秘密保持契約(NDA)とは?必要なケース・注意点|雛形付

監修者:弁護士 西村裕一
弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

秘密保持契約(NDA)とは、取引の相手方に秘密情報を開示する場合に、一定の目的以外の目的で秘密情報を使用することや、他人に秘密情報を開示することを禁止するために結ぶ契約です。

秘密保持契約は、企業が締結する契約において、最も取り交わすことが多い契約の一つです。

この記事では、秘密保持契約の必要性や締結するメリット、注意点、契約書に盛り込んでおくべき内容などについて詳しく解説しています。

 秘密保持契約(NDA)とは

秘密保持契約とは?

秘密保持契約(NDA:Non-Disclosure Agreement)とは、取引を検討する際や共同開発などの過程で、自社が持つ独自の技術、ノウハウ、顧客情報などの「秘密情報」を相手方に提供する際、その情報を第三者に漏洩されたり、目的外に不正利用されたりすることを防ぐために締結する契約です。

この契約を締結し、法的な拘束力を持たせることで、万が一情報が漏洩した場合には、損害賠償請求や差止請求などの対抗措置をとることが可能になります。

 

秘密保持契約(NDA)が必要とされる場面

ビジネスにおいてNDAが必要となるのは、主に「正式な契約を結ぶ前(検討段階)に、開示せざるを得ない重要情報があるとき」です。

具体的には以下のような場面が挙げられます。

 

新規取引や共同開発の検討・商談

具体的な提案や見積もりのため、自社の技術仕様やシステム構成、財務状況などを開示する場合。

 

業務委託の打診(アウトソーシング)

開発やマーケティング、デザインなどを外部に委託する際、自社の顧客リストや社外秘のソースコードなどを共有する場合。

 

M&A(企業の譲渡・買収)や資本提携の検討

企業の価値を査定(デューデリジェンス)するため、最もデリケートな決算書や経営計画、人事情報などを開示する場合。

 

秘密保持契約を締結するタイミング

秘密保持契約を締結するタイミングとしては、「秘密情報を一言でも相手に伝える前(最初の打ち合わせの前、またはその段階)」が鉄則です。

よくある失敗として、対話が進んで「いよいよ具体的な契約を結ぼう」という段階になってからNDAを出してしまうケースがあります。

しかし、その時点ですでに重要なノウハウやアイデアを相手に話してしまっている場合、NDA締結前に伝えた情報は保護対象外になってしまうリスクがあります。

 

実務上のアドバイス

「具体的な資料を提示する前」、あるいは「最初の本格的な商談の冒頭」に締結を完了させておくのが最も安全です。

 

秘密保持契約書はどちらが作成すべき?

法律的には秘密保持契約書をどちらが作成しても問題ありません。

ですが、基本的には「秘密情報をより多く開示する側(情報を守りたい側)」がベースとなる契約書案(ドラフト)を作成・提示したほうがよいでしょう。

契約書を作成する側が自社に有利な条項(秘密情報の範囲を広くする、損害賠償の制限を設けないなど)を盛り込みやすいためです。

立場 推奨されるスタンス
情報を開示する側 自社の情報を最大限守るため、自社で用意した雛形を提示する。
情報を受け取る側 相手から提示された雛形をチェックし、過度なペナルティや広すぎる秘密情報の定義がないか調整(リーガルチェック)する。

※お互いに同等の情報を出し合う「双方実施型」の場合は、どちらが作成しても構いませんが、自社のリスクをコントロールするために自社側でドラフトを用意することをお勧めします。

 

秘密保持契約(NDA)、機密保持契約、守秘義務契約の違い

これらは名称が異なるだけで、法律的な意味や効果に明確な違いはありません。

すべて同じ目的の契約を指しています。

 

秘密保持契約 / 機密保持契約

ビジネスシーンで最も一般的に使われます(「機密」の方がやや国家機密や重大な社外秘を連想させますが、契約実務上の差はありません)。

 

守秘義務契約

弁護士、税理士、医師などの「士業・専門職」が法律上負う義務(守秘義務)を、一般の契約に落とし込んだニュアンスで使われることがあります。

企業間の取引では、グローバル基準でもある「秘密保持契約(NDA)」という名称を使用するのが一般的です。

 

