契約不適合責任とは?瑕疵担保責任との違いや免責を解説

監修者:弁護士 西村裕一
弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

契約不適合責任とは
契約不適合責任とは、「売買などの取引によって引き渡された目的物が、事前に合意した契約に適合していない場合に、売主が買主に対して負う責任」のことです。

この記事では、ビジネスの基本となる契約不適合責任について、似た用語である「瑕疵担保責任」との違いにも触れながら解説します。

会社の担当者の方はもちろん、個人で不動産や高価な商品を購入する方にとっても、ご自身の権利を守るために非常に重要となりますので、万が一のトラブルに備え、本記事を読んで理解を深めてください。

契約不適合責任とは?わかりやすく解説

契約不適合責任の意味

契約不適合責任とは

契約不適合責任とは、売主等から引き渡された目的物(商品や不動産など)が、種類、品質、数量に関して契約の内容に適合しない場合に、売主等が買主等に対して負う責任のことをいいます。

要するに、「注文した内容と違うものが届いた」「数が足りない」「通常期待される性能や品質が欠けている」といった場合に、「契約通りではなかったので、責任を取ってください」と買主から言われる、ということです。

なお、契約不適合責任という制度は、2020年4月1日に施行された改正民法で定められた比較的新しいルールになります。

 

責任の内容

売主が取るべき責任の内容は何種類かあります。

買主は売主に対して、正しい商品への交換を求めたり、修理を要求したり、あるいは代金の減額や契約の解除、損害賠償の請求をしたりすることができます。

これらの買主の権利を保障し、売主にその責任を負わせるのが「契約不適合責任」の内容です。

なお、「契約の内容」は基本的に契約書に明記されている内容だけでなく、口頭での約束や、商品のカタログ、広告の表示なども、契約の内容に含まれることがあります。

 

契約不適合責任の根拠(民法の条文)

契約不適合責任の基本的なルールは、民法に定められています。

中心となる条文は第562条です。

民法第562条

(買主の追完請求権)
第五百六十二条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。

ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。

2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。

引用:民法|e-Gov法令検索

この条文が、契約の内容と違うものが引き渡された場合に、買主が売主に対して「ちゃんとしたものを納品してください」と請求できる権利(追完請求権)を保障しています。

具体的には、

  • 目的物の修補(修理)
  • 代替物(代わりの品物)の引渡し
  • 不足分の引渡し

という3つの方法が挙げられています。
この条文では、責任の発生原因を「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないこと」と明確に定めています。

これにより、どのような場合に売主が責任を負うのかが、以前の法律(後述する瑕疵担保責任)よりも具体的で分かりやすくなっています。

また、この契約不適合責任のルールは、売買契約だけでなく、請負契約(例えば、家の建築やシステムの開発など)にも適用(正確には、「準用」)されます(民法第559条)。

そのため、幅広い取引において非常に重要な意味を持つことになります。

民法第559条

(有償契約への準用)
第五百五十九条 この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。

ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。

引用:民法|e-Gov法令検索

企業で契約業務に携わる方は、この民法562条をはじめとする関連条文(563条の代金減額請求権、564条の損害賠償請求及び解除権など)が、自社のビジネスにどのように関わってくるのかを正しく理解しておくことが、トラブルを未然に防ぎ、また、万が一トラブルが発生した際に適切に対応するための第一歩となります。

 

契約不適合責任の具体例

契約不適合責任が問題となる場面は、私たちの身の回りの様々な取引に潜んでいます。

典型的な事例を見ていきましょう。

具体例 不動産売買の例(品質に関する不適合)

中古の戸建て住宅を購入し、引き渡しを受けた後、大雨が降った際にひどい雨漏りがすることが発覚したケース。

売買契約の目的物である建物には、居住のために通常有すべき安全性や品質が備わっていることが前提となります。

雨漏りは、建物の品質がこの基準を満たしておらず、「契約の内容に適合しない」と判断される典型的な例です。

この場合、買主は売主に対して、雨漏りの修理(追完請求)などを求めることができます。

具体例 中古車売買の例(品質に関する不適合)

中古車販売店で「修復歴なし」と説明されて自動車を購入したにもかかわらず、後に点検したところ、車の骨格部分を修復した重大な「修復歴」があることが判明したケース。

自動車売買において「修復歴の有無」は、その車の価値や安全性を左右する極めて重要な情報です。

したがって、「修復歴なし」という説明は契約の重要な内容となり、それに反する事実があれば「品質」に関する契約不適合に該当します。

具体例 穀物の売買の例(数量に関する不適合)

商社が、海外から小麦を100トン輸入する契約を結んだが、実際に港に到着し、検量したところ98トンしか存在しなかったケース。

これは単純明快な「数量」に関する契約不適合です。買主である商社は、売主に対して不足している2トン分の小麦を引き渡すよう請求(追完請求)することができます。

これらの例からわかるように、契約不適合責任は、個人間の取引から大企業間の国際取引まで、あらゆる売買シーンで発生しうる問題です。

取引を行う際には、「どのような内容で合意したのか」を契約書などで明確にしておくことが、将来の紛争を予防する上で重要です。

 

 

契約不適合責任と瑕疵担保責任との違い

2020年4月1日の民法改正によって、それまでの「瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)」という制度が廃止され、新たに「契約不適合責任」が導入されました。

