変更が必要となるため、弁護士に相談されることをお勧めします。