NDAとCA(Confidentiality Agreement)の違い

NDAとCA(Confidentiality Agreement)とは、意味は全く同じです。

略称 正式名称・意味
NDA Non-Disclosure Agreement(直訳:不開示契約)
CA Confidentiality Agreement(直訳:秘密保持契約)

アメリカやヨーロッパの一部の地域・文脈によって好まれる表現が異なることはありますが、どちらを使っても法的な効力に差はありません。

 

NDAとMA(M&A)の関係性

M&Aにおいて、NDAの締結はプロセスの「第一歩」であり、最も重要な関門の一つです。

M&Aの検討では、買い手企業は売り手企業の財務、税務、法務、さらには顧客や従業員の情報まで、すべての「裏側」を調査(デューデリジェンス)します。これらは企業にとっての生命線であり、もし破談になった場合に情報が競合に漏れれば、会社が倒産しかねないリスクを伴います。

そのため、M&Aの実務では以下のような非常に厳格なNDA(またはCA)が最初に締結されます。

  • M&Aを検討している事実そのもの(噂が立つだけで株価や従業員に影響するため)も秘密とする
  • 目的外利用(買収を辞めた後に、得た情報を使って競合ビジネスを始めることなど)を厳しく禁止する

M&Aにおいて、NDAは、「安心して自社のすべてを見せ、正しい企業評価をしてもらうための安全網」という極めて重要な役割を担っています。

 

 

契約締結には「秘密保持契約書」が必要|無料雛形

秘密保持契約書は、秘密保持契約を締結する際に用いられる契約書です。

秘密情報をしっかりと守るためには、具体的な秘密情報の内容や取引の実態などに応じて、適切な秘密保持契約書を作成することが大切です。

 

秘密保持契約書に盛り込むべき内容

秘密保持契約書に盛り込むべき一般的な内容は、以下のとおりです。

  1. ① 秘密情報を開示する目的は何か
  2. ② 「秘密情報」に該当する情報は何か
  3. ③ 開示された秘密情報についてどのような義務を負うか
  4. ④ 秘密情報をどのような範囲で使用できるか
  5. ⑤ 秘密情報をどのように返還・破棄するべきか
  6. ⑥ 秘密保持契約はいつまで有効か
  7. ⑦ 秘密保持契約の違反があった場合にどのような措置をとることができるか

 

秘密保持契約書のテンプレート

以下のページでは、一般的な秘密保持契約書のひな形として、典型的な条項を記載した秘密保持契約書のテンプレートを掲載しています。

テンプレートは、無料でダウンロードできますので、ご自由にご利用ください。

秘密保持契約書のテンプレート(Word形式、PDF形式)を無料でダウンロードいただけます。

 

 

秘密保持契約(NDA)に「サインしない」「結ばない」リスク

商談や検討のスピードを優先するあまり、「信頼関係があるから」「大した情報ではないから」と秘密保持契約(NDA)を締結しないままで情報開示をしてしまうケースがあります。

しかし、秘密保持契約(NDA)を結ばずに秘密情報を開示することは、自社のビジネスの優位性や将来の権利を失いかねない危険な行為です。

具体的には以下の3つのリスクが発生します。

 

① 情報漏洩時に差止めや損害賠償の法的請求が難しくなる

秘密保持契約(NDA)を締結しないで情報を提供した結果、それが漏洩した場合、相手方に対して「契約違反(債務不履行)」を理由に損害賠償請求や情報の使用差止請求をすることが法的に極めて困難になります。

 

なぜ難しくなるのか?

秘密保持契約(NDA)がない場合、裁判において、「その情報が本当に秘密として扱われていたか」、「相手方に秘密を守る義務があったか」の証明(立証)が非常に難しくなります。

秘密保持契約を締結する前に開示した情報については、秘密保持義務を負っていないと考えられます。

不正競争防止法による保護(営業秘密)を主張しようにも、法律上「秘密として管理されていたこと(秘密管理性)」が厳しく問われるため、秘密保持契約書という明確な合意がない状態では、法律の救済を受けられないでしょう。

結果として、情報は漏れ損、使われ損となり、泣き寝入りせざるを得ない事態に陥ります。

 