この変更は、単なる名称の変更ではなく、責任の考え方や買主が請求できる権利の内容に影響を与えるものです。

ビジネスを行う上で、この違いを正確に理解しておくことは非常に重要です。

ここでは、両者の違いを分かりやすく比較し、何がどのように変わったのかを解説します。

両者の主な違いをまとめると、以下の表のようになります。

比較項目 瑕疵担保責任(旧法) 契約不適合責任(新法)
責任の根拠 法律が特別に定めた責任(法定責任) 契約内容を守らなかった責任(債務不履行責任)の一種
対象となる不具合 隠れた瑕疵(欠陥) 隠れている必要はない、種類・品質・数量に関する契約不適合
対象となる目的物 主に特定物(不動産、中古品など) 特定物・不特定物(代替のきく新品など)を問わない
買主が請求できる権利 損害賠償請求・契約解除 追完請求(修理、代替品、不足分引渡し)・代金減額請求・損害賠償請求・契約解除
損害賠償の範囲 原則として信頼利益(契約が有効と信じたことによる損害) 原則として履行利益(契約が完全に履行されていれば得られた利益)
権利行使の期間 瑕疵を知った時から1年以内に権利行使(損害賠償請求など)をする必要があった 不適合を知った時から1年以内に売主へ通知すればよく、実際の権利行使はそのあとでも可能

特に重要な変更点を、いくつか掘り下げてみましょう。

第一に、「隠れた」瑕疵という要件がなくなったことです。

旧法では、買主が契約時に少し注意すれば気づけたような欠陥については、売主の責任を問えませんでした。

しかし新法では、欠陥が隠れているかどうかは関係なく、「契約内容に適合しているか」が全てです。

たとえ契約時に買主が気づくことができた欠陥であっても、それが契約内容と異なるものであれば、売主の責任を追及できることになりました。

これにより、買主の保護がより手厚くなったと言えます。

第二に、買主が請求できる権利が大幅に拡充された点です。

旧法での買主の権利は、基本的に損害賠償請求と契約解除に限られていました。

しかし、新法では、まず第一に「追完請求(ちゃんとしたものを納品し直せ)」を求めることができ、それがなされない場合には「代金減額請求(不具合がある分、代金をまけてくれ)」もできるようになりました。

これは買主にとって非常に大きな改善点です。

例えば、少しの不具合があるだけですぐに契約解除や損害賠償という深刻な話になるのではなく、「まずは直してください」という、より柔軟で現実的な解決策を選べるようになりました。

第三に、損害賠償の範囲が拡大されたことです。

旧法では、損害賠償の範囲は、契約が有効だと信じたために生じた損害(信頼利益)に限られると解釈されることが一般的でした。

例えば、欠陥のある機械を購入するために要した調査費用などがこれにあたります。

しかし新法では、契約がきちんと履行されていれば得られたはずの利益(履行利益)まで請求できることが明確になりました。

例えば、欠陥のない機械を使って製品を製造し、それを販売して得られたはずの「転売利益」や、機械が使えなかった期間に代替機をレンタルした費用なども、損害として賠償請求の対象となり得ます。

これは売主にとっては責任が重くなったことを意味し、契約時にはより一層の注意が求められます。

このように、契約不適合責任は、瑕疵担保責任と比べて、全体として買主の権利を強化し、契約当事者の意思(契約内容)をより重視する制度へと変化しました。

企業の法務担当者や経営者の方は、この変更点を正確に理解して、自社の契約書の見直しや取引上のリスク管理に活かされることをお勧めします。

 

 

契約不適合責任の要件

売主に対して契約不適合責任を追及するためには、いくつかの要件を満たす必要があります。

契約不適合責任が成立するための中心的な要件はシンプルです。

「引き渡された目的物(商品など)が、種類、品質、数量に関して契約の内容に適合しないこと」です。

この要件を、もう少し分解して見ていきましょう。

契約不適合責任の要件

 

引渡しがあったこと

前提として、売主から買主へ目的物の「引渡し」が完了している必要があります。

引渡しが完了する前に目的物が壊れたりなくなったりした場合は、契約不適合責任ではなく、「危険負担」という別の法律の問題になります。

 

目的物に「契約との不適合」が存在すること

これが最も重要なポイントです。

不適合には、大きく分けて以下の3つの類型があります。

 

種類に関する不適合

これは、契約で定められた特定の種類の物とは別の物が引き渡された場合を指します。

例えば、「A社製の部品」を注文したのに「B社製の部品」が納品された、「日本産の米」を契約したのに「外国産の米」が届いた、といったケースです。

たとえB社製の部品の性能がA社製と同等以上であったとしても、契約内容と異なる以上は「不適合」となります。

 

品質に関する不適合

これは、引き渡された物が、契約で定められた品質や、通常期待される品質を備えていない場合を指します。

いわゆる「欠陥品」や「不良品」がこれに該当します。

例えば、「新品のスマートフォン」を購入したのに電源が入らない、「防水仕様」の腕時計なのに水が入ってしまう、「無傷であること」を条件に購入した美術品に傷があった、といったケースです。

品質については、契約書で明確な基準(例えば「糖度15度以上のメロン」など)が定められている場合はそれが基準となりますが、特に定めがない場合でも、その目的物が取引上「通常有すべき品質」を備えているかどうかが問われます。

