弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

下請法の対象となる資本金は、「親事業者と下請事業者の資本金の組み合わせ」と「取引の内容」によって決まります。
そのため、一律に◯円となっているわけではありません。
下請法(正式名称:「下請代金支払遅延等防止法」)は、立場の弱い下請事業者が、親事業者から不当な扱いを受けないように保護するための法律です。
この法律が適用されるかどうかを判断する上で、最も重要な基準の一つが「資本金」です。
しかし、その基準は「親事業者と下請事業者の資本金の組み合わせ」と「取引の内容」によって決まるため、非常に複雑でわかりにくいと感じる方も多いはずです。
この記事では、下請法が適用される資本金の基準について分かりやすく解説します。
なお、2026年に下請法の改正(2026年1月施行。以下「2026年改正」と呼びます)がなされて「下請事業者」などの各用語が変更されます。
法律の名称も変更され、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(中小受託取引適正化法、取適法)となります。
もっとも、この記事では、わかりやすさを重視して、一般的に知られる改正前の用語で解説しています。
下請法が適用される資本金基準とは?

下請法が適用されるかどうかは、まず「取引を発注する側の会社(親事業者)」と「取引を受注する側の会社(下請事業者)」の規模によって決まります。
下請法における資本金の区分は、会社の規模を示す指標として用いられています。
資本金が大きい会社ほど、一般的に取引上の力が強いとみなされ、資本金が小さい会社を保護する必要性が高まる、と考えられるからです。
ただし、単純に資本金が〇〇円以上の会社が親事業者、というわけではなく、下請事業者の資本金との相対的な関係で決まるのがポイントです。
具体的には、以下の2つのパターンが存在します。
【パターンA】物品の製造・修理、プログラム作成、情報処理・運送・倉庫保管を委託する場合
この取引では、以下のいずれかの組み合わせに該当すると、下請法が適用されます。
- 親事業者(発注側)の資本金が3億円1円以上 → 下請事業者(受注側)の資本金が3億円以下(個人事業主を含む)
- 親事業者(発注側)の資本金が1,000万円超え3億円以下 → 下請事業者(受注側)の資本金が1,000万円以下(個人事業主を含む)
具体的にイメージしてみましょう。
資本金50億円の大手自動車メーカーが、資本金500万円の町工場に自動車部品の製造を依頼したとします。
この場合、親事業者(自動車メーカー)の資本金が3億円を超えており、下請事業者(町工場)の資本金が3億円以下であるため、この取引には下請法が適用されます。
資本金5、000万円のIT企業が、個人事業主(フリーランス)のプログラマーにスマートフォンのアプリ開発を委託したとします。
この場合、親事業者(IT企業)の資本金は1、000万円超3億円以下の範囲にあり、下請事業者(個人プログラマー)の資本金は1,000万円以下とみなされるため、下請法が適用されます。
【パターンB】パターンA以外で、情報成果物の作成やサービス(役務提供)を委託する場合
こちらは、コンサルティング、清掃、保守メンテナンス、マーケティングリサーチなど、パターンAに該当しない幅広いサービス取引が対象です。
- 親事業者(発注側)の資本金が5,000万1円以上 → 下請事業者(受注側)の資本金が5,000万円以下(個人事業主を含む)
- 親事業者(発注側)の資本金が1,000万1円以上5,000万円以下 → 下請事業者(受注側)の資本金が1,000万円以下(個人事業主を含む)
こちらも、具体的にイメージしてみましょう。
資本金8,000万円のビルメンテナンス会社が、自社で請け負っているビルの日常清掃業務を、資本金500万円の清掃専門会社に委託したとします。