② 特許申請の前に情報を開示すると特許権が認められなくなる

画期的な技術やアイデアについて特許を取得する場合、法律上「新規性(これまでに世の中に知られていない新しいものであること)」という要件が必要となります。

もし、秘密保持契約(NDA)を結ばずに第三者(取引先など)へその技術情報を開示してしまうと、その瞬間に公知の情報(誰でも知り得る情報)になったとみなされてしまうリスクがあります。

これにより、特許申請をしても、新規性の要件が認められないとされる可能性があり得ます。

 

③ 競合他社にノウハウを無断使用されるリスク

秘密保持契約(NDA)を締結しないということは、相手方に対して「受け取った情報をどう使っても自由である」と、事実上の免罪符を与えてしまうようなものです。

 

具体的なトラブル例

共同開発の提案のために提示した自社の独自のノウハウやソースコードを、相手方が勝手に自社の別プロジェクトに流用する。

自社との取引を断った後、その情報を使って相手方が自ら競合ビジネスを立ち上げる。

より条件の良い「自社の競合他社」に対して、自社の企画書やデータを横流しして天秤にかける。

これらを防ぐための「目的外利用の禁止」という縛りは、秘密保持契約(NDA)を交わして初めて発生します。

サインをしないまま情報を渡すことは、自社の重要な情報を無償で他社に譲渡するリスクがあるということです。

 

 

秘密保持契約のメリットとデメリット

秘密保持契約のメリットとデメリットは、情報を開示する立場と、情報を受領する立場とで異なります。

秘密保持契約を結ぶ主なメリットとデメリットを整理すると、以下のようになります。

メリット デメリット
  1. ●情報の開示側のメリット
  • 秘密情報の漏えいや目的以外の利用を防止できる
  • 不正競争防止法による保護対象外の情報も保護できる
  • 秘密情報が漏えい・目的外利用された場合に相手方に損害賠償請求などができる
  1. ●情報の開示側のデメリット
  • 契約上の秘密情報に該当しない情報については流出のリスクがある
  • 相手方に情報を開示する際の手続きが複雑になることがある
  1. ●情報の受領側のメリット
  • 秘密保持義務を負う範囲が明確となり、情報管理における責任を限定できる
  • 情報管理に関する責任を問われるリスクを減らすことができる
  1. ●情報の受領側のデメリット
  • 契約内容に従った方法で情報を管理する負担が生じる
  • 過剰な秘密保持義務を負わされる可能性がある
  • 情報の管理に問題があった場合、損害賠償などの責任が生じる


秘密保持契約の5つのメリット

秘密保持契約の5つのメリット

 

①秘密情報の漏えいや目的以外の利用を防止できる(開示側のメリット)

秘密情報を開示する側の最大のメリットとしては、秘密保持契約を締結することで、相手方に渡す秘密情報が他人に漏えいすることや、目的以外に利用されることを防止できることです。

秘密保持契約を締結する場合、契約書において、秘密情報を無断で第三者に開示することを禁止する条項や、目的外利用を禁止する条項が設けられています。

これらの条項によって、情報を受領する側に対して、秘密情報の漏えいや目的外利用をしないよう、明確に義務づけることができます。

 

②不正競争防止法による保護対象外の情報も保護できる(開示側のメリット)

相手方が漏えいした情報が、不正競争防止法に規定されている「営業秘密」に該当する場合には、開示側は、不正競争防止法に基づき、相手方に対して、秘密情報をこれ以上利用・漏えいしないように差止めを請求することができます。

しかし、「営業秘密」に該当するための要件はかなり厳しいので、不正競争防止法に基づく差止め請求ができないケースも多くみられます。

このように「営業秘密」に該当しない情報が漏えいした場合でも、秘密保持契約において差止め請求に関する条項が定められていれば、秘密保持契約を根拠として差止めを請求できるというメリットがあります。

 

③秘密情報が漏えい・目的外利用された場合に相手方に損害賠償請求ができる(開示側のメリット)

秘密保持契約を結んでおけば、相手方が秘密保持契約に違反したことによって損害を受けた場合に、相手方に対して、秘密保持契約違反という債務不履行を理由として、損害賠償を請求することができます。

そのため、受領側が秘密情報を漏えいした場合や、目的外で利用をした場合において、それによって損害を受けた開示側は、受領側に対して損害賠償の請求が可能となるというメリットがあります。

 