 

数量に関する不適合

これは、契約で定められた数量よりも少ない数量しか引き渡されなかった場合を指します。

例えば、「ネジを1000個」注文したのに950個しか納品されなかった、といったケースです。

これは非常に分かりやすい不適合です。

 

不適合の原因が、売主のせいでも買主のせいでもない場合(帰責事由が不要)

契約不適合責任は、その不適合が発生したことについて、売主に故意や過失といった「落ち度(帰責事由)」がなくても発生します。

これは、一般的な債務不履行責任(例えば、約束の期日に商品を届けない、など)が、原則として債務者の落ち度を必要とする点との大きな違いです。

たとえ売主が細心の注意を払って検品して出荷したとしても、結果として契約内容に適合しない物が買主に引き渡されたのであれば、売主は責任を負わなければなりません。

これにより、買主は売主の落ち度を証明する必要なく、迅速な救済を求めることができます。

 

企業間の取引(BtoB)における修正

上記の要件は、民法が定める原則的な内容です。

しかし、会社と会社のような事業者同士の取引においては、民法のルールが一部修正されることがあります。

特に重要なのが、商法の適用です。

商人間の売買では、買主には迅速な検査と通知の義務が課せられています(商法第526条)。

商法第526条

(買主による目的物の検査及び通知)
第五百二十六条 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。

2 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。

売買の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことを直ちに発見することができない場合において、買主が六箇月以内にその不適合を発見したときも、同様とする。

3 前項の規定は、売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことにつき売主が悪意であった場合には、適用しない。

引用:商法|e-Gov法令検索

つまり、企業間で商品を仕入れたような場合、買主は商品を受け取ったらすぐに中身を検査し、もし契約不適合を発見した場合は、「直ちに」売主に通知しなければなりません。

ただし、この商法のルールにも例外があります。

売主が、納品した商品が契約内容に適合しないことを知っていた(悪意であった)場合には、買主が直ちに通知をしなくても、売主は責任を免れることはできません。

※検査・通知義務については後述します。

 

 

契約不適合責任に基づき請求できる内容

目的物が契約内容に適合しない場合、買主は売主に対して、その状況を是正し、損害を回復するために、複数の権利を主張することができます。

民法は、買主の救済手段として、大きく分けて4つの権利を定めています。

買主が請求できる権利は以下の4つです。

  • 追完請求権(民法第562条)
  • 代金減額請求権(民法第563条)
  • 損害賠償請求権(民法第564条、第415条)
  • 契約解除権(民法第564条、第541条、第542条)

これらの権利は、いつでも自由に好きなものを選べるわけではなく、基本的には以下のような流れで請求していくことになります。

 

請求の基本的な流れ

請求の基本的な流れ

各権利の内容を具体的に見ていきましょう。

 

①追完請求権(履行の追完の請求)

これは、契約不適合責任における最も基本的で、一般的には第一に行使される権利です。

「追完」とは、「後から追いかけて完全にすること」を意味し、要するに「契約どおりの完璧な状態にしてください」と要求する権利です。

追完の具体的な方法として、基本的には以下の3つがあります。

  • 目的物の修補:不具合のある部分を修理してもらうこと。
    (例:雨漏りする屋根を修理させる)
  • 代替物の引渡し:欠陥品を、欠陥のない同じ種類の物と交換してもらうこと。
    (例:壊れていた新品のパソコンを、新しいものと交換させる)
  • 不足分の引渡し:数が足りない場合に、足りない分を追加で納品してもらうこと。
    (例:100個注文して90個しか届かなかった場合に、残りの10個を納品させる)

買主は、原則としてこれらの方法の中から、適切なものを選択して売主に請求することができます。

ただし、例外として、売主は「買主に不相当な負担を課するものでないとき」は、買主が選んだ方法とは違う方法で追完することも認められています。

例えば、買主がほんの少しの傷を理由に製品全体の交換(代替物の引渡し)を求めてきたのに対し、売主が簡単な修理(修補)で対応できるような場合がこれにあたります。

 

②代金減額請求権

これは、追完請求をしても売主が応じない場合や、追完が不可能な場合などに、第二の手段として行使できる権利です。

「不適合の程度に応じて、代金を減額してください」と要求する権利です。

この権利は、以下の条件を満たした場合に行使できます。

  • 買主が相当の期間を定めて追完の催告(「〇月〇日までに直してください」と要求すること)をしたが、その期間内に追完がなされないとき。
  • 追完そのものが不可能であるとき。
    (例:一点物で代替品がなく、修理もできない場合)
  • 売主が追完を明確に拒絶する意思を示したとき。

代金減額請求は、買主の一方的な意思表示によって効力が生じます。

減額される金額は、当事者間の協議で決まるのが理想ですが、話がまとまらない場合は、最終的に裁判所が不適合の度合いなどを考慮して決定することになります。

 

③ 損害賠償請求権

追完請求や代金減額請求とは別に、契約不適合によって損害が生じた場合には、その賠償を請求することができます。

この損害賠償請求は、上記の請求とあわせて行うことが可能です。

例えば、納品された機械に欠陥があったために工場の生産ラインがストップし、その結果、他の取引先に納品が遅れて違約金を支払わなければならなくなった、というようなケースです。