この場合、親事業者(ビルメンテナンス会社)の資本金が5,000万円を超えており、下請事業者(清掃会社)の資本金が5,000万円以下であるため、この取引には下請法が適用されます。
資本金2,000万円の経営コンサルティング会社が、市場調査のアンケート実施業務を個人事業主の調査員に委託しました。
この場合、親事業者(コンサル会社)の資本金は1,000万円超5,000万円以下の範囲にあり、下請事業者(個人事業主)は資本金1,000万円以下とみなされるため、下請法が適用されます。
このように、自社と取引先の資本金を正確に把握し、取引内容と照らし合わせてどのパターンに該当するかを確認することが、下請法を遵守する上で不可欠です。
資本金基準を表で整理すると以下のとおりです。
| 取引内容 | 親事業者の資本金 | 下請事業者の資本金 |
|---|---|---|
| パターンA(製造委託、修理委託、プログラム作成委託、情報処理・運送・倉庫保管の委託) | 3億1円以上 | 3億円以下 |
| 1千万1円以上、3億円以下 | 1千万円以下 | |
| パターンB(パターンA以外の情報成果物作成委託、サービス提供委託) | 5千万1円以上 | 5千万円以下 |
| 1千万1円以上、5千万円以下 | 1千万円以下 |
※下請事業者には、個人事業主も含みます。
資本金以外の要件
もう一つの重要な要件として、「どのような内容の取引か」という「取引内容の要件」があります。
資本金の要件と、この取引内容の要件の両方を満たした場合に、初めて下請法の対象となります。下請法の対象となる取引は、以下の4つです。
- ① 製造委託
事業者が業として行う販売若しくは業として請け負う製造の目的物たる物品若しくはその半製品、部品、付属品若しくは原材料若しくはこれらの製造に用いる金型を他の事業者に委託すること。 - ② 修理委託
事業者が業として請け負う修理の目的物たる物品の修理の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること。 - ③ 情報成果物作成委託
事業者が業として行う提供若しくは業として請け負う作成の目的物たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること。 - ④ 役務提供委託
事業者が業として行う提供の目的物たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること。(ただし、建設業者が請け負う建設工事は除く)
これらの取引類型と、前のセクションで解説した資本金基準をセットで考えることで、下請法の適用範囲を正しく理解することができます。
2026年改正で追加される「従業員数」基準
2026年改正以降は、新たに従業員数基準が追加されます。
仮に資本金基準で適用対象外となる場合でも、以下の従業員数基準を満たす場合には下請法(新「取適法」)の適用対象になります。
※従業員数基準が増えることで、下請法の対象取引の範囲が拡大することになります。
【パターンA】物品の製造・修理、プログラム作成、情報処理・運送・倉庫保管を委託する場合
この取引では、以下の場合に従業員数基準を満たし、資本金にかかわらず下請法の適用対象になります。
親事業者(発注側)の常時使用する従業員数が301人以上 → 下請事業者(受注側)の常時使用する従業員数が300人以下資本金が3億円以下(個人事業主を含む)
【パターンB】パターンA以外で、情報成果物の作成やサービス(役務提供)を委託する場合
この場合は以下の場合に従業員数基準を満たし、資本金にかかわらず下請法の適用対象になります。
親事業者(発注側)の常時使用する従業員数が101人以上 → 下請事業者(受注側)の常時使用する従業員数が100人以下(個人事業主を含む)
以上の通り、2026年改正以降は、取引先の従業員数にも注意を払う必要があることを覚えておきましょう。
下請法で禁止されている行為とは?