④秘密保持義務を負う範囲が明確となり、情報管理における責任を限定できる(受領側のメリット)

秘密保持契約では、「秘密情報」に該当する情報はどのようなものかが明記されるのが通常です。

そのため、受領側としては、開示を受けた情報のうち、どのような情報が「秘密情報」として秘密保持義務を負うのか、その範囲が明確になるため、情報管理における責任を無限に負うというリスクを回避できるという点がメリットとして挙げられます。

 

⑤情報管理に関する責任を問われるリスクを減らすことができる(受領側のメリット)

秘密保持契約を結ぶことで、受領側はどのような方法で秘密情報を管理・保管すればよいのかという点や、どのような場合に契約違反となるのかという点が明確になります。

そのため、受領側としては、契約内容に沿って秘密情報を適切に管理することで、契約違反となるリスクを低減することができ、情報管理に関する責任を負うリスクを減らすことができるというメリットがあります。

 

秘密保持契約の5つのデメリット

秘密保持契約の5つのデメリット

 

①契約上の秘密情報に該当しない情報については流出のリスクがある(開示側のデメリット)

秘密保持契約において定義された「秘密情報」に該当しない情報については、受領側は自由に第三者への開示や目的外利用ができることになります。

そのため、開示側のデメリットとして、秘密保持契約上の「秘密情報」に該当しない情報については流出してしまうリスクがあります。

 

②相手方に情報を開示する際の手続きが複雑になることがある(開示側のデメリット)

秘密保持契約では、「秘密情報」に該当するのは、「秘密である旨を指定して書面又は電磁的方法により開示する情報」である旨が規定されることが多いです。

この場合、開示側としては、相手方に秘密保持義務を負わせるためには、開示する情報に逐一、「秘密である旨」を指定したうえで、書面か電磁的方法で開示しなければならないこととなります。

このように、情報を開示する際に必要な手続きが複雑となるケースがあるという点は、開示側のデメリットといえるでしょう。

 

③契約内容に従った方法で情報を管理する負担が生じる(受領側のデメリット)

秘密保持契約では、受領側の秘密情報の管理・保管方法が具体的に指定されることがあります。

たとえば、施錠できる室内の保管場所で厳重に管理することが契約で義務付けられた場合、受領側は、施錠のできない場所では秘密情報を保管することができないこととなります。

状況によっては、施錠できる保管場所を確保することが困難な場合もあり得るため、このように契約内容に従った方法で情報を管理する負担が生じる点は、受領側にとってデメリットとなります。

 

④過剰な秘密保持義務を負わされる可能性がある(受領側のデメリット)

秘密保持契約では、秘密保持義務を負う範囲のほか、秘密保持義務の具体的な内容が定められることがあります。

受領側としては、契約書案の作成・チェックの段階で、現実に対応・運用可能な内容の規定にしなければ、対応・運用が不可能または困難な内容の過剰な秘密保持義務を負わされかねないというデメリットがあります。

 

⑤情報の管理に問題があった場合、損害賠償などの責任が生じる(受領側のデメリット)

秘密保持契約を結ぶと、万が一、受領側が秘密情報を漏えいした場合や目的外使用をした場合、契約違反を理由として損害賠償責任などの責任を負うこととなります。

そのため、受領側の情報の管理に問題があり、秘密情報の漏えいなどが発生した場合には損害賠償責任などを負うこととなる点も、受領側のデメリットといえるでしょう。

 

 

秘密保持契約の締結の流れ

秘密保持契約を締結するまでの一般的な流れは、以下のようになります。

秘密保持契約の締結の流れ

秘密保持契約は、取引の当事者間で授受される秘密情報を守るために必要となる契約です。

そのため、まずは取引を行う当事者間で、どのような内容の取引を行うのかの検討や打ち合わせを行い、取引に際して秘密情報の授受が発生するかどうかを確認しましょう。

秘密情報の授受が発生する場合には、秘密保持契約を締結する必要があります。

この場合、一般的な方法としては、契約当事者の一方が秘密保持契約書(案)を作成したうえで、相手方がその内容を確認し双方で協議や交渉を重ねて、妥当な内容に修正していきます。

そして、修正した秘密保持契約書(案)の内容について、当事者双方が合意に至った場合には、その内容で秘密保持契約を締結します。

 