この場合、機械の修理(追完請求)を求めると同時に、発生した違約金相当額を損害として賠償請求することができます。

ただし、損害賠償を請求するためには、その不適合について売主に帰責事由(故意や過失などの落ち度)があることが必要です。

この点が、売主の落ち度がなくても請求できる追完請求や代金減額請求との大きな違いです。

※損害賠償の具体的な範囲については、次のセクションで詳しく解説します。

 

④契約解除権

これは、契約関係そのものを白紙に戻す、最も強力で最終的な手段です。

契約を解除すると、まだ支払っていない代金は支払う必要がなくなり、すでに支払った代金は返還を求めることができます。

もちろん、引き渡された商品は売主に返還しなければなりません。

契約の解除は、原則として、買主が相当の期間を定めて追完の催告をし、その期間内に追完がされない場合に認められます。

ただし、その不適合が「契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」は、解除までは認められません。

例えば、車のダッシュボードに僅かな傷があった、という程度の理由で、売買契約全体の解除を主張することは難しいでしょう。

また、追完が不可能である場合や、売主が追完を明確に拒絶した場合などには、催告をすることなく直ちに契約を解除できる場合もあります。

これらの4つの権利は、買主を保護するための強力な武器ですが、どの権利をどのタイミングで行使すべきかは、具体的な状況によって異なります。

トラブルの初期段階で適切な対応をとることが、問題を複雑化させずに解決するための鍵となります。

判断に迷う場合は、早い段階で専門家である弁護士に相談することをお勧めします。

 

 

契約不適合責任に基づく損害賠償の範囲とは?

契約不適合責任の一環として認められる損害賠償請求ですが、その「損害」には、具体的にどこまで含まれるのでしょうか。

損害賠償の範囲を考える上で中心となる概念が、「履行利益」「信頼利益」という二つの考え方です。

そして、契約不適合責任における損害賠償は、原則として「履行利益」の賠償を求めるものとされています。

 

履行利益とは?

履行利益とは、「もし契約がその内容どおりにきちんと履行されていたならば、得られたであろう利益」のことを指します。

言い換えれば、「契約違反がなければ、今頃これだけのプラスがあったはずだ」という利益のことです。

これに対して、信頼利益とは、「契約が有効であると信じたことによって被った損害」を指します。

例えば、契約を締結するための調査費用や交通費などがこれにあたります。

一般的に、履行利益は信頼利益よりも広範囲な損害を含むと考えられています。

契約不適合責任において、履行利益には主に以下の二つの損害が含まれます。

 

塡補賠償(てんぽばいしょう)

本来得られるはずだった給付(=契約どおりの完全な目的物)の代わりに、その価値を金銭で賠償してもらうものです。

具体的には、以下のようなものが考えられます。

  • 修補費用相当額:もし売主が修理(追完)に応じてくれない場合に、買主が自分で他の業者に修理を依頼したときの費用。
  • 代替品の調達費用:売主が代替品を渡してくれない場合に、買主が市場で同等の物を購入したときの費用。
    ただし、元の代金額との差額分が損害となります。
  • 目的物の価値減少分:修理しても完全には元に戻らない場合の、資産価値の減少分。

 

拡大損害(派生損害)

これは、契約内容に適合しない目的物が引き渡されたことによって、買主の他の財産にまで被害が及んだ場合の損害です。

これが履行利益の賠償において、特に問題となりやすく、賠償額も大きくなる可能性がある部分です。

 

履行利益の具体例

具体的なケースをイメージすると理解しやすいので、以下の事例で理解を深めましょう。

ケース1 欠陥のある機械を仕入れた製造業者の場合

メーカーが、部品を製造するための工作機械を1000万円で購入したものの、納品された機械に欠陥があり、製造した部品が全て不良品になってしまったケース。さらに、機械が故障して生産ラインが1ヶ月間停止してしまったとします。この場合、メーカーが請求できる可能性のある損害(履行利益)は以下のようになります。

  • 機械の修理費用または代替品調達費用(塡補賠償)
  • 不良品となった部品の材料費(拡大損害)
  • 生産ラインの停止によって、本来製造・販売して得られたはずの利益(逸失利益)(拡大損害)
  • 他の取引先への納期遅延によって発生した違約金(拡大損害)
  • 失った顧客の信用を回復するために要した費用(拡大損害)
ケース2 雨漏りする建物を購入した場合

新築の建物を購入したところ、雨漏りが発生し、室内にあった高価な家具やパソコンが水浸しになって使えなくなってしまいました。この場合、買主が請求できる可能性のある損害は以下のようになります。

  • 建物の雨漏りの修理費用(塡補賠償)
  • 水浸しになった家具やパソコンの価額(拡大損害)
  • 修理期間中にホテル等に宿泊する必要があった場合の宿泊費(拡大損害)

 

因果関係も必要

特に拡大損害は、非常に広範囲に及ぶ可能性がありますが、どのような損害でも無制限に請求できるわけではありません。

損害賠償が認められるのは、契約不適合と「相当因果関係」のある範囲に限られます。

相当因果関係とは、社会の一般的な常識からみて、「そのような契約不適合があれば、通常そのような損害が発生するだろう」と考えられる関係のことを指します。

非常に特殊で、予見不可能な損害については、賠償の対象外となることがあります。

 

特約で損害賠償額を制限できる?