下請法では、「11の禁止行為」がリストアップされています。
これらは、下請事業者に一方的に不利益を押し付ける行為として厳しく禁じられています。
11の禁止行為
- ① 受領拒否:発注した物品やサービスの受け取りを、下請事業者に責任がないにもかかわらず拒否すること。
- ② 下請代金の支払遅延:定められた支払期日までに代金を支払わないこと。
- ③ 下請代金の減額:発注時に決めた代金を、下請事業者に責任がないにもかかわらず、一方的に減額すること。
- ④ 返品:受け取った物品を、下請事業者に責任がないにもかかわらず、返品すること。
- ⑤ 買いたたき:通常支払われる対価に比べて、著しく低い価格を一方的に定めること。
- ⑥ 購入・利用強制:正当な理由なく、親事業者が指定する商品やサービスを購入させたり、利用させたりすること。
- ⑦ 報復措置:下請事業者が、親事業者の違反行為を公正取引委員会や中小企業庁に知らせたことを理由に、取引数量を減らしたり、取引を停止したりするなどの不利益な取り扱いをすること。
- ⑧ 有償支給原材料等の対価の早期決済:親事業者が下請事業者に有償で支給した原材料などがある場合、その代金の支払いを、その原材料を用いた製品の代金の支払時期よりも早く請求すること。
- ⑨ 割引困難な手形の交付:支払期日までに一般の金融機関で割り引くことが困難な手形(長期の手形など)を交付して、下請事業者の資金繰りを圧迫すること。
- ⑩ 不当な経済上の利益の提供要請:下請事業者に、代金の支払いとは別に、金銭やサービスなどを不当に提供させること。
- ⑪ 不当な給付内容の変更・やり直し:下請事業者に責任がないのに、無償で発注内容を変更させたり、やり直しをさせたりすること。
これにより発生した費用は、親事業者が負担しなければなりません。
下請法に違反した場合の罰則
下請法には、実は直接的な刑事罰はほとんどありません。
しかし、違反が発覚した場合、行政指導や勧告が行われ、場合によっては企業名が公表されるなど、社会的な信用を失墜させる深刻な事態につながります。
行政指導とは別に、以下の場合には、会社の代表者や担当者に50万円以下の罰金が科される可能性があります。
- 発注時に3条書面(発注内容を記した書面)を交付しなかった場合
- 取引記録の書類を作成・保存しなかった場合、または虚偽の書類を作成した場合
- 公正取引委員会などによる立入検査を拒んだり、妨害したりした場合
下請法の相談窓口
次に、下請法に関するトラブルや疑問を相談できる主要な窓口を紹介します。

行政機関への相談・申告
下請法を専門とする行政機関は公正取引委員会や中小企業庁です。
下請法の悩みについて、これらの機関の相談・申告窓口に相談することが可能です。
これらの窓口は無料で利用できます。
公取委の相談窓口
中小企業庁の相談窓口(下請かけこみ寺)
企業法務に強い弁護士に相談する
行政機関の場合、その立場上明確な回答をしてもらえなかったり、十分に会社側の立場に立ってサポートしてもらえないこともあります。
そのような場合には、企業法務に強い弁護士に相談するのが良いでしょう。
弁護士であれば、企業の立場に立って、細やかにサポート受けることが可能です。
会社法務に強い弁護士へ相談するメリットや、顧問弁護士については、こちらのウェブサイトをご覧ください。
下請法と資本金についてのQ&A
最後に、よくあるQ&Aについて見ていきましょう。
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資本金3億円以下の会社は下請法の対象ですか?
自社の資本金が3億円以下であっても、取引の相手方や取引の内容によっては、下請法の「親事業者」として規制される側になることもあれば、「下請事業者」として保護される側になることもあります。
重要なのは、「自社の資本金」と「相手の資本金」そして「取引内容」の3つをセットで考えることです。
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資本金1億円以下の会社は下請法の対象ですか?
特に、資本金が1千万円を超えている会社であれば、注意が必要です。
ソフトウェア開発やデザイン、コンサルティングといったサービス系の取引(情報成果物作成委託・役務提供委託の一部)では、より低い資本金の基準が適用されるためです。
まとめ
今回は、下請法の対象となる資本金の基準を中心に、法律の基本的な仕組みや注意点について解説しました。
下請法は、下請事業者を不当な取引から守るための重要な法律であると同時に、親事業者にとっては、知らず知らずのうちに違反してしまうリスクをはらんだ法律です。
普段あまり意識しない人も多い資本金額ですが、下請法ではその適用を左右する重要な要素であることを忘れないようにしましょう。
デイライト法律事務所では、企業法務に関する豊富な経験と専門知識を持つ弁護士が、皆様のビジネスをサポートいたします。下請法に関するご相談はもちろん、その他企業法務全般について、お気軽にお問い合わせください。
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