 

秘密保持契約の注意点

秘密保持契約の注意点

 

無料ダウンロードの書式をそのまま使用しない

秘密保持契約を締結しようという場合に、秘密保持契約書を一から作成するというのは、多大な時間と労力がかかってしまい、現実的ではありません。

そのため、秘密保持契約書のひな形を利用するのが一般的です。

ひな形の入手方法については、このページでも後ほど紹介しますが、インターネット上にあるさまざまな書式を無料でダウンロードして手に入れることができます。

しかし、無料ダウンロードの書式は、あくまでも一つのモデルであって、あらゆる取引についてそのまま使用できる内容ではありません。

秘密保持契約書のひな形の入手後、当事者間で協議や交渉をしながら、取引の実態に応じてアレンジを加えたうえで、秘密保持契約を結びましょう。

ワンポイント:秘密保持契約書のボリューム

筆者の経験上、秘密保持契約書のボリュームは、A4判で2~3ページ程度であることが多いです。

しかし、開示される秘密情報の内容や性質などによって、秘密保持契約書のボリュームはかなり異なります。

例えば、重要な技術情報を開示する場合には、知的財産権に関する規定を盛り込むことが必須となることに加え、秘密情報の取り扱いなどに関して、一般的な秘密保持契約書よりもかなり詳細に規定することが考えられます。

このようなケースでは、A4判で5ページほどの秘密保持契約書となることも珍しくありません。

取引や秘密情報の具体的な内容などにより、秘密保持契約書のボリュームは大きく変化することを知っておきましょう。

 

秘密保持契約の適切な有効期間

秘密保持契約を締結する際、「その義務をいつまで負うべきか(有効期間)」の設定は、実務上非常に重要なポイントとなります。

一般的には「1年〜3年」、あるいは「3年〜5年」に設定されるケースが多いですが、一概に「長ければ長いほど良い」、「短ければ短いほど良い」というわけではありません。

開示する情報の性質や、自社の立場(開示側か受領側か)によって適切な期間は異なります。

 

有効期間の2つのパターン

契約書における期間の設定には、主に以下の2つのアプローチがあります。

① 契約自体の有効期間を定めるパターン(一般的)
「本契約の有効期間は、契約締結日から●年間とする。」

ビジネスの検討期間(商談の期間)に合わせて設定します。期間満了とともに、秘密保持の義務も自動的に消滅します。

② 契約終了後も一定期間、秘密保持義務を残すパターン(残存条項)
「本契約は●年間とする。ただし、第〇条(秘密保持義務)の規定は、本契約終了後も●年間有効に存続する。」

「取引の検討自体は1年で終わるが、開示したデータはその後も3年間は守ってほしい」という場合に採用される、実務で最も推奨される形式です。

 

立場による「適切な期間」の考え方

適切な有効期間は、「情報を守りたい側」と「情報を預かる側」の利害関係によって変動します。

情報を開示する側(守りたい側)の視点

スタンス:
期間は「できるだけ長く」したい。適切な期間:3年〜5年、または「無期限」。理由:自社の技術ノウハウや顧客リストは、数年経っても価値が落ちないためです。特に核心的な技術情報が含まれる場合は「無期限」を主張することもあります。

情報を受領する側(預かる側)の視点

スタンス:期間は「できるだけ短く」したい。

適切な期間:1年〜2年。

理由:他社の情報を長期間管理し続けることは、情報漏洩のリスクや管理コスト(社内でのアクセス制限など)の負担が大きくなるためです。また、期間が長すぎると、将来自社で独自開発した技術が「相手の秘密情報の流用ではないか」と疑われるリスク(コンタミネーションリスク)も高まります。

 

情報の性質に応じた「期間設定の目安」

実務においては、双方の妥協点として「3年間」で合意することが多く、これが一つのスタンダードとなっています。

ただし、情報の鮮度(陳腐化するスピード)に合わせて調整するのが賢明です。

情報の性質 適切な期間の目安 理由
一般的なビジネスアイデア・企画 1年 ~ 2年 トレンドの移り変わりが早く、数年後には情報の価値(秘密性)が自然と消滅することが多いため。
ソースコード、製造技術、ノウハウ 3年 ~ 5年 競合優位性を保つ期間が長く、他社に模倣されると大打撃を受けるため。
顧客リスト、個人情報、財務情報 5年、または無期限 時間が経過しても悪用されるリスクが残り続ける、極めてデリケートな情報であるため。