このように広範囲に及ぶ可能性がある損害賠償責任は、売主にとって大きなリスクとなります。

そこで、実務上は、売買契約書の中で、あらかじめ損害賠償の範囲を制限する特約が定められることがよくあります。

具体的には、以下のような条項です。

  • 損害賠償の範囲を限定する条項
    例:「本契約に関して売主が買主に対して負う損害賠償責任は、直接かつ現実に生じた通常の損害に限定され、逸失利益、事業機会の喪失、その他の間接損害、派生損害については、その予見可能性の有無を問わず、責任を負わないものとする。」
  • 損害賠償額の上限を定める条項
    例:「本契約に関して売主が買主に対して負う損害賠償責任は、その原因のいかんを問わず、本契約における売買代金額を上限とする。」

これらの特約は、原則として有効です。

契約自由の原則に基づき、当事者間の合意によって、民法の規定とは異なる取り決めをすることが認められています。

自社が売主となる場合には、リスク管理の観点から、適切な範囲で損害賠償を制限する条項を設けることを検討すべきでしょう。

 

 

契約不適合責任の通知期間【時効との関係】

契約内容に適合しない商品を受け取った場合、買主は売主に対して様々な権利を主張できますが、その権利は永久に主張できるわけではありません。

法律は、取引の安定性を保つために、権利を主張できる期間に制限を設けています。

この期間制限を正しく理解していないと、せっかくの権利が使えなくなってしまう可能性があります。

この期間制限には、大きく分けて「通知期間」「時効(消滅時効)」という2つの異なる概念が関係しており、非常に複雑で誤解されやすい部分です。

 

①買主の通知義務(権利を保存するための手続き)

まず、買主が契約不適合を発見した場合、その権利を失わないようにするために、一定期間内に売主へ「不適合がありましたよ」と知らせる(通知する)義務があります。

消費者と事業者、あるいは個人間の取引など、後述する商人間の売買に当たらない取引では、民法第566条が適用されます。

民法第566条

(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
第五百六十六条 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。

ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。

引用:民法|e-Gov法令検索

この条文のポイントは、「不適合を知った時から1年以内」に「通知」をすればよい、という点です。

「知った時」からカウントが始まるので、商品の引き渡しを受けてから5年後に初めて不具合に気づいたとしても、その気づいた時から1年以内に通知すれば権利は守られます。

また、この「通知」は、裁判を起こしたり、内容証明郵便で詳細な請求書を送ったりすることまで求められているわけではありません。

まずは、契約不適合の事実を売主に知らせれば足ります。

例えば、「先日購入した〇〇ですが、こういう不具合があります」と電話やメールで連絡することでも、基本的には通知したことになります。

ただし、後のトラブルを防ぐためには、いつ、どのような内容を通知したのかが証拠として残るように、内容証明郵便やメールなどを利用することが賢明です。

この1年以内の通知を怠ると、原則として、追完請求や損害賠償請求といった契約不適合責任に基づく権利のほとんどを行使できなくなってしまいますので、注意しましょう。

 

企業間取引の場合(商法)

会社などの商人同士の売買では、前述の通り、上記よりも厳しいルールが商法によって定められています(商法第526条)。

プロ同士の取引では、迅速な問題解決が求められるためです。

商法第526条

(買主による目的物の検査及び通知)
第五百二十六条 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。

2 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。

売買の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことを直ちに発見することができない場合において、買主が六箇月以内にその不適合を発見したときも、同様とする。

3 前項の規定は、売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことにつき売主が悪意であった場合には、適用しない。

引用:商法|e-Gov法令検索

ポイントは以下です。

 

検査と即時通知義務

買主は、商品を受け取ったら「遅滞なく」(=すぐに)商品を検査し、もし契約不適合を発見した場合は「直ちに」売主に通知しなければなりません。

この「直ちに」とは、数日程度を意味すると解釈されており、非常に短いです。

 

検査義務を怠った場合

この検査と通知を怠ると、たとえ後から不適合が見つかっても、原則として売主の責任を追及することはできません。

 

直ちに発見できない不適合の場合

商品の性質上、すぐに検査しても発見できない不適合(例えば、機械を長期間稼働させないと分からない内部の欠陥など)については、商品を受け取ってから6ヶ月以内に発見して通知すれば、責任を追及できます。

企業で商品の仕入れや検品を担当されている方は、この商法のルールを肝に銘じておく必要があります。

 

②権利行使の期間制限(消滅時効)

さらに、別途「消滅時効」という時間制限が適用されます。

消滅時効によって、一定期間、権利が行使されない場合にその権利自体が消滅してしまいます。

契約不適合責任に基づく権利(追完請求権や損害賠償請求権など)は、一般的な債権と同様に、以下のいずれか早い期間が経過すると時効によって消滅します(民法第166条第1項)。

  • 権利を行使できることを知った時から5年間(主観的起算点)
  • 権利を行使できる時から10年間(客観的起算点)
民法第166条第1項

(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。

二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

引用:民法|e-Gov法令検索

 

 

契約不適合責任の免責とは?

