弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

休職中に旅行に行っていることだけを理由に、その従業員に対し、懲戒処分や解雇を行うのは難しいです。
しかし、会社として何も対応できないわけではありません。
この記事では、休職中に旅行へ行く従業員に対して会社が取るべき適切な対応や、注意・指導のポイント、参考になる裁判例を弁護士が分かりやすく解説します。
私傷病休職とは

社員ががんや脳卒中といった、会社の業務とは関係のないプライベートでけがや病気をして入院を余儀なくされた場合、仕事ができなくなります。
このとき、就労が一時的に不能となってしまいます。
そこで、この就労不能の期間について、休職という制度を設けて、会社で管理することがあります。
こうした業務外のけがや病気による休業のことを私傷病休職といいます。
最近の私傷病休職では、先ほどのがんや脳卒中といったものに限られず、いわゆるメンタル不調を理由とした休職者が増えてきています。
うつ病や自律神経失調症、適応障害などです。
休職については、就業規則で整備をしておく必要があります。
具体的には、勤続何年以上の社員に休職を認めるのか、休職を認めるとしてどの程度の期間を休職期間とするのかといった点を定めておく必要があります。
また、休職期間中の給与は無給であるという点もトラブルを防ぐために規定しておかなければなりません。
社員は傷病手当金などを活用することになります。
従業員の休職期間中の過ごし方
休職制度については、私傷病により働くことが困難(就労不能)な社員をただちに解雇せずに体調の回復に専念してもらい、一定期間が経過したら復職してもらうという目的があります。
つまり、社員側にメリットのある制度です。
そうすると、休職をした社員としては、治療に専念することは当然ということになります。
このように考えると、休職をして仕事を休んでいるにもかかわらず、旅行に行くというのは言語道断で許されないという考え方も出てきます。
実際、真面目に働いている社員からすれば、「あいつは何をしているんだ」という思いが出るのも致し方ないところかもしれません。
休職中の旅行は就業規則違反になる?
がんや脳卒中といった器質的な疾患の場合、医療機関での治療が必要なため、通常は入院したり、少なくとも自宅で安静ということが多いでしょう。
しかし、うつ病などの非器質性の疾患の場合、身体には明確な異常がないため、入院しなければならないケースはそれほど多くありません。
そうすると、旅行に行ったり、外出して遊んでいたりということも可能なわけです。
休職期間中の過ごし方については、就業規則で「社員は、休職期間中、治療に専念し、私傷病の回復に努めなければならない」と規定しているケースが多いでしょう。
そうすると、休職中の旅行がこの就業規則の規定に違反しているのではないかが問題となってきます。
休職中の旅行を理由に懲戒処分や解雇はできる?

この点、企業としては、就業規則の規定違反を理由に懲戒処分を課したい、あるいは、当該従業員を解雇したいと考える可能性があります。
しかしながら、休職中の旅行自体が倫理に違反する行為とまではいえないと考えられます。
うつ病の患者にとって、一日中家に引きこもっていることが治療といえるのかがそもそも疑問ですし、かえって外に出て過ごすことのほうが、回復が早くなる可能性もあるからです。
したがって、企業が懲戒処分や解雇を行うことはできないと考えられます。
休職中の行動が争われた裁判例
休職中の行動に関する裁判例としては、マガジンハウス事件(東京地裁H20年3月10日)があります。
判例 マガジンハウス事件(東京地裁H20年3月10日)
この事案で、東京地裁は、「被告(会社)は、他にも、原告(社員)が私傷病欠勤期間中に、オートバイで頻繁に外出していたこと、ゲームセンターや場外馬券売場に出かけていたこと、飲酒や会合への出席を行っていたこと、宿泊を伴う旅行をしていたこと、SMプレイに興じるなどしていたことを療養専念義務に反する行為であると主張するが、うつ病や不安障害といった病気の性質上、健常人と同様の日常生活を送ることは不可能ではないばかりか、これが療養に資することもあると考えられていることは広く知られていることや、原告が、連日のように飲酒やSMプレイを行い、これが原告のうつ病や不安障害に影響を及ぼしたとまで認めるに足りる証拠もないことからすれば、原告の上記行動を特段問題視することはできないというほかない。」と判断しています。
なお、この裁判では、社員がそもそも配転命令を拒否し、旅行などの他にブログで会社の批判を続け、週に1回組合活動として会社に出向いており、主治医もそうした行動について反対していたといった事情を踏まえ、解雇は有効としています。
まとめ
このように、休職期間中に旅行に行っているといった事情でただちに懲戒処分や解雇の処分を下すことは困難です。
しかし、他方で、真面目に働いている従業員の声も無視することはできません。
海外旅行が常識的な範囲を超え繰り返されており、うつ病を治療している様子が全く無いという場合には、会社としても当該社員を放置しておくわけにはいきません。
このような場合には、会社が当該社員に対し、治療に専念するよう指導することも十分に考えられます。
ところで、海外旅行に行けるということは、それまでにパスポートを取得したり、ツアーに申し込んだり、複雑な手続を済ませたということになります。
これを1人でやり遂げたのであれば、そもそも症状が治癒し、通常業務に復帰できる可能性もあります。
したがって、当該社員に対し産業医などの受診をすすめ、復職の可否について再度判断を仰ぐことも検討すべきでしょう。
ご相談の流れは以下をご覧ください。