 

実務上のアドバイス

すべての情報を一律同じ期間にするのではなく、「通常の秘密情報は契約終了後3年間、ただし、顧客情報は無期限とする。」のように、情報の重要度に応じて期間を使い分けることで、相手方との交渉もスムーズになります。

 

どのような情報が「秘密情報」に含まれるのかを正しく理解しておく

秘密保持契約書では、どのような情報が「秘密情報」に含まれるのかが明記されているのが通常です。

この「秘密情報」の定義や範囲に関する規定をしっかりチェックしておかないと、後で大変な目に遭ってしまう危険があります。

例えば、「相手方に対して、秘密である旨を指定して書面又は電磁的方法により開示する情報」が「秘密情報」とされている場合に、開示側が、秘密である旨を指定し忘れて、重要な技術情報を相手方に開示してしまったとします。

このようなケースでは、この技術情報は「秘密情報」に含まれないこととなるため、受領側は秘密保持義務を負わず、自由に第三者に開示したり目的外利用をすることができるということになってしまいます。

また、「相手方に対して開示する一切の情報」が「秘密情報」とされている場合、受領側は、相手方から開示を受けたすべての情報について秘密保持義務を負うこととなってしまいます。

その結果、重要でない情報であっても、相手方から受領した情報であれば、受領側はすべて厳格に管理しなければならなくなってしまい、不必要な管理コストや手間が発生することとなります。

このようなリスクを回避するために、「秘密情報」にはどのような情報が含まれるのかを正確に理解することが非常に大切です。

 

秘密保持契約を結んだだけで安心しない

開示側のよくある誤解として、「秘密保持契約を結んだのだから、秘密情報の管理については心配いらない」という点が挙げられます。

秘密保持契約を結んでも、このような油断は禁物です。

相手方の情報管理体制が不十分だと、秘密保持契約を結んでも、秘密情報の漏えいや目的外利用が発生するリスクが高いといえます。

秘密保持契約を結ぶ意義は、相手方である受領側に、「秘密保持契約を結んだ以上、契約違反を犯しては大変だ」という心理的なプレッシャーを与える点にあり、確実に秘密情報がしっかりと守られることが保障されるわけではないのです。

 

 

秘密保持契約を破ったらどうなる?違反時のペナルティ

秘密保持契約(NDA)は単なる形式的な手続きではなく、違反した場合には企業経営に致命的な打撃を与える厳重なペナルティが科されます。

万が一、秘密情報を漏洩させたり、目的外に不正利用したりした場合に発生するリスクは、主に「民事上」、「刑事上」、「社会的」の3つの側面から説明できます。

 

民事上のペナルティ:損害賠償請求と情報の使用差止請求

秘密保持契約の契約違反(債務不履行や不法行為)として、被害を受けた側から直接、法的な対抗措置を取られます。

 

損害賠償請求

情報漏洩によって被害企業が被った「実際の損害(売上の減少や、対応に追われた人件費など)」を金銭で賠償するよう請求されます。

漏洩した情報が企業の核心的なノウハウである場合、賠償額が高額になることも珍しくありません。

また、契約書にあらかじめ「違約金」の条項を定めている場合は、高額な違約金の支払いを求められることもあります。

 

情報の使用差止(さしとめ)請求

漏洩した情報を使って製品を製造・販売している場合や、Webサイトで公開している場合などに、「その使用や販売をただちに中止せよ」と裁判所を通じて請求されます。

これにより、進行中のプロジェクトや製品販売が強制的にストップさせられます。

 

刑事上のペナルティ:不正競争防止法違反による重い罰則(懲役・罰金リスク)

NDA違反は、当事者間の話し合い(民事)だけで終わらないケースがあります。

開示された情報が「営業秘密」として法律上の要件を満たしていた場合、「不正競争防止法」という法律に抵触し、犯罪として処罰されるリスクがあります。

個人への罰則(漏洩した従業員など)
10年以下の懲役、もしくは2,000万円以下の罰金(またはその両方)という、非常に重い刑罰が科されます。
法人への罰則(会社へのペナルティ)
従業員が会社の業務として他社の秘密を不正に取得・漏洩した場合、実行した本人だけでなく、会社(法人)に対しても最大5億円の罰金が科されます(両罰規定)。