契約不適合責任は、買主を保護するための強力な制度ですが、一方で売主にとっては予期せぬ大きな負担となる可能性があります。

そこで、特に不動産の取引、あるいは企業間の取引などでは、当事者間の合意によって、契約不適合責任を免除したり、軽減したりする特約(免責特約)を契約書に盛り込むことがよくあります。

契約は、当事者がその内容を自由に決められるのが原則です(契約自由の原則)。そのため、売主と買主が合意の上で、

  • 「売主は契約不適合責任を一切負わない」
  • 「契約不適合責任を負う期間を、引渡しから3ヶ月間に限定する」

といった特約を定めることは、原則として有効です。

しかし、どのような免責特約でも許されるわけではありません。

法律は、信義にもとるような売主を保護しないため、また、立場の弱い買主を保護するために、以下のような場合には免責特約を無効としています。

 

①売主が不適合を知りながら告げなかった場合(悪意の売主)

これは最も重要な無効事由です。

売主が、目的物に契約内容と異なる点(欠陥など)があることを知っていたにもかかわらず、それを買主に告げずに売却した場合、たとえ契約書に「一切の契約不適合責任を負いません」という免責特約があったとしても、その特約は無効となります(民法第572条)。

民法第572条

(担保責任を負わない旨の特約)
第五百七十二条 売主は、第五百六十二条第一項本文又は第五百六十五条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。

引用:民法|e-Gov法令検索

例えば、中古車の売主が、その車が過去に重大な事故を起こしている(修復歴がある)ことを知っていながら、それを隠して「現状有姿渡し、ノークレーム・ノーリターン」として販売したようなケースです。

この場合、買主は、免責特約は無効であると主張し、売主に対して契約不適合責任を追及することができます。

 

②消費者契約法が適用される場合

事業者が売主となり、個人である消費者が買主となる取引(例えば、不動産会社が個人に住宅を販売する場合や、自動車販売店が個人に車を販売する場合など)には、「消費者契約法」という特別な法律が適用されます。

この消費者契約法は、情報量や交渉力で劣る消費者を保護するため、事業者が定める不当な契約条項を無効にするルールを設けています。

契約不適合責任の免責に関しても、以下のような特約は無効とされます(消費者契約法第8条第1項第1号、第2号)。

  • 事業者の契約不適合責任を「全部」免除する条項
  • 事業者が、目的物に契約不適合があるかどうかを判断するために「引渡し時に知ることができたかどうか」で責任の有無を決めるような条項

つまり、事業者である売主は、消費者との契約において、契約不適合責任を「完全にゼロ」にすることはできません。

 

③宅地建物取引業法による制限

不動産取引の中でも、売主が宅地建物取引業者(不動産会社など)で、買主が個人など業者でない場合には、「宅地建物取引業法」によって、さらに厳しい制限が課せられます。

この場合、不動産会社は、契約不適合責任を負う期間を「目的物の引渡しの日から2年以上」とする特約をする場合を除き、民法に定められたものより買主に不利となる特約をすることはできません(宅建業法第40条)。

つまり、たとえ買主の合意があったとしても、「責任期間は引渡しから1年間」とか「一切責任を負わない」といった特約は無効となり、原則どおり民法のルールが適用されることになります。

 

 

契約不適合責任の条項【契約書への記載例】

ビジネスの現場では、当事者間の合意によって、民法のルールとは異なる内容を定めることが頻繁に行われます。

ここでは、具体的な契約書の記載例とそのポイントを解説します。

 

ケース1:民法の原則に沿った基本的な条項例

まずは、民法の規定内容を契約書上でも確認する、最もシンプルで基本的な条項です。

特定の業界の慣行などがなく、当事者間の力関係が対等な場合に用いられることがあります。

条項例1

第〇条(契約不適合)
売主は買主に対し、引き渡された目的物(以下「本件製品」という。)が種類、品質及び数量に関して本契約の内容に適合すること(以下「契約適合性」という。)を保証する。

本件製品が契約適合性を満たさない場合、買主は売主に対し、民法の定めに従い、履行の追完請求、代金減額請求、損害賠償請求及び契約の解除をすることができる。

 

ケース2:売主の責任を軽減・限定する条項例

売主の立場としては、契約不適合責任を無制限に負うことは大きな経営リスクとなります。

そこで、責任を負う期間や範囲、金額をあらかじめ限定しておくことで、リスクを予測可能にし、管理しようとします。

これは企業間の取引(BtoB)ではごく一般的に見られるアプローチです。

条項例2-1:責任を負う期間と方法を限定する

第〇条(契約不適合)
買主は、本件製品の引渡しを受けた後、直ちにその種類、品質及び数量について検査するものとし、本件製品に契約不適合を発見したときは、当該引渡しの日から10日以内に、その具体的な内容を明記した書面をもって売主に通知しなければならない。

前項の期間内に買主から通知がなされない場合、本件製品は契約に適合したものとみなし、買主は以後、本件製品の契約不適合を理由として、売主に対し何らの請求もすることができない。

