弁護士コラム

価値創造型交渉の難所

ビジネス・スキル
執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

所属 / 福岡県弁護士会・九州北部税理士会

保有資格 / 弁護士・MBA・税理士・エンジェル投資家

話価値創造型交渉を目指すとしても、実際にうまくいかないのは何故でしょうか?

問題となるポイントは以下のとおりです。

 

相手方の情報不足

当方、相手方ともWINWINの関係となるために、もっとも重要なことは、相手方の情報をもっていることです。

特に、次の点が重要です。

・相手方の利害関心は何か?
・利害関心の重みは?

 

先ほどの、デイ社とライト社の事案では、デイ社の利害関心は「WEB開発」で、ライト社の利害関心は「マネジメントプログラム」でした。

デイ社は、自社の「マネジメントプログラム」を1か月間、無償で提供してでも、「WEB開発」を行いたいと考え、ライト社は「WEB開発」を無償で提供してでも、「マネジメントプログラム」の1か月間利用したいと考えたのです。

もし、デイ社がライト社のマネジメントの課題という情報がなければ、このような価値創造型の交渉は不可能であり、交渉は打ち切りになったはずです。

そのため、相手方の情報というのは極めて重要といえます。

 

価値創造型交渉においては、別の事例をご紹介します。

例えば、不当解雇をめぐる労働事件において、労働者から解雇の撤回を求めて労働組合から団体交渉の申入れがなされることがあります。

この場合、会社は解雇の有効性を主張します。

この問題の利害関心は「解雇の撤回(復職)」です。当事者双方が最終的に譲歩しなければ、デッドロック(交渉打ち切り)となり、裁判所で戦うこととなるでしょう。

裁判では、最終的な決着がでるまで数年間を要することがあります。
その場合、当事者が負担するのは、高額な裁判費用、肉体的・精神的な負担等です。

会社の場合、業務への支障のほか、従業員のモチベーションや生産性の低下、敗訴の場合は社会的な信用の失墜等の多大なデメリットがあります。

しかし、この種の事件では、労働者の利害関心が復職だけではなく、金銭的な賠償(解決金)であることがあります。

それどころか、労働者が実は復職よりも、多額の解決金の獲得にウェイトがある場合も多くあります。

もし、会社側はこの利害関心について把握できていれば、解雇を認めさせる代わりに妥当な額の解決金を支払うことで、早期に解決できたでしょう。

 

相手方の警戒心と偏見

交渉を難しくする理由の一つに、警戒心と偏見があります。

すなわち、交渉の場面では、交渉の相手が不当に利益を得ようとしていると誤解し、強く警戒することがあります。

また、そこまで考えていなくても、多くのケースでは、交渉は価値を創造するものではなく、限られた価値を奪い合うものという偏見をもっています。交渉を勝ち分配型であるとする偏見があるのです。

このような場合、相手が当方にとっても利のあることを提案しても、騙されているなどと疑心暗鬼になってしまい、交渉がまとまりません。

 

感情的な対立

上記のように、ビジネスのような通常の交渉でさえ、交渉においては相手方への警戒心や偏見がつきものです。

弁護士が交渉を行なうのはビジネスの場面だけではありません。

例えば、個人のクライアントが交通事故の加害者や不貞行為を行った相手方に対して、慰謝料を請求する場合の交渉があります。

このような場合、クライアントは相手方に対する激しい憎悪の感情をもっています。

そして、利害関心は、適切な「賠償金を得ること」ではなく、もっぱら「相手方を苦しめること」となっています。

このようなケースでは、クライアント自身が合理的な判断ができません。

例えば、裁判では慰謝料が300万円程度しか見込めない事案において、もし、弁護士に依頼すれば、裁判の弁護士費用が100万円かかったとします。

裁判で長期化することを考えれば、経済的合理性のみで判断すれば、相手方から200万円の解決金が提示されていれば、裁判を行うことなく示談に応じた方が得策です。

300万円—100万円=200万円

しかし、このような場面において、「弁護士費用はいくらかかってもいいから、相手方を法廷に引きずり出したい。」というクライアントがいます。

クライアントにとって重要なのは、お金ではなく、相手方を苦しめることだからです。

したがって、このような事案では、通常の交渉以上に価値創造型の交渉は難しいといえるでしょう。

 

交渉の場面における情報の過度の秘匿

上記のような、交渉における警戒心、偏見、相手方への悪感情等は、「情報の秘匿」という弊害をもたらします。

秘密主義に徹してしまい、相手方に対しては一切の情報を開示しないというものです。

このようなスタンスでは、双方とも相手方の利害関心を把握することができなくなってしまい、その結果、価値創造型の交渉は不可能となります。

以下、交渉の流儀を解説します。
交渉の流儀、交渉の難所を乗り越える方法はこちらをごらんください

 

 


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