 

社会的ペナルティ:企業の信用失墜と取引停止・契約解除リスク

法的な処分と同じ、あるいはそれ以上に企業にとって致命傷となるのが、社会的な信用の失墜です。

 

既存取引の停止と新規契約の破談

違反があった場合、該当の取引が即座に「契約解除」されるのはもちろん、その事実が広まることで、他のクライアントからも「情報管理がずさんな会社」とみなされ、一斉に取引停止に追い込まれるリスクがあります。

 

ブランドイメージの崩壊と採用難

ニュースやSNSで「情報漏洩」や「裏切り行為」として報道・拡散された場合、企業のブランドイメージは失墜します。

顧客離れが起きるだけでなく、優秀な人材の採用も極めて困難になります。

 

実務上のアドバイス

NDAの違反リスクは、「お金を払えば済む」というレベルでは収まりません。

会社そのものの存続を揺るがすほどの影響になり得るため、経営陣だけでなく、実際に情報に触れる現場の従業員へのコンプライアンス教育を徹底することが不可欠です。

 

 

秘密保持契約(NDA)を弁護士に相談・依頼するメリット

秘密保持契約(NDA)は、インターネット上に多くの無料雛形(テンプレート)が存在するため、「どれを使っても同じだろう」と安易に締結してしまいがちです。

しかし、NDAは「企業の命綱」ともいえる重要な契約です。

自社のビジネスモデルや取引内容に合っていない雛形を使用すると、いざという時に全く役に立たないリスクがあります。

弁護士に相談・作成を依頼することには、以下のような確実なメリットがあります。

 

①自社のビジネスモデルや「守りたい情報」に最適化できる

インターネット上の雛形は、あくまで「一般的な取引」を想定して最大公約数で作られています。

しかし、守るべき情報は「独自のソースコード」なのか、「顧客の個人情報」なのか、「製造ノウハウ」なのかによって、記載すべき条項は全く異なります。

弁護士に相談することで、「何を、どこまで、どうやって守るか」をヒアリングし、御社のビジネスに完全にフィットしたオーダーメイドの契約書を作成できます。

 

②「不平等な契約」を見抜き、リスクを事前に回避できる(リーガルチェック)

相手方からNDAを提示された場合、一見すると中立に見えても、「相手方にかなり有利(自社に圧倒的に不利)」に定められているケースもあります。

  • 自社が意図しない情報まで「秘密情報」に指定され、過度な管理負担を負わされている
  • 違反時の損害賠償額が、自社の規模に対して不相応に高く設定されている
  • 有効期間が長すぎて、将来の自社ビジネスの足かせになっている

弁護士であれば、リーガルチェックを行うことで、こうした見落としがちなリスクを見抜き、適切な修正案(カウンターオファー)を提案できます。

 

③トラブル発生時(漏洩時)に、迅速かつ的確な初期対応ができる

万が一、情報漏洩や目的外利用の疑いが発生した場合、一刻を争う対応(証拠保全、使用差止請求、損害賠償の請求など)が求められます。

日頃からNDAの作成やチェックを弁護士に依頼していれば、契約の背景や事情をすでに把握しているため、トラブル発生時にスムーズに法的措置へ移行することができます。

 

④企業の「コンプライアンス姿勢」をアピールでき、社会的信用が高まる

取引先に対して、弁護士の監修を経た精度の高いNDAを提示することは、「当社は情報セキュリティと法務を極めて重視している、信頼できる企業である」という強力なサインになります。

特に、大企業や官公庁、海外企業との取引においては、法的に整備された契約書をスムーズに提示できるかどうかが、ビジネスを勝ち取るための重要な判断材料となります。

 

当事務所からのメッセージ

NDAは、安心・安全にビジネスを発展させるための「投資」です。

少しでも不安な点や、これから重要な商談を控えている場合は、ぜひ一度企業法務に精通した当事務所へご相談ください。

御社の利益と未来を、法的な観点から全力でサポートいたします。

 

 

秘密保持契約のよくあるQ&A

収入印紙は必要?

