弁護士コラム

資金繰りへの対応【弁護士による解説】

ファイナンス
執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

掲載日:2020年5月1日|最終更新日:2020年5月1日

企業にとって現在資金繰り対策が急務です。

手元流動性という指標を参考に、自社にどの程度のキャッシュを確保していくのか、そのために銀行の融資交渉や売掛金の回収、家賃の支払猶予などの交渉を行っていく必要があり、税理士や弁護士のサポートも検討すべきでしょう。

資金繰りとは?

資金繰り企業がビジネスを行っていくために欠かすことができないものとして、「ヒト」、「モノ」、「カネ」という3つに整理されます。

このうち、資金繰りとは「カネ」に関するものです。

ビジネスを行っていく上では、当然支出を伴います。

設備投資をしたり、従業員を採用したり、物流網を整備したりと企業は売上(収入)をあげるために様々な費用を支払わなければなりません。

新規ビジネスを始める場合、いきなり売上があがることは少なく、先にオフィスや店舗を準備したりする先行投資が必要になります。

また、ビジネスを進めていった場合でも、売上と支出は日々生じていくため、支出を行うためにはやはり「カネ」が必要です。

こうした企業の資金に関するマネジメントを資金繰りといいます。

資金繰りを考えていく上では、同じ売上でもすぐに回収でき、現金化できるものが重要になります。

売掛金を大量に有していてもあくまで債権という権利があるにとどまり、現金が企業にあるわけではないため、支払ができないという事態が生じることもあります。

この現象が、いわゆる黒字倒産です。

したがって、企業にとって、現金や預金、簡単に現金に変えられる有価証券という流動資産をどの程度保有しておくかということが資金繰りを考えていくにあたって非常に重要です。

 

 

資金繰りの指標

弁護士企業の資金繰りに関する指標は、経営学とりわけアカウンティングやファイナンスの分野で様々なものが取り扱われています。

その中の一つで、「手元流動性」という指標があります。

手元流動性とは、企業にどの程度流動資産があるのかをみる指標で、貸借対照表(BS)の現金及び預金の額、流動資産に計上された有価証券の額を企業の売上高との比較で算出します。

手元流動性の算定式

手元流動性 =(現金及び預金 + 有価証券)÷ 売上高(月額)

例えば、現金及び預金と有価証券の合計が 1000万円、月額の売上が 500万円の企業であれば、1000万円 ÷ 500万円 = 2か月となります。

他方で、現金及び預金と有価証券の合計が 250万円、月額の売上が 500万円の企業であれば、250万円 ÷ 500万円 = 0.5か月となります。

手元流動性の違いは売上が減少したときに大きな影響を及ぼします。

すなわち、今回の新型コロナウイルスによる急速な景気悪化や緊急事態宣言による営業自粛要請により売上が大幅に減少した場合、手元流動性が2か月の会社は、売上が全くなくなっても2か月は存続できるものの、0.5か月の会社は、わずか半月でキャッシュアウトしてしまうのです。

そのため、銀行から追加融資を受けるなどしてキャッシュを早急に増やさなければ倒産の危機に瀕することになります。

したがって、手元流動性という指標をもとにどの程度の流動資産を保有しておくかということを日頃から考えておくことが必要になります。

今回の新型コロナウイルスの世界的な感染拡大のような緊急事態においては、手元流動性が高いほど安全性が高いということになります。

そのため、トヨタ自動車やJAL、三越伊勢丹ホールディングスなどが相次いで融資枠の確保を希望しているのです。

 

資金繰りへの主な対応

ビジネスこのように資金繰りの対応は平時から検討しておくことが大切ですが、検討していたとしても、今回の新型コロナウイルスの世界的な感染拡大という事態を想定することはほぼ困難です。

したがって、現在の状況を踏まえて、長期戦も見据えて企業は資金繰りを検討していかなければなりません。

以下では、資金繰りへの主な対応を挙げていきます。

銀行融資を受ける(銀行との交渉)

銀行から融資を受けることで手元のキャッシュを確保するという方法です。

通常は一定の利息を要求されますが、借入れをすることで当座の支払などに借りたキャッシュを充てることができます。

 

売掛金の回収を徹底する

弁護士日頃はそれほど意識していないこともありますが、売掛金が思うように回収できず貸し倒れに至ることがないように、回収を徹底することで手元のキャッシュを増やしていくことが大切になります。

 

新株や社債を発行する

企業がキャッシュを得たい場合、今後の経営戦略を策定し、それに賛同してくれるスポンサーに資金提供をしてもらうという方法もあります。

その方法として新株を発行したり、社債を発行するということも資金繰り対策の一つです。

もっとも、今回のような世界的な景気悪化の場合、なかなかこの方法で資金繰りを短期に行うのは困難です。

 

固定資産の売却

手元流動性が低い場合には、固定資産を売却することでキャッシュを増やすということが考えられます。

固定資産は一般的には不動産や機械類をいいます。

不動産ではありませんが、ソフトバンクグループは今回の新型コロナウイルスの事態を受けて、保有していた株式を数多く売却し手元流動性を高めようとしています。

 

支出を先延ばしにする

手元流動性の計算では、支出の側面はでてきませんが、毎月生じる支出を少しでも先延ばしにすることができれば、結果としてキャッシュの減少を抑えることができるため、手元流動性を高めることになります。

企業には固定費として、家賃や人件費(給与)といったものがどうしてもかかります。

給与の先延ばしは従業員の生活に関わるため厳しいですが、家賃の支払を猶予してもらったり、買掛金の支払を猶予してもらったりといったことができないか検討していくことが必要です。

 

 

資金繰りに困ったら

銀行に相談する

銀行資金繰りに困った場合、借入れを行ってくれないか融資の相談を行うことがまず考えられます。

したがって、銀行に相談するということがやはり資金繰りにおいては先決です。

税理士や弁護士に相談する

他方で、銀行融資を受けるに当たっても、企業の担当者や個人事業主のみで進めてもなかなかうまくいかないということもあります。

また、銀行融資を受けただけで資金繰り対策は完全にOKであるというわけでもありません。

したがって、専門家である税理士や弁護士に相談して、資金繰りのサポートを受けることが必要です。

弊所では、MBAホルダーや税理士登録をした弁護士や事業再生アドバイザー等の資格を保有した弁護士が在籍しており、

  • 融資に関する銀行との交渉サポート(銀行交渉)
  • 経営に関するアドバイス
  • 資金繰りに関するアドバイス
  • 売掛金の回収
  • 家賃等の支払猶予の交渉

といったサポートをしております。

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