第1項の通知がなされた場合、売主の責任は、売主の選択に従い、本件製品の修補又は代替品の引渡しによる履行の追完に限られるものとする。

買主は、代金減額請求、損害賠償請求及び契約の解除をすることはできない。

条項例2-2:損害賠償額に上限を設ける

第〇条(損害賠償の範囲) 本契約に関連して売主が買主に対して負う損害賠償責任は、その原因のいかんを問わず、現実に買主に生じた直接かつ通常の損害に限定され、逸失利益、事業機会の喪失等の間接損害、特別損害、派生損害については、売主がその可能性を予見し、又は予見し得た場合であっても、一切責任を負わないものとする。

また、賠償額の上限は、理由のいかんを問わず、本契約に基づき買主が売主に現に支払った代金額を上限とする。

 

 

 

契約不適合責任についてのトラブル事例

契約不適合責任について、実際にどのような場面でトラブルが発生し、どのように解決が図られるのか、具体的な事例を通じて見ていきましょう。

 

不動産売買についてのトラブル事例

建物のケース シロアリ被害と責任期間

中古住宅を購入後、契約書で定めた責任期間(例:引渡しから3ヶ月)が経過した後に、床下から深刻なシロアリ被害が発見された事例。

買主が売主に対して修繕費用の負担を求めたところ、売主は「契約で定めた責任期間が過ぎている」と主張し、トラブルになることが考えられます。

解説: 当事者間で定めた責任期間の制限は、原則として有効です。

しかし、もし売主がシロアリ被害の存在を知りながら買主に告げずに売却していた場合、その期間制限の特約は無効となります(民法第572条)。

買主は、売主の「悪意」を証明できれば、期間経過後でも責任を追及できる可能性があります。

土地のケース 地中埋設物の発見

倉庫を建設する目的で更地(さらち)を購入し、基礎工事のために土地を掘削したところ、地中から大量のコンクリートガラ(過去の建物の廃材)が発見された事例。

買主が売主に対し、その撤去費用を請求したところ、売主は「自分も相続した土地で、埋設物の存在は知らなかった」と主張し、トラブルになる事が考えられます。

解説: 契約不適合責任は、売主の故意や過失(落ち度)を問うものではありません。

たとえ売主が埋設物の存在を知らなかった(善意であった)としても、契約の目的(倉庫の建設)を妨げる不適合があった以上、原則としてその責任(この場合は撤去費用の負担など)を負わなければなりません。

特約がある場合にはその特約の内容と有効性を判断する必要があります。

 

不動産以外の動産(商品)売買についてのトラブル事例

機械のケース 契約で定めた性能の不足

食品工場が、メーカーから「1時間に5,000個の商品を包装可能」という仕様書に基づき、新型の包装機械を購入したが、実際に稼働させたところ、どう調整しても3,000個の性能しか出なかった事例。

買主がメーカーに改善(履行の追完)を求めたところ、メーカーは「買主側の使用環境や原材料に問題がある」と主張し、トラブルになることが考えられます。

解説: 契約書や仕様書に明記された具体的な性能(「1時間に5,000個」)は、契約の「品質」に関する重要な内容となります。

性能が満たされない場合、その原因がどちらにあるのかが最大の争点となりますが、契約通りの性能が発揮されない以上、売主(メーカー)はまず契約不適合責任を負い、自らに責任がないことを証明する必要があります。

契約書や仕様書に明記がないと、1時間に5000個というのが契約の内容になっていたのかが争いになります。

中古車のケース 修復歴の虚偽告知と免責特約

中古車販売業者から「修復歴なし」という説明を受け、自動車を購入しましたが、購入後別の整備工場で重大な事故による骨格部分の「修復歴」があることが発覚した事例。

買主が業者に代金の減額を求めたところ、業者は「契約書に免責特約(ノークレーム・ノーリターン)がある」「販売した当時は業者も知らなかった」と主張し、トラブルになることが考えられます。

解説: このケースでは、売主が事業者で買主が消費者であるため、消費者契約法が適用される可能性が高いです。

事業者の責任を「全て免除する」という特約は、同法により無効と判断されます。

また、業者が知らなかったとしても、「修復歴なし」という契約内容と異なる車を引き渡した責任は免れません。

 

 

契約不適合責任のポイント

続いて、契約不適合責任について、特にビジネスの担当者として押さえておくべき重要なポイントを、あらためて整理します。

契約不適合責任のポイント

 

「契約の内容」がすべてのはじまり

契約不適合責任は、その名の通り「契約の内容」に適合しているかどうかが判断の基準となります。

裏を返せば、契約内容が曖昧であればあるほど、トラブルが発生した際に「適合している」「していない」の水掛け論になりがちです。

これを防ぐためには、契約を締結する段階で、目的物の仕様、品質、性能、数量などを、できる限り具体的かつ明確に契約書に落とし込んでおくことが不可欠です。

口頭での約束や、メールでのやり取りも契約内容の一部と解釈される可能性はありますが、証拠として最も強力なのは、やはり当事者が署名・押印した契約書です。

 

時間との勝負を意識する

契約不適合責任の追及には、厳格な時間制限が設けられています。

特に、企業間取引(商人間の売買)においては、「納品後、直ちに検査し、直ちに通知する」という商法のルールが適用されることを忘れてはなりません。

商品の受け入れ・検品体制を社内で整備し、担当者にこのルールの重要性を徹底させることが、企業の権利を守る上で死活問題となり得ます。

また、民法上の「知った時から1年以内の通知」や、その後の「5年の消滅時効」といった期間制限も常に意識しておく必要があります。

「おかしいな」と思ったら、問題を先送りにせず、速やかに法的な手続きの検討を開始することが肝心です。

 

記録(証拠)を残す習慣をつける

トラブルが訴訟などに発展した場合、最終的には「証拠」に基づいて事実が認定されます。

契約不適合を主張する際には、いつ、どのような不適合を発見したのかを証明する必要があります。

不具合箇所の写真や動画、検査記録、不具合によって発生した損害の明細(見積書や領収書など)を、きちんと整理して保管しておきましょう。

また、売主と交渉する際には、電話での口頭のやり取りだけでなく、メールや書面といった形で記録に残すことが重要です。

特に、不適合の事実を通知する際には、後から「言った」「言わない」の争いを避けるためにも、内容証明郵便を利用することが最も確実な方法です。

 

企業法務に強い弁護士に相談する

契約不適合責任の問題は、法律の解釈だけでなく、業界の慣行や技術的な知見が絡むことも多く、非常に専門的です。

契約書の作成・レビュー、相手方との交渉、そして訴訟対応まで、自社だけで全てを適切に行うのは困難な場合が少なくありません。

問題が小さいうちに、あるいは問題が発生する前に専門家である弁護士に相談することが、結果的に時間とコストを最小限に抑え、最善の解決につながります。

特に、日常的に企業の契約問題を取り扱っている「企業法務に強い弁護士」からであれば、ビジネスの実情を踏まえた、現実的で戦略的なアドバイスを受けることができるはずです。

会社法務に強い弁護士へ相談するメリットや、顧問弁護士については、下記ページをご覧ください。

 

 

契約不適合責任についてのQ&A

最後に、契約不適合責任に関して、実務上よく寄せられる質問とその回答をQ&A形式でまとめました。

契約不適合責任の免責条項がある場合は契約をやめるべき?

必ずしも契約をやめるべき、ということではないです。

企業間の取引や、中古品の売買などでは、リスク分担を明確にするために、売主の契約不適合責任を免除、あるいは一部制限する条項が設けられることはごく一般的です。

重要なのは、その免責条項がどのようなリスクを意味するのかを正確に理解し、そのリスクを許容できるかどうかを判断することです。

価格が相場より安い場合、その安さが免責というリスクを反映している可能性もあります。

リスクと価格のバランスを総合的に考慮して、取引を行うかどうかを判断するようにしましょう。

 

契約不適合責任の条文は強行規定ですか?

原則として任意規定です。

法律の条文には、当事者の意思によって変更できない「強行規定」と、当事者の合意があれば別の定めをすることができる「任意規定」の2種類があります。

そして、民法における契約不適合責任に関する一連の規定(民法第562条以下)は、原則として「任意規定」であると解されています。

したがって、当事者が合意すれば、「責任期間を1年に短縮する」「損害賠償の上限を代金額とする」「そもそも責任を負わない(免責)」といった特約(特別な約束)を有効に定めることができます。

ただし、例外があります。

消費者契約法や宅地建物取引業法などの特別法:これらの法律は、消費者や不動産の買主といった、相対的に弱い立場にある当事者を保護するために、事業者側が定める不利な特約を無効とする「強行規定」を置いています。

売主の悪意:売主が不適合を知りながら買主に告げなかった場合にまで免責を認めるのは不誠実であるため、そのような場合の免責特約は無効とされます(民法第572条)。

これも強行規定的な性質を持つルールと言えます。

 

契約不適合責任の内容は契約書で自由に設定できますか?

原則として自由に設定できますが、一定の限界があります。

上記のQ&Aで解説したとおり、契約不適合責任の規定は任意規定であるため、契約自由の原則に基づき、当事者はその内容を契約書で自由に設定することができます。

ただし、この自由にも限界があります。

強行規定に違反する内容(例:宅建業者が売主の場合に責任期間を1年とする特約)や、売主が悪意の場合の免責特約、公序良俗に反するようなあまりに一方的な内容は、無効と判断される可能性があります。

 

契約不適合責任の期間を 2年ないし3年にできますか?

できます。

当事者の合意によって、契約不適合責任を負う期間を2年や3年に設定することに問題はありません。

民法には、責任期間について特段の定めはありません(ただし、買主の通知期間として「知った時から1年」という定めはあります)。

したがって、当事者が任意に期間を定めることができます。

むしろ、不動産取引においては、法律によって期間がコントロールされることがあります。

売主が宅地建物取引業者で、買主が宅建業者でない場合、宅建業法によって、責任を負う期間を「引渡しの日から2年以上」としなければならないと定められています。

この場合、契約で2年や3年と定めることは、法律の要請に応えるものであり、ごく一般的な取り扱いです。

企業間の取引においても、製品の保証期間と連動させて、「引渡しから2年間」といった形で契約不適合責任の期間を定めることは、リスク管理の観点から合理的であり、広く行われています。

 

 

まとめ

今回は、契約不適合責任の基本的な意味、要件、契約条項例など、幅広い視点で解説しました。
契約不適合責任はシンプルな話ではありますが、民法改正とも絡んでどうしても複雑に見えてしまうテーマです。

ぜひ、この記事が、読者の方のご理解に役立って、今後のビジネスや生活において、無用なトラブルを避けるための一助となれば幸いです。
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