秘密保持契約書には、原則として、収入印紙を貼る必要はありません。

印紙税法における課税文書に該当する契約書には、収入印紙を貼る必要があります。

しかし、一般的な秘密保持契約書は、この課税文書に該当しないため、収入印紙を貼らなくてよいのです。

ただし、秘密保持契約書であっても、その中に、課税文書に該当する内容が含まれている場合には、例外的に収入印紙を貼る必要があります。

例えば、業務委託や請負、継続的取引の基本となる契約書の内容が、秘密保持契約書の中に記載されている場合には、収入印紙を貼らなくてはなりません。

 

秘密保持契約を変更することは可能?

秘密保持契約は、契約当事者間の合意によって、必要に応じて変更することが可能です。

秘密保持契約を締結した後であっても、事情の変化などを理由に、秘密保持契約の内容を変更する必要に迫られることがあります。

そのような場合には、契約当事者間で、すでに締結した秘密保持契約のどの条項を変更すべきかを協議し、合意に至れば、秘密保持契約を変更することができます。

ワンポイント:秘密保持契約を変更する際は覚書を結ぶのが一般的

秘密保持契約を変更する際に、すでに結んでいる秘密保持契約書を全面的に作り変えるというのは手間がかかります。

そのため、すでに結んでいる秘密保持契約書のうち、変更する部分だけを書き出した「覚書」(「変更覚書」ということもあります。)を締結するのが一般的です。

 

秘密保持契約を従業員と締結できる?

秘密保持契約は、自社の従業員と締結することもできます。

従業員と秘密保持契約を締結することによって、自社の技術情報や顧客情報などの秘密情報を、従業員が外部に漏えいしたり、勝手に使用したりするリスクを減らすことが可能となります。

また、秘密保持契約は、正社員や契約社員だけでなく、派遣社員やアルバイト社員など、すべての従業員との間で締結することができます。

自社の秘密情報をしっかりと守るためにも、すべての従業員と秘密保持契約を結ぶ必要性がないか検討するのが重要です。

なお、多くの企業では、以下のリンク先のような誓約書の形式によって、従業員と秘密保持契約を結ぶという方法がとられています。

引用:「秘密保持に関する誓約書」

ワンポイント:従業員と秘密保持契約を締結するタイミング

一般的には、採用時または入社時に、誓約書などにより会社と従業員が秘密保持契約を結ぶことが多いです。また、従業員の退職時にも、在職中に知り得た秘密情報について、その従業員が退職した後も一定期間は使用できないようにするために、秘密保持契約を結ぶこともあります。

 

秘密保持契約を個人間で締結できる?

秘密保持契約は、企業間や、企業と個人との間だけでなく、個人間で締結することもできます。

秘密保持契約の締結は、企業であるか個人であるかは問われないからです。

フリーランスなどの個人事業主であっても、業務を受注する際に秘密保持契約を締結するケースがよく見られます。

 

秘密保持契約の内容を第三者に開示できる?

原則として、秘密保持契約の内容を第三者に開示することはできません。

秘密保持契約では、多くの場合、秘密情報に関する秘密保持義務のほか、秘密保持契約の存在自体、つまり、その秘密保持契約で定められている内容を、第三者に開示することが原則として禁止されているからです。

なお、多くの秘密保持契約書では、例外的に、相手方から事前の承諾を得た場合には、秘密保持契約の内容を第三者に開示することができる旨が定められています。

 

相手が契約を破ったらどうなるの?

相手方が秘密保持契約を破った場合、それによって損害が発生すれば、相手方に対して、契約違反(債務不履行)を理由として損害賠償を請求することができます。

また、秘密保持契約書において、秘密情報の開示側が、相手方(受領側)に対して、秘密情報をこれ以上利用・漏えいしないよう差止めを請求できることを明記することで、契約に基づいて差し止め請求をすることもできます。

 

 

まとめ

以上、秘密保持契約について、その必要性や締結するメリット、さまざまな注意点などについて説明しました。

秘密情報を開示する側としては、相手方に自己の重要な情報を適切に取り扱ってもらうようにするために、また、受領する側としては、秘密保持義務を負う範囲などを明確にするために、合理的な内容の秘密保持契約を締結することが求められます。

したがって、どちらの立場の場合でも、秘密保持契約に関しては、企業法務